討伐クエストは納品完了まで油断してはいけない
「おわッ!?消えた!?」
「んー、クエストが『ブルーボアの討伐』ッスね。ハイハイ、確かに。解体の方は――……ハイ、問題ないッスね」
手元に所持しているタブレットのような端末を見ていたNPCが画面に指で何かしらの操作をすると、彼女のすぐ近くに置いてある小型の発券機から一枚のカードが飛び出してきた。
NPCはそれを手に取って銀の受け皿に置き、仕切りとなっている透明な板の下部に空いている隙間を通してこちらへと差し出してきた。
「じゃあこれ討伐証なんで、あっちのクエストカウンターまで持っていって報告よろしくッス。あー、あとそろそろ戻ってくるんで危ないッスよ」
「危ない?」
言うやいなや、モノリスが消えた床が淡く発光した次の瞬間、目が眩む閃光と共に再びモノリスが出現する。
「うわぁ!?」
「大丈夫か?」
驚愕の声と共に盛大な尻餅をつくモリー。今どきギャグ漫画でもなかなかお目にかかれないレベルの尻餅だ。とりあえずスカートめくれてインナーまろびでてるのみっともないぞ。リアルじゃ男だからスカートに慣れてないのはわかるがせめて脚閉じろ脚。
「あっちゃー、平気ッスか?『解体班』の人らってモニター確認しないで戻しがちなんで、以後気を付けた方がいいッスよ」
「それってこっちが気をつけなきゃいけねぇの!?」
「何回言っても直らないんでこっちが気をつけるほかないッスねー。今みたいに対応はアレなんスけど、モンスターの解体業務に関しては超絶優秀なんでしょうがないッス」
「り、理不尽だ……」
恨めしそうに突如再出現したモノリスを睨みながら、モリーは地面から起き上がる。成績が優秀なら多少の欠点には目を瞑るなんてのはまあよくある話ではあるが、何度言っても直らないのは相当我が強いんだろうなぁと。なんだろうこのゲーム、とりあえず我の強いNPCを各施設に最低1体は配置しなければならないみたいな謎の縛りでもある?それとも偶然か?
「ま、とりあえずケガしてなくて良かったッス。回収カウンターは毎回こんな感じなんで、利用する時は注意するッスよ。先日なんて戻ってきたモノリスに突き飛ばれて天井に突き刺さった人いてほんと大変だったんスから。納品完了するまで油断したらダメッス」
利用する度にケガのリスクがあるギルド施設とか前代未聞すぎるだろ。モンスターを納品したつもりが自分が最悪納棺される危険性を秘めてるとかもう新しいタイプのダンジョンなのでは?
【用語解説】
回収カウンター
冒険者が討伐したモンスターを文字通り回収するギルド内に配置された施設。物体の収納と転送機能のある黒いモノリスを使用して、ギルドの地下に存在する超巨大な解体施設まで転送し、そこに在籍している『解体班』がモンスターを装備の素材や、食べられるモンスターの場合は料理の食材となる適切なサイズになるまで小分けに解体作業を行っている。
ビルの高さほどある超巨大モンスターであっても解体作業に要する時間は最長3分。最短解体時間は3秒。ちなみにブルーボアの解体は15秒で完了する。
回収カウンターに常駐しているギルド職員は、専用のタブレット端末を通じて地下へと転送されたモンスターの確認と解体された素材を確認し、討伐証に明記して発行したカードを冒険者へ渡す流れとなっている。




