翠緑の大草原
「す、すみません取り乱しました……!とりあえずその、討伐頑張ってください……!」
その後、我に返ったのか羞恥で顔を真っ赤に染め上げながら絞り出された激励を受けた俺達は、ギルドを出てブルーボアが生息している翠緑の大草原へと向かった。
翠緑の大草原は昨日向かった大陸ルナティスとは逆方向の東側、大陸サンセットに存在するエリアだ。ムルフィームの街を出てすぐの場所に位置し、瑞々しい青草がどこまでも生い茂っていた。
「昨日1人で採集クエストやってた時思ったんだけどさ、やっぱこのゲームのマップ無駄に広くね?」
「広いな。なんなら最初の街ですらバカみたいに広い」
「それな!移動するのちょっとしんどい!自転車かバイクみたいな乗物でもあればなぁ」
「スマートウォッチみたいなのがある世界観だから、なくはないんじゃね?見つかってないだけで」
「もしバイクあるなら峠攻めてみてー!」
「現実と違っておそらく舗装されてない道で峠攻めは事故待ったなしだろ……」
なんか昨日も似たような会話をしたような気もするが、男子高校生の会話は知らない内にループしていたりするものである。そんな他愛のない会話をしながら大草原を探索していると、近くの茂みから何やらガサガサと動く音と獣の吐息が聞こえてきた。
「ストップ、なんかいる」
「マジ?どこ辺り?」
「あのやたら長い草で生い茂ってる場所。不自然に草が動いてる」
「目的のヤツ?」
「かもしれない。とりあえず牽制してみる」
地面に落ちていた小さな石ころを掴み取り、茂みに向かって投擲スキルを使い投げ入れる。筋力が上昇している影響か、かなりの速度で突き進んだ小石が茂みに入ると長草が大きく揺れ動き、そこから牛みたいなサイズの巨大猪が飛び出してきた。
「ブモモォ!!」
「デッッッッッッカ!牛かよ!?」
「若干青みがかった毛並みの猪、たぶんブルーボアだ。んじゃ打ち合わせ通り削ってくるわ」
「おう!任せた!トドメはオレに任せとけ!!」
小石をぶつけられて興奮状態のブルーボアの前に飛び出し、道中モリーと打ち合わせした通りに動く。
とはいえやることは至極単純で、『俺がいい感じに削ってモリーがトドメ』それだけ。打ち合わせ5秒で立案して承認された作戦である。本当に作戦かこれ?
ブルーボアの残体力が見えないのでどの程度削っていいもんなのかわからんが、まあ何かしらの弱りモーションが見えたらそこでモリーにバトンを渡せばいいだろう。
トネルオラージュも弱りモーションを見せてからすぐだったからな、わかりやすいのは動きが緩慢になったり脚を引きずったりするとかだろう。よし、とりあえず斬るか。
『瑞氷』を鞘から抜き取り、構える。穢れを知らぬ純白の刀身を構えて、ブルーボアと相対する。
「ブモ……」
攻撃の意志を示した事で、ブルーボアがこちらを睨み付ける。前脚で地面を掻きながら、頭を僅かに下げる。猪なら猪突猛進って四字熟語があるくらいだ、直進的な突進攻撃が主な攻撃手段だろう。
「――ブフォォ!!」
威勢のいい鳴き声と共に、地面を蹴ってブルーボアがこちらへと迫る――、のだが。
「…………おっそいな?」
トネルオラージュとの戦闘もあったからか、まあ動きがものすごく遅く感じる。少し早い自転車くらいの速度で迫るブルーボア。まあCランクのクエストだし、初心者向けのモンスターだとすればまあこれくらいが妥当なのだろう。
軽々と突進攻撃を回避して、すれ違い際にブルーボアの横っ腹に横一文字で斬りつける。
「ブモオオオオオオ!!?」
そして耳を劈くような絶叫を響かせたブルーボアはその場で倒れ込み、そしてピクリとも動かなくなった。
「………………ん?」
……あれ、もしかして一撃で倒しちまったかこれ?流石にレベル差ありすぎた?




