お役所仕事はしんどいものです。特に受付
「じゃあそれでやるか。そういえばランク上げるまであとクエスト何回?確かCランク10回だよな?」
「あと1回!めちゃくちゃ昨日の夜頑張った!!」
「休みとはいえ徹夜でゲームもほどほどにしとかないと、平日の学校辛くね?」
「え?眠かったら寝るけどオレ」
「……そうだった、そういう奴だったなお前。ま、いいか。とりあえず行くか」
「っしゃー!やってやるぜー!カジノがオレを呼んでるぜ!!」
気合を入れるように両手でガッツポーズを取ったモリー。やる気の原動力は昨日断られたカジノなのか、まあ門前払いだったもんな。
ふんすふんすと肩で風を切りながら突き進むモリーの後ろ姿を追い、ギルドの中へ。
なぜか人混みが割れるようにモリーの進む道が開くのを不思議に思いながらクエストが張り出されている掲示板の前に到着。
「なんの討伐クエストやるんだ?」
「んー、とりあえず『ブルーボアの討伐』!1体だけだし楽そう!」
「じゃあそれで行くか」
受諾するクエストを決め、長蛇の列を形成しているギルドのカウンターへ。それから適当にモリーと駄弁りながら待っていたら順番が回ってくきた。1人で待つよりやっぱ会話してるとあっという間に時間過ぎるな。
「お、お待たせしましたー……!次の方ー……!」
「ランナちゃんスッゲー顔!もしかして疲れ気味?回復魔法いる?」
「ああ、モリー様……。き、気持ちだけ受け取っておきます……『キュア』で精神的ダメージは回復しないんですよ……っ」
モリーがランナと呼んだカウンターに立つ薄水色で左目が前髪で隠れたNPCは、見るからに疲労困憊といった顔つきだった。まあこの大混雑してるギルドで延々と対応してたらそりゃこうもなるだろう。頭上に付いている犬っぽい耳が心のパロメーターを表わすかのようにヘニャヘニャにへたりこんでいた。
というかだいぶ親しげな雰囲気だな。まあ人と打ち解けるの早いタイプの人間だしな龍斗。
「そうなのかー、まあガンバ!とりあえずクエスト受付お願い!あと一緒にこのクエストやる友達いるんだけど」
「か、畏まりました……。受諾されるクエスト名は……?」
「えーっと、……なんだっけ? 『ブルガリアの討伐』だっけ?」
「『ブルーボアの討伐』な」
ブルーボアじゃなくてブルガリアじゃあ猪の討伐から国攻めになってんじゃねーか。侵略戦争を仕掛けるのが初心者向けであってたまるか。いやまあこのゲーム内にブルガリアって地名の国があるかは知らんけど。
「『ブルーボアの討伐』ですね……。はい、同行される方は、そちらの方でよろしいですか……?」
「はい。よろしくお願いします」
「で、では、まずモリー様から端末へステートウォッチのスキャンをお願いします……。続けてお連れ様にスキャンして頂き、同行者としてクエストを受諾しますね……」
指示に従い、差し出された端末へとステートウォッチをそれぞれ翳して登録を済ませる。
「はい、受諾完了しました……。今回は採集クエストではなく討伐クエストになるので、ブルーボアの討伐が完了したらまずあちらの回収カウンターへ討伐したブルーボアを引き渡して頂き、討伐証を受け取って下さい……。それから討伐証を持ってこちらに来て頂き、討伐証と照合して問題がなければクエスト達成となります……。討伐したブルーボアですが加工用の素材として受領するか、換金してクエスト報酬に上乗せするか選べますので、詳細はその時にまたお伝えしますね……」
「ほえー、……なんかメンドーじゃね?」
「それは私も思ってます……!御説明しても御納得して頂けない方もいて、私が何度御説明してもご理解して頂けない方もいて……!……私だって、私だって、好きでわかりにくい事をお伝えしてるんじゃないんですよぉ……!」
「えぇ……」
いいんだ?そういうのぶっちゃけていいんだ?普通は愛想笑いで流したりするもんだと思うが、やっぱ一味違うなこのゲーム。




