天才は常識の埓外にいる
長々と解説をしてくれたフェルパさんは、眼帯を元の位置に戻すとこちらを向いて妖艶な笑みを浮かべてゆっくりと口を開いた。
「まあ口で説明するより実際に見せた方が理解はしやすいだろう。少年、この手甲を少々拝借させてもらうよ」
はいどうぞ、と俺が返事をするのを待つ事もなくフェルパさんは『恢白』を両手に装備すると、どこからともなく先端に巨大な宝石が付いた黄金に輝く杖を取り出した。
「――いや待ちたまえ。座っていては格好がつかないな?……ふむ、見栄えの為に立つとしよう」
どうも謎の拘りがあるのか、フェルパさんは椅子から立ち上がる。
「さてと、これで――……うーむ、少々手狭だな。少年、机と椅子を壁際に移動させる、手伝いたまえ」
「は、はい」
フェルパさんは取り出した杖を虚空へ消すと、座っていた椅子を持って壁際まで移動させる。俺も言われるがまま、部屋の中央に置かれている机と椅子を壁際まで押し動かす。
うん、なんかかなりクセ強いぞこの人?変じ……奇人とか、鬼才とかそういう類いの人種だ。話が通じるようで通じない、と見せかけて通じてはいるタイプ。
現実にいたら間違いなく一目置かれるし、物理的に距離も置かれる部類の人間。
いやまあ頭上のネーム表示されてないからフェルパさんはNPCなんだけども。キャラ設定が特濃すぎる。
「これでよし」
机と椅子を壁に押しやり、やや広くなった一室の中央にフェルパさんは立つと、再び黄金の杖を取り出した。そして掴んだ杖の先端で床を軽く小突くと、魔法陣のような紋様が浮かび上がった。
それから屋内にも関わらずどこからともなく風が吹き始め、椅子や机がカタカタと音を立てて揺れ動く。直後、杖を掴んでいる『恢白』が一際眩しく発光すると同時に、黄金の杖から色鮮やかな光の奔流が溢れ出して魔法陣へと吸い込まれていく。
「我、現世より常世に連なる者を喚びけり。――応えよ、答えよ。我が呼声を聞き届けたならば応答せよ。汝の意を示せ――――『魔人形』」
魔法の詠唱が終わると同時に、魔法陣は眩い閃光を炸裂させた。あまりの眩しさに思わず顔を背けるも一足遅く、まともに直視してしまったせいで視界は完全にホワイトアウトを起こしてしまい、何も見えなくなってしまう。ただ幸い閃光弾のような炸裂音はしなかったので、音は問題なく聞き取れる。
「――……こ、ここは……?……休憩室?…………あれ?でも、私さっきまで」
「やあサラーブ、元気そうでなによりだ」
「あ、店長私どうし、……なんか寒い……、………?~~~~ッ!?!?」
視界が完全に白飛びした状態で何も見えないが、どうやら『恢白』の中に吸収されてしまったメイドさんの救出には成功したようだが、なにやら声にならない悲鳴が。なんだ、何が起こってるんだ?
「さて、ご覧頂けただろうか少年?これがワタシが生み出した『魔人形』の魔法だ」
「……すみません、魔法陣の閃光を直視したせいでいま何も見えてないです」
「なんと」
こういうのはだいたい数秒もすれば回復するのだが、完全に真っ白の状態で復帰する気配がない。もしかしてバグだったりするか?
「あ、あの……!ま、ままま店長!な、なんッ、なんで私服着てないんですか……ッ!?」
「ふむ?言われてみれば確かに。この手甲内部に貯蔵されていたサラーブの魔力を全て解放したつもりだったが、どうやらそもそも完全に吸収しきれていなかったらしい。それで再召喚をする際、魔力不足により服の精製が省略されてしまったようだね。なるほど、魔力不足で無理矢理再召喚すると、こういう事象も起こり得るのか」
「解説はいいのでふ、服を!店長私これだとどこにも行けません……ッ!?」
「ああ、すまないサラーブ。ワタシの悪い癖が出てしまった。いますぐ用意しよう――『魔法仕立ての拘束衣』」
「――っ、……ほっ」
メイドさんの安堵の息が溢れると同時にホワイトアウトが収まり、視界が元に戻る。バグにしては復帰タイミングが絶妙すぎるから、恐らく仕様だろうか。表現規制の一種か?




