マスター・フェルパ
シニヨンヘアのメイドさんの後ろを連れ歩き、バックヤードを抜けて案内されたのはこじんまりとした一室。簡素な長机と椅子が等間隔に配置された休憩スペースのような部屋だった。
「ここで暫く待っていてもらえるかしら。店長を連れてきます。くれぐれも、逃げ出そうなんて馬鹿な真似はしないように」
釘を刺すようにわざとらしく語気を強めたメイドさんは、入口の扉をバタンと叩くように閉めて退室していった。不慮の事故で決して故意ではないのだが、相当ご立腹のようだ。好感度ゲージがあるならマイナス域だろうな。
無論、逃げ出すつもりは毛頭ないので椅子に腰掛けて暫く待っていると、ものの数分で出入口の扉が開き、先程出ていったシニヨンヘアのメイドさんが戻ってきた。
その背後には右目に眼帯を装着し、メイドさんと同じ銀髪で外にハネたセミロングヘアの女性がいた。件のマスター、店長だろうか?
「この少年かな?」
「はい。他のお客様とサラーブが接触し、サラーブが倒れそうになった所を彼が支えようと触れた直後、サラーブが消えてしまいました。彼が説明するに「装備のせい」との事で」
「ふぅん?見ない顔だ、ご新規さんかな?」
「エクレトゥール様のお連れの方です」
「ヴィレさんの店の用心棒だったかな?そうかそうか。…………ふーむ、大体理解した。ミラーシ、業務に戻っていいよ。後はワタシが対応する。他のみんなにも業務を優先するように伝えておいてくれたまえ。サラーブもすぐに戻る」
「ッ!ほ、本当ですか!?」
「サラーブの気配は消えていない。そこに在るならあとは呼び戻すだけさ」
「しょ、承知しました。ミラーシ、通常業務に戻ります」
完全に蚊帳の外だが、どうやら問題は解決の目処が立ったらしい。このゲーム、プレイヤー放置で物事が進む事がままあるの、自由過ぎると思う。
背筋をピンと伸ばし、手を前に添えてペコリとお辞儀をしたシニヨンヘアのメイドさんはそのまま部屋から音もなく出て行くのだった。
「――さてと、勝手に話を進めてしまってすまない少年。まずはそうだね、少々遅くなったが自己紹介をさせてもらおうじゃないか」
対面の椅子ではなく、何故かすぐ真横に置かれた椅子へ脚を組みながら座った女性は、テーブルに頬杖をつきながら次の言葉を紡ぐ。
「この店の店長、フェルパだ。よろしく頼むよ。――それでさっそく本題なんだが少年、脱いでくれないか?」




