店内ではお静かに
ポツンとフロアに残される俺。メイドのイルシーさんは慣れた手つきでテーブルの片付けをしていた。強制イベントも終了したことだし、ここに留まっておく必要はない。俺も店を出るとしよう。
ただその前に会計だ。エクレトゥールさんはツケ払いで去っていったが、支払いは個別。俺はツケ払い出来る常連ではないのだから、このまま店から出たら食い逃げになってしまう。
ゲームのシステム的にはおそらく食い逃げも出来るのだろうが、そういった行為をわざわざやるメリットはない。ましてやこの店の常連が連れてきた人が食い逃げなんてしようものなら、当人のメンツにも関わるし、何より事がバレた日には物理的な吊し上げ待ったなしだ。串刺しも追加だろうか?まあともかくノーリターンハイリスクの手段は取るべきではない。
「すみません、支払いお願いします」
「承知しました。会計は1階での対応となりますので、階下までご案内致します」
器用に空になった皿を腕に乗せたイルシーさんに先導されて、階段を下り1階へと向かう。その途中で銀髪の執事がやってきて、イルシーさんの抱えていた皿を回収していった。顔立ちをよく見たらなんか似ていたので、もしかして姉弟だったりするのだろうか。
そんな他愛のない事を考えながら、会計カウンターまで案内される。
「他のお客様が会計中の為、こちらで暫くお待ち下さい」
イルシーさんはそう告げて、会計処理をしているシニヨンヘアの銀髪メイドに何かを耳打ちをして去っていった。眼前にはさっきのギャル集団がワイワイと談笑しながら会計を行っていた。
「ルルの爆食いやばかったー!秒でパフェ消えてくのマジエグかったんだけど!」
「ちょっ!?ばかセン急に――っ!?」
オレンジ色の短髪少女が大食いメニューを頼んでいた紺色サイドテールの少女に抱きついた直後、大喰らいの少女はバランスを崩して丁度すぐそばを歩いていた気弱そうな三つ編みの銀髪メイドとぶつかった。
「――わっ!?」
「――きゃっ!?」
サイドテールの少女はその場で踏みとどまったが、小さな悲鳴と共にメイドは倒れそうになり、反射的に動いた俺は倒れるのを防ぐ為に両肩を掴んだ。
――――はずだった。
ガラスが砕けたような、陶器が割れたような、とにかく甲高い音が響き渡ると同時に、確かに掴んだはずの両手は何も握っておらず、眼前にいたはずのメイドの姿が完全に消え去っていた。




