甘味処『シュクレ』
一度もこちらを振り返ることなく進む後ろ姿を追いかける事数分、テラス席のある店の前立ち止まった彼女は、巨人族も悠々通れる巨大な扉を押して店内へと入っていった。この店が『シュクレ』か。
テラス席は先程まで雨が降っていた影響か誰一人として座っていないが、備え付けられた窓から覗ける店内の様子を伺うと、どうやら混雑しているようだ。客はプレイヤーとNPCの比率は半々といったところか。
とりあえず俺も店内へと入店すると給仕服……というかメイド服だな、ロングドレスタイプのシンプルなデザインを身に纏った従業員と思しきNPC達が忙しなく店内を歩き回っていた。
というか先に入店したはずの彼女の姿が見えない。黒の外套だから一目で目立ちそうなものだが……。
ぐるりと店内を見渡すと客席と厨房らしき場所を区切るように設置されているカウンターには執事服を纏ったNPCが数人立ち並んでおり、コーヒー豆や茶葉らしきものが入ったコルクで蓋のされた透明なガラス瓶が色鮮やかに置かれていた。すぐそばにはカゴに山積みにされた果物とミキサーが存在感を放っている。
巨人族も入れる店なので天井は高く、吹き抜けがあり開放感がある店内だ。壁沿いにある階段を登れば二階にも行けるらしい。そして店内の至る所から甘い風味やコーヒーの焙煎された香りが漂い胃袋を刺激する。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「この『季節の果実盛り合わせタルト』とレッドマウンテンで」
「アタシは『あまくてふわふわシフォンケーキ』とオレンジジュース!」
「あーしこの『テラ盛り爆盛りギガントキングパフェ』とミックスジュース」
「ルル、アンタまたそんなの頼んで……」
「やっば。食べ切れるん?無理ゲーじゃない?」
「あーしの胃袋なめんなし。リアルでもこんくらいよゆーだし」
見るからにザ・ギャルといった感じのプレイヤー集団がケラケラと談笑している会話が耳に届く。メニューの名前もだいぶ現代かぶれというか、コラボカフェとかでも普通にありそうな品名になっているなと考えていると、突然眼の前に執事服のNPCが現れる。
「白髪で剣士の装い、エクレトゥール様のお連れの方ですね。エクレトゥール様はすでに二階の座席でお待ちです、御案内致します」
金髪碧眼という王道も王道な容姿の執事が二階への階段を指し示す。
……エクレトゥール様、フィーさんには確か『エクレちゃん』と呼ばれていたが、あだ名だったのか。というか名前、全然自分から名乗らないものだから判明して助かった。
先導する執事の後について階段を登り、二階へ脚を運ぶと一階に配置されているモノより豪華な意匠の施されたテーブルが置いてあり、それとセットで配置された椅子に座るエクレトゥールさんの姿があった。
その背後には、黒縁の眼鏡をかけた銀髪メイドが静かに控えていた。エクレトゥールさんの専属なのだろうか?全く微動だにしない佇まいから熟練オーラが滲み出ていた。




