一体いつからNPCは詐欺をしないと錯覚していた?
「…………とにかく、あなたが手にした武器は事と次第によっては彼女の沽券に関わる代物だという事を自覚すべき。さっきみたいな醜態を晒すなら、例えヴィレジャスが認めた人であっても、私は店の評価を貶める存在を許すわけにはいかない」
キラリと彼女の袖部分から漆黒の短剣が姿を覗かせた。「『瑞氷』を使っておいてヴィレジャスさんや店の評判を下げるような行動を取るなら、その命で償ってもらう」とでも言わんばかりの鋭い眼光が全身に突き刺さる。
「き、肝に銘じておきます」
「…………、こんなにも長話をしたのは久しぶりで少し疲れた。『シュクレ』には引き続き向かうけど、数分も歩けば到着する距離だから徒歩で向かう。それまでに、さっきの話の返事を考えておいて。私の見立てが間違ってなければ、あなたはまだ成長出来るはずだから」
左手に巻かれた鎖も解いて速歩きでスタスタと進み始めた後ろ姿を、俺は慌てて追いかける。普通に歩いているだけなのにめちゃくちゃ脚が速い。素の敏捷がかなり高いのか、こちらは小走りでないと見失ってしまいそうだ。
1番街を抜けて2番街に入ると、立ち並ぶ建物のあちこちから活気の良い声が飛び交う。2番街は料理や雑貨を扱う店が多く存在する区画だ。街中を進むと仮想空間内にも関わらず、そこかしこから香ばしい香りが漂ってきて嗅覚を刺激する。
この仮想空間にも関わらずどうやって匂いを再現しているのか、昔気になって調べてみたけど何が書いてあるのかさっぱりだったんだよな……。嗅覚細胞から発せられる電気信号を解析してウンタラカンタラ、仕組みはよくわからないけど、なんかすごい技術が使われてる事しかわからなかったっけ。
「さあよってらっしゃい見てらっしゃい!今朝取れたばかりの新鮮な果実が選り取りみどりの詰め放題!!1袋1000Gの大特価だ!!」
「外はカリッカリ!中はふんわりジューシー!『ブルーボアの串焼き』はいかがですかー!?1本300G!2本はなんと500Gでお買い得ですよー!!」
「あっ、そこのお兄さん!市場で滅多に出回らない『竜肉』!『竜肉』に興味はありませんか!?実は超希少な『竜肉』の中でも3本の指に入る『カザツマードラゴン』の腿肉を仕入れる事が出来たんですよ!たった一切れで10000Gするところ、なんと半額からの半額で2500Gの大特価!どうです?一口食べるとが多幸感のあまり気絶するレベルの一品に興味は!?」
「テメーこの前そう言って食わせたヤツ毒入り肉だっただろうが!ようやく見つけたぞこの詐欺野郎!!治安維持部隊に突き出してやる!!とりあえず俺から奪った諸々返せオラァ!!」
「げぇ!?あんた睡醒者だったのかよぉ!?」
賑やかで和気藹々とした雰囲気が漂う中に怒号が混ざり合うのを耳にしながら、2番街を駆けていく。NPCでもプレイヤー相手に詐欺を働いたりするのか、油断ならないなこのゲーム……。




