『開祖』と『王匠』に並び立つ者
「…………睡醒者達は突然覚醒した変異体。数刻もしない間に急成長を遂げるのはざらにある、それも任意で。あなたが敏捷性を更に成長させる事が可能であるなら、走法を指導してあげてもいい」
急成長、ステータスアップの事だろう。要約すると「敏捷を倍にすれば走法を教えてあげる」と言ってるようなものだろうか。
しかしなぜこんなにも親身になってくれるのだろうか。NPCの好感度判定的にこの疑問をそのまま投げかけていいものか、判断に迷う。
まあ文字通り脚を引っ張って迷惑をかけても、少し機嫌を損ねた程度で変わらず接してくれているのであれば、多少の不躾な問いかけでも問題ないだろう。引っ張ったのは脚じゃなくて手だが。
「えっと、その前に一ついいですか?」
「…………何?」
「どうしてそこまで親身になってくれるんですか?」
「…………?質問の意図がわからない。私が個人的に興味を抱いたから話しかけているだけで、別に親身になった覚えはない。過程はどうあれ、あなたはヴィレジャスに認められて『瑞氷』を授かった。それだけで気に掛けるには十分すぎる理由。あなたが思っている以上にあの武器は特別」
「『瑞氷』ってそんなにすごい武器なんですか?」
「…………睡醒者達は元は私達と同じ存在なのに、この世界の常識が欠落した状態で目覚めるから知らなくても無理はない。ヴィレジャスは『開祖』トバルカイン、『王匠』アルベリッヒと並ぶ三大工匠の一人。この星に生きる人なら大半が彼らの存在を認識している。彼らに並ぶ工匠が鍛造した武器、最高傑作に至る為に生み出された試製の調整品とはいえ、特別である事に変わりない」
三大工匠、『瑞氷』の説明文にも書いてあったな。『開祖』と『王匠』とはまた随分と仰々しい異名だ。只者じゃない雰囲気はあったが、ヴィレジャスさんはそんな大物達と並ぶ程の存在なのか。
「…………三大工匠について詳しい話が知りたいなら本人かフィーに聞いて。とにかく、あなたが手にした『瑞氷』はそれだけの代物。全部で八本ある試製の一つ、その担い手にあなたは選ばれた」
「『瑞氷』と同じような武器、他にもあるんですね」
「…………『雪月天』と『無明』にはそれぞれ試製武器が各4本存在する。本人がいない所で説明する気はないから、これも気になるなら本人かフィーに聞いて」




