【魔導刻印】と【魔装文身】
「うーん、うーん……昼食を我慢せずに店を閉めるべきか、昼食を我慢して店を開けておくべきか……。お師匠様って一度休むって言ったら今日はもう絶対お店には戻ってこないし……今日の売上目標も微妙に未達……!――お兄さん!わたしどうしたらいいと思います!?」
「えっ」
まさかのキラーパスである。こういうことってNPCなら自分で判断するんじゃないのか……?それともなんらかのイベントの開始フラグだろうか。
「あー……そう、ですね。売上目標未達ってどれくらい足りてないんですか?」
「120万Gくらいです!あと何かしら1点でも売れてくれたらもうお店は閉めちゃっていいと思うんですけど、昼以降のうちのお店は客足がほぼないので……」
つまり『瑞氷』と『恢白』をちゃんと値段をつけて販売していれば余裕で売上目標は達成出来ていたと。別に俺はなにも悪いことをしたわけではないんだけど良心が痛む発言だ……。
「なら自分が何か買いますよ。『瑞氷』と『恢白』のお代、払ってなくてなんか申し訳ないなって思ってたので」
リペアドランの素材もミサさんから譲り受けたものだし、実質タダでこんな良装備を入手したらあとで幸運の揺れ戻しが起こりそうなんだよな。確率は収束するものだし。上振れたらまた上振れるとは限らない。
なので下振れを引かない為に徳を積もう、功徳を稼ぐのだ。いやまあ見返り求めてる次点で善行なのかと聞かれたら微妙なラインだけども、やらない善よりやる偽善。
「お代の事はお兄さんが気にする必要ないですよ!?こちらで勝手にやったことなので、お兄さんが気に病む必要なんてぜんぜん!ぜんぜん…………、……ち、ちなみに何をお求めですかぁ……?」
口では俺の提案を拒否しても降って湧いた解決策には抗えないフィーさんは、おずおずと上目遣いで尋ねてくる。
うーんそうだな、ならさっき話してた魔法関連の装備で手頃な価格のモノがないか聞いてみるか。
「さっき話してた魔法関連について興味があるので、予算150万G以内で何か見繕ってもらえると」
「魔法!」
その二文字の単語を耳にした途端、フィーさんの瞳がキラリと輝いた。
「魔法は装備品に刻まれた【魔導刻印】に魔力を流して発動するタイプと、身体に刻まれた【魔装文身】に魔力を流して発動する2種類があってですね!基本的には睡醒者のみなさんやそうではない人族、亜人族、機人族は【魔導刻印】で魔法を使います!【魔装文身】はルナティスの王族やそれに連なる者達の間で相伝されているもので、【魔導刻印】の刻まれた装備を使わず、体内で魔力を練り上げる事で己の身ひとつで強力な魔法を放つ事が出来るんです!!風の噂で睡醒者の方が授かったような話を聴いたりしましたけど今は関係ないので割愛します!!予算150万Gであれば用途によるんですけど、お兄さんは見た限り近接戦闘型だと思うので無難に回復魔法の【魔導刻印】の刻まれたモノがオススメですかね?ちょっと店に出せてないものも含めて用意するので待っててください!!」
決壊したダムのように言葉の大洪水を一気に浴びせて、フィーさんは駆け足で工房へと消えていった。
興味のある分野でスイッチ入った親友も同じ事するから会話の内容はなんとか咀嚼出来たけど、完全初見じゃ右から左に突き抜けてもおかしくないのではなかろうか。




