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沈黙は金、雄弁は銀

「私は全然構わないけど……どうしようリラちゃん」

「うちは反対やね。レベに余計な事吹き込みそうな気配がする男はお断りや」

「回復に頼らなかったのは評価にならねェすかリラちゃんさん!?」



両者の間に挟まれどちらに肩入れするか逡巡していると、ピシッという何かに亀裂が入るような音と共に周囲の気温が低下し肌寒さを覚える。



「うちの事を『リラちゃん』呼びしてええのはレベだけなんやけど、忠告聴ぃとらんかったみたいやねぇ」

「……あ゛ッ!—―いやッ!ちがッこれは」



リーラライフさんを愛称で呼ぶという地雷を踏み抜いてしまったカシさんは酷く狼狽し、弁明の言葉を絞り出そうとする。



「レベ、とりあえずうちお腹空いてもうたから、さっきの〝約束〟果たして貰ってええ?」

「え?あ、うん! いつもの場所でいいよね?」



しかしリーラライフさんはそんな事などお構いなしに、冷ややかな目でカシさんを一瞥したあと俺達に背中を向けて歩き始めてしまった。



「せやね『シュクレ』でええよ。B()()()()()()()()()()()()入店出来ひんから邪魔も入らんし、ゆっくり反省会といこか?指導する側があんな無様な戦い見せたらあかんよ」

「うっ、お手柔らかにオネガイシマス……」



何か含みのある言い方をしたリーラライフさんと気まずさから頬を掻いて背中を丸めるレベさん。


『シュクレ』何かしらの食事をする店名のようだが……。

気になった発言を考察しているとレベさんのそのすぐ近くを一人のプレイヤーが通り過ぎ、リーラライフさんの元へ駆けていくのが見て取れた。



「リーラライフ様!あの!回復に頼らず戦闘訓練を逃げ切ったのですが……!恩賞か薫陶を賜りたいのですが……!」



そういえばギブアップせず、ひたすら逃げ回っていたエルフが好きなプレイヤーがいたような。

レベさんとの戦闘に注視していたからそっちは把握していなかったのだが、どうやら逃げ切れたようだ。



「んー?ああ、そないな事も言うとったね。……せやね、逃げるのも立派な戦略の一つやけど、逃げは基本的に最終手段やさかい、それ以外の攻撃や防御の手札も切れるよう戦略と戦術は増やさんとあかんよ?精進しぃや」

「ハッ!!精進致します!!」



カシさんとは別の意味での深々としたお辞儀を繰り出すプレイヤーに、リーラライフさんは下げられた頭をぽんと叩いた。



「—―ッ」



そして突如倒れ込むプレイヤー。



「わぁ!?なにしたのリラちゃん!?デバフかけた!?」

「レベはうちのことをなんやと思うとるん?せぇへんよ、そないなこと」



慌てて倒れたプレイヤーの元へと駆け寄るレベさんと、眉間にシワを寄せて少しムッとした表情を浮かべるリーラライフさん。


倒れたプレイヤーは起こそうとしてくれるレベさんを手で静止させながら、自力で立ち上がる。



「…………も、申し訳ありません。嬉しさのあまり一瞬気を失いました」

「そんなことあるの!?」

「あるからそうなったんやけどね」



あまりにも濃すぎる印象を残したプレイヤーは二人に深々と会釈して出口へと向かっていった。

周囲を見れば他のプレイヤー達も落とした武器をそれぞれ回収して出口へと足を運んでいる。


呆気に取られてばかりで置いてけぼり感をそこはかとなく抱くが、とりあえず俺も出口へと向かうとするか。



「レベさん!リーラライフさん!戦闘訓練、ありがとうございました!」



立ち去る前にレベさんとリーラライフに別れの挨拶。

談笑していたレベさんとリーラライフさんは俺の声に反応すると、こちらを向いてレベさんは朗らかな笑みを浮かべて手を振り返してくれた。



「はーい!訓練お疲れ様!またね!」

「うちらは大体ここにおるから高度な訓練がしたいなら受付で話通してみるとええよ。うちらの都合次第やけど、また直接指導してやるさかい」

「ありがとうございます」


「ならまた来てもいいンすか!?」



会話を聴いていたカシさんが会話に割り込んでくる。

レベさんは若干眉を顰めるも、肩を竦めながら仕方ないといった表情でカシさんの疑問に答える。



「赤髪の兄ちゃんは別や。うちらが教えられることはもうなさそうやから『闘技場』でもムルフィームの『外』でも好きにしぃや」



まあカシさんの戦闘技量は頭一つ二つ抜けてたからな……。

訓練の必要なんてなさそうだし、なんならこちらから教えを請いたいレベルだった。

二本の刀を巧みに操りパリィも難なく使い熟す。

吹き飛ばされても空中で体勢を立て直せる優れた平衡感覚と身体操作。

出逢って間もないのでカシさんの経歴は不明だが、裏打ちされた確かな経験が雄弁に物語る圧巻の操作技量はとても目を引いた。


いやまあ別の意味で一般プレイヤーからはドン引きされてたけれども。それはそれ。



「あ、闘技場ならたまに私も顔出してるから今度はそっちで戦おうね!」



闘技場、確かムルフィームの4番街にある施設だったか。

対人戦が盛んに行われている場所くらいしか知識として事前に調べてないが、NPC含めて戦闘技量が優れた者が集っているのなら、俺自身の戦闘時の立ち回りの参考になるかもしれない。

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