あぶく銭は身につかない
「偶然でも困ってるプレイヤーの為に動いた事実に変わりはねぇって。立派立派!」
ランゼルは褒めるように俺の左肩をバシバシと叩いた。
それと同時に若干のダメージが入った。
おい嘘だろボディランゲージでダメージ入るの!?そういや装備込みで筋力400以上とかなんとか言ってたけども!?
ランゼル当人は俺にダメージを与えた事に気づいている様子はなかった。そもそも本人的には軽く肩を叩いただけでダメージ入る仕様だとは思わないだろうし、誰が悪いかといえばこういう細かいプレイヤー同士の接触でもダメージが入るように設定した運営なんだろうが。
「それじゃあオレはこのあと用事あるからそろそろ行くわ、またな」
「はい、またどこかで」
そういうとランゼルはミサさんが立ち去ったのと同じ方角へと駆け足で去っていった。
ランゼルは特に他の各二人組には挨拶もせずに立ち去ったけど、そこまで律儀にやらなくもていいのだろうか?
……まあなんか挨拶しないのはしないでモヤモヤするから、とりあえず一言だけ言い残して俺も立ち去ろう。
「レイド戦お疲れ様でした、失礼します」
「お疲れ様さま!」
「お疲れ」
「おー、お疲れ」
「おう!ゴクローさん!!」
ペコリと軽く会釈をしながら別れの言葉を告げ、それぞれ4人から労いの言葉を受け取った俺はこの場を後にした。とりあえず回復アイテムが尽きたので回復アイテムを補充にしに行くとしよう。
雨はすっかり止み、水たまりと戦闘の余波で瓦礫の混じった道を進み、アイテム屋へと歩を進める。
『ディパート』に到着後、目撃するのは人、人、人。たまに巨人、小人、エルフ、機人。つまるところプレイヤーがごった返しになっており、店から店外へと人が完全に溢れてしまっていた。
そりゃまあいきなりログインしているプレイヤー全員にゲーム内通貨で150万配ったら店に殺到するのも已む無しである。どうすんだこれ、しばらく入れる気配がないぞ?もはや怒号に近い声が至る所から聞こえてくる。
「いってぇなぁ!?誰だいま押したの!」
「う、動けん……!」
「ちょっとそこにいられるとその棚のアイテム取れないじゃない!」
「このマナポーションは私が先に取ったんだけど!?」
「はぁ?私の方が早かったんですけど!?」
「もうこれ物売るってレベルじゃねぇぞオイ!?」
うーん、ダメだろこれ。もはやちょっとした暴動レベルだ。すぐ隣に隣接している武器屋の『フォルジュロン』もプレイヤーという名の波が押し寄せて氾濫し、あちこちで喧騒に満ちている。しばらくは入れなさそうだなこれ。




