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戦闘訓練-終了‐

「あちゃー、やられちゃ――あいたっ!?」

「はいはい、もう時間やさかい。5分過ぎてもうたからこれで訓練はお開きやね」



攻撃を受けた衝撃で地面に尻餅をついていたレベさんが小さな悲鳴を上げたと同時に、リーラライフさんがこちらにやってきて訓練終了を告げた。


二人の攻防に見入ってしまったせいで無情にも時間切れとなり、残念ながら俺は制限時間内にレベさんに攻撃を当てる事が出来なかった。



「あれ?もう終わり?」

「まあ5分なんてあっという間やからねぇ。そんなことよりレベ、傷治したるさかい」

「わぁ!ありがとうリラちゃん」


「最後のアレなんすかカシさん!?ヤバくないすか!?」

「兎にも角にも隙を作らねェ事には一撃入れる余裕がなかったからな。一か八かのギャンブルだったが、シキのアシストのおかげでなんとか叩き込めた。——シキ!助かったぜ!!」



ダイさんと談笑していたカシさんは掲げた刀を軽く振りながら、俺に声をかけてきた。


ご褒美を逃した悔しさはあるが、それで逆恨みして課題を達成したカシさんを妬むのはお門違いも甚だしい。俺は心の奥底に自責の念を押し込めて笑顔で応えた。



「どういたしまして!おめでとうございますカシさん!」

「おうよ!シキのアシスト、マジで助かった。お前の一撃も見事だったぜ」

「ありがとうございます。いやでも、俺はレベさんに攻撃当てられなかったので」


「……あ?何言ってんだ、お前も当てたじゃねェか」

「?」



何寝ぼけたこと言ってんだ?とでも言いたげな胡乱な目で俺を見るカシさん。

俺はレベさんに槍と短剣を投擲したけどそのどちらも回避されたから達成条件は満たしてないのだが……?




「最後、上空に舞った短剣がレベちゃんに当たったの見てねェのか?」




「………………………………マジですか?」

「おう」



言われて振り返る。

そういえば尻餅をついて〝いた〟レベさんが悲鳴を上げたが、まさかレベさんが鎚で払い除けた短剣が上空を舞って自由落下した先にレベさんがいた?

いやいやそんな偶然。



「まあ、当てたというよりはラッキーパンチみたいなもんだが、一撃は一撃だろ。運も実力の内ってな」


「せやねぇ、まぐれでも一撃は一撃。特にレベは巨人族やから背が高いさかい、上空からの攻撃対処が結構おざなりになるんよ」

「うっ、耳が痛いなぁ」



リーラライフさんと自身の立ち回りの弱点を指摘され、バツが悪そうな表情を浮かべるレベさんがこちらに歩み寄ってくる。

失敗したと思っていたから事情が上手く飲み込めないがつまりこれは俺もご褒美がもらえるのか…?


「えっと、……つまり?」

「まあ土人形相手にしっかり立ち回りは出来てたみたいやし、ご褒美あげてええんやない?レベはどないする?」

「私も異論ないよ!じゃあ二人には約束通り、〝特別なご褒美〟をあげるね!」

「!」

「待ってましたァ!!」



高らかに宣言したレベさんは腰に巻いたポーチをゴソゴソと漁り始めた。

特別なご褒美はどうやらアイテムのようだ。

そんなレベさんの姿を見た隣のカシさんの両肩がガクンと下がり、テンションが露骨に下がるのが見て取れた。


……いやまあ俺も「膝枕してもらいたい!」みたいな邪な考えが浮かんでいたので、正直肩透かしというか変な期待の仕方をしていたのでカシさんの気持ちはよくわかる。


が、目の前に立っているリーラライフさんの眼光の鋭さが増しているので顔に出さないように努める。



「じゃじゃーん!!〝特別なご褒美〟は『ギルドの推薦状』だよ!!これを受付の人達に提示すれば冒険者ランクがいきなりBランクまでランクアップしちゃうよ!」


満面の笑みを浮かべてリーラライフさんは、古紙のようなモノで書かれた推薦状を差し出してきた。

俺とカシさんはそれを会釈しながら受け取る。



「ありがとうございますレベさん」

「………………ッス」

「なんや赤髪の兄ちゃん露骨に気落ちしとるなぁ、そんなんやとうちの気が滅入るんやけど」

「もしかしてお気に召さなかった……?」


不安げな眼差しでカシさんを覗き込むレベさん。いやまあ本音を言うとお気に召してはいないけど流石にそれを口にするのは憚れ――


「想像してたのと違ったっつーか、てっきりこのあと一緒に食事出来る的なご褒美を期待してたっつーか……」


憚らないカシさん、会って間もないけどなんかもう色々と胆力凄いなこの人。


「一緒にご飯?そんな事でいいの?」

「レベ、あかんよそういうんは」

「可能であれば!!!!」



カシさん、迷いなく全力で直角90度を越えて深々と頭を下げる。


……どうしよう、これ俺も頭を下げた方がいいのか?ものすごく居た堪れない気分になってくる。

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