Libertas緊急会議
「――では只今より緊急会議を行います。司会進行は私、陽乃木が務めさせて頂きます。議題は招集時に通達済みの為、省略致します」
窓のない広々とした会議室。そこには5名の男女が円卓に座して一堂に会して、緊急の会議が開かれていた。
議題内容は『告知なしでのイベント開催に伴うユーザーからの猛反発に対する補填の選定』、平たく言えば炎上に対するユーザーへの詫びを決める話し合いである。
「なお社長の析月は所用の為、席を外しており、言伝を預かっています『あとは任せた』との事です」
Libertasにて副社長を任されている陽乃木は手元に携えたタブレットに視線を落とし、緊急の会議でスケジュールが圧迫されたことに頭を悩ませつつも、澄ました表情のまま淡々と言葉を紡いだ。
「ショウ先輩お得意の丸投げ!」
「いつものことだな」
「いやぁー、燃えたねぇ。まさかここまで問い合わせが殺到するとは」
Libertasでそれぞれ役職持ちである彼らは会社が設立する以前から付き合いのある関係で、Libertasにて社長を務める析月とは旧知の間柄である。なのでこうした不測の事態に陥った際、彼の下した決断に対する尻拭いをするのは毎度の事であった。
「だから私言ったんすよ!ちゃんと告知出した方がいいって!見てくださいよトレンド上位!ぜーんぶ私らの会社の事っすよ!?」
テーブルを叩きながら座席から立ち上がった八重垣は、会社から支給されているタブレットを操作して室内に備え付けられたディスプレイに画面をリンクさせて表示させた。
とある世間一般に浸透している巨大SNSのトレンドには『クソボス』『事前告知なし』『LDD運営事務局』『レイド戦』『害悪クソ鳥』『100万G配布』と様々なワードが羅列されている。どれもすべて自社で開発、運営を行っているLDDに関連するワードであった。
「まあ最終的にGOサイン出したのはショウだからな。けどトレンド入りして注目を集められているなら不幸中の幸いじゃないか?」
「炎上してトレンド入りするのは良くない事っすよ!?『クソボス』とか書かれてますし、嵯野さんのやった仕事がコケにされててなんも思わないんすか!?」
「いやー、クソボスに仕上げた自覚はあるから特になんとも。これでも一応手加減したんだぜ?それにちゃんと討伐されてるからバランスは問題なかったって事だろ。テストプレイでも倒せてたしな」
「オジサン少しテストプレイで触れさせてもらったけど、なかなか歯応えのある感じだったねぇ」
「ありがとうございます。【闘神】にそう言ってもらえると自信つきますね」
「元ね、元。オジサンもう若くないから。昔みたいな動きは出来ないよ」
かつては世界大会で他国の強者を蹴散らし世界一にも輝いた実績を誇る元プロゲーマー、現Libertas品質管理部門部長の冬垣はこともなげに語る。トネルオラージュのテストプレイにて初見被ダメほぼゼロでの討伐を達成しておいて、衰えたと表現していいものなのかは当人のみ知る話である。




