実は物理的に制圧することも出来る
「クソが!んだコレ!?ただのバインドじゃねぇな!?つーかオマエいま『ウル』って言ったか!?『ハイエスト』より上があんのか!?」
「お、鋭いですねー。そうです睡醒者さんの中ではまだ発現してない力でーす。だからどんなに頑張ってもあなた達では抵抗出来ないんですよー」
「リーコル隊長!もう1体のトネルオラージュの回収、完了致しました!」
「はーい、キカンちゃんご苦労様ー。じゃあ残すはそこの特異個体だけだねー」
指先で帽子の隙間から垂れ下がった髪の毛をくるくると巻きながら、部下と思しき白髪の女からリーコルと呼ばれたNPCは言葉を続ける。
「そもそも回収出来なかったですよね?だから私達が代わりに回収に来たんですよー。ほら、街中にこんな巨大なモンスターを2体も放置しておくわけにはいかないですしー」
俺達プレイヤーが討伐したトネルオラージュを回収出来ない事を知っている、という事はこの白の軍服集団はメタ読みするなら運営サイドに関わるNPCなのだろうか?考察するにしても情報がなさすぎて迂闊に会話に混ざる事が出来ない。
「貴女達が回収した後、それらはどうする予定なのか伺ってもよろしくて?」
「〝上〟から守秘義務が課せられてるのでお答え出来かねますねー。ただ今回の事後処理に関しては後々ギルドを通じて通達があるので、首を長くして待っててくださいねー♪」
「待てそうにない、と言ったら?」
「そうですねー、【拳聖】に認められた相手だとほんのちょーっとだけ骨が折れそうですけど、どうしてもというのであれば、あなたの時間潰しに付き合ってあげてもいいですよー?最も、潰れるのは時間だけじゃないですけどー」
「まぁ、素敵な提案ね」
ミサさんとリーコル、両者共に微笑みを浮かべてはいるが目の奥が笑っていない。緊迫した張り詰めた空気が漂い始め、ピリピリと肌に刺すような空間が形成されようとしている。
「ああん!?おい待てアンタ!オレ様が先約だろうがよ!?」
しかしそれでもこの空気に後ろめたさや怖気づく事のない威勢の良いナギの声が場の支配を払拭した。
「リーコル隊長、トネルオラージュの回収完了。即時撤退を提案します」
「あン!?……あッ!!オマエいつの間に!?」
そして間髪を容れず、いつの間にかアツメがトネルオラージュを回収していたらしく、リーコルへと報告する。どうやら会話をしている間の一瞬の隙を突かれたようだ。
アツメが所持している銃の透明なケース内にはどういう原理か、ミニチュアのフィギュアサイズにまで縮小されたトネルオラージュが収納されていた。
「はいアツメちゃんご苦労様ー。というわけでー、名残惜しいですが我々は任務完了したのでお暇させて頂きますねー?カイシュ君、見られたままだと面倒なので目潰しお願いしまーす♪」
「『ウル・フラッシュ』」
「ッ!?」
「眩しッ!?」
カイシュの手元がチカっと光った瞬間、日中であるのにも関わらず視界が完全に白飛びする程の光が放たれて視界が焼き切れる。何も見えない、目潰し系の妨害魔法か。
「それではまた機会があればどこかでー。さようならー♪」
常にペースを握られ取り付く島もなく飄々としたリーコルはそう言い残し、視界が回復する頃には影も形も見当たらなかった。
【魔法の等級】
ハイ・○○ 中級 レベル20以上から習得
ハイエスト・○○ 上級 レベル40以上から習得
ウル・〇〇 最上級 レベル100以上で習得
ナギが驚いていたのは今まで『ハイエスト・○○』がLDDにおける最上級の魔法だと思われていたからです。
『ウル・○○』系統の魔法はサービス開始後、プレイヤーに初めて観測された魔法となります。




