クライマックスが劇的であるとは限らない
衝撃で宙に浮かんだ身体が地面に叩きつけられそうになった瞬間、かろうじて受け身を取るも勢いを完全に抑える事は出来ず、濡れた地面を無様に転がった。
トネルオラージュとのステータス差はあったが、幸い一撃で体力がもっていかれることはなかったのを確認する。ラス1のポーションを飲んで体勢を立て直した直後の事だった。突如、ステートウォッチから通知音が鳴り響いた。
「あン?」
「なんだ?」
ステートウォッチが通知を知らせたのは俺だけではなかった。ナギ達のステートウォッチからも同様のアラームが鳴り響いている。
いや、今はそれどころじゃない。まだ戦闘が終了していないのにメッセージを確認する余裕はないと即断し、トネルオラージュに視線を戻す。
「…………あれ?」
が、トネルオラージュは動かない。先程まで暴れていたのが嘘のように、巨躯から力が完全に抜け落ちている。もしかして、さっきの攻撃がトドメの一撃になったのか?
「……ハァ、なんとか倒せたか」
「マーサル君、お疲れ様!」
「どうやら倒したみたいだが、なんか様子がヘンだな」
「んだぁ?オレ様達が倒したのにこいつ収納出来ねぇじゃねぇか、どうなってやがんだ?アラシ、お前出来るか?」
「いや、無理だ。反応しねぇ」
討伐したトネルオラージュだが、どうやらステートウォッチでの回収が出来ないらしい。俺やランゼル達も試してみるが同様に収納不可。なんだろう、レイドボス戦だから仕様が異なるのか?
「とりあえず一段落ついたようだし、メッセージ確認しようぜ?」
ひとまずランゼルの提案に賛同し、それぞれステートウォッチを操作してメッセージを確認する事にした。差出人は『LDD運営事務局』だった。
『Lucid Day Dreaming運営事務局です。現時刻をもちまして全サーバーでのトネルオラージュの討伐を確認致しました。つきましては、戦闘に参加されたプレイヤーの戦闘履歴を確認後、スコアに応じた報酬を後日配布させて頂きます。』
『また、今回ゲーム内において初のレイド戦という事で、イベント開始直後からユーザーの皆様から多数の問い合わせがあり、混乱を招いてしまった件につきまして深くお詫び申し上げます。この度はユーザーの皆様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした。』
『今回の突発的なイベント開催によって混乱を招いたお詫びとして、現在までにプレイしていただいておりますプレイヤー全員へ50万Gを配布致します。』
『今後とも《Lucid Day Dreaming》をよろしくお願いいたします。』
どうも突発イベント開催でユーザーから大量凸くらったらしい。そらそうだ、いきなり予告もなくレイド戦始めたらそうなる。というかしれっと追加で詫びの50万Gの配布が決定している。市場にそんな大金を一気に流して大丈夫か?インフレ起きないか?




