駆け抜けたその先に
ブロンズソードを一度鞘に納め、空になった両手で無造作に転がっている短剣や槍を手に取る。
レベさん達がいる場所まで少し距離があるな、ここから投擲しても当たる当たらない以前にヘイトは稼げてもほんの僅かだろう。
出来る限り近づいてレベさんの意識をこちらに向けさせて、カシさんが攻められるだけの隙を作り出すことが出来ればカシさんの技量なら一撃を叩き込めるはずだ。
右手に槍、左手に短剣を握り締めて互いに牽制しあっている二人の元へと駆け出す。
カシさんは折れた刀を鞘に納めて居合の構え、レベさんも同様に居合のような構えで中腰になり、鎚を横に薙いで迎撃しようとしている様子だ。
レベさんのヘイトをこちらに向けさせるなら、膠着状態の今しかない!
俺はレベさんのヘイトがこちらに向くのを祈りながらレベさんに目掛けて槍を力の限り投擲した。
「――ッ!」
飛来する槍を察知したレベさんが半歩下がって投擲を回避する。俺は間髪入れずに左手に持っていた短剣を右手に持ち替えて続けて投擲するも、レベさんは余裕の表情で鎚を横に振るい短剣は容易に弾かれて遥か上空に舞ってしまった。
「――――ナイスアシストだ!シキ!!」
が、あくまで俺の役割はレベさんからヘイトを稼ぐことだ。
そしてその役割は既に達成されている。
一瞬の勝機を見逃さす、カシさんは居合の構えのままレベさんとの距離を即座に詰める。
構えていた鎚を投擲から身を守る為に振り回したレベさんに、カシさんの迫り来る攻撃を防ぐ手段は
「――やるね!即興にしてはいい連携じゃないかな!」
「っ!?」
それでもなお余裕の笑みを崩さないレベさんは横に振り回した鎚を勢いそのまま一回転させ遠心力を纏いながら、接近するカシさんが振り抜いた居合を叩き返さんと螺旋を描く。
膂力を活かして勢いが増した鎚と、抜刀の推進力で速度を上げた刀身が激突――
「……あれぇ?」
――して衝撃音が鳴り響くことはなく、刀の軌道に合わせて軌跡を描いていた鎚は何もない虚空を叩いた。
素っ頓狂な声をあげ、何が起きたのか理解が追いつかず、一瞬呆気に取られるレベさんだが状況を即座に把握する。
カシさんが振り抜いたのは、先ほどレベさんに折られた刀身の欠けた刀だった。
「騙して悪いがコイツで決めさせてもらうぜ!!『葉断』!!」
追撃の手を緩めることなく、カシさんは折れた刀を即座に投げ捨て、鞘に納めてあるもう一振りの刀をスキルと共に引き抜いた。
エフェクトを纏いながら迫る刀身は遮られることはなく、吸い込まれるようにレベさんの鎧に直撃した。
「っしゃあああ!!ご褒美ゲットォ!!!」
「うおおおおおっ!!さすがカシさん!!」
レベさんに一撃を当てたことでご褒美が確定となったカシさんは有頂天になり、高々と刀を頭上にかかげて歓喜の雄叫びを上げるのだった。




