Spark Again
時折雷の飛び散る打楽器と成り果てたトネルオラージュへの連打は鳴り止まない。ユーザー達の溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのように、弱点部位である脛と足の小指への攻撃が続く。
俺も一太刀くらいは浴びせようとしたが、弱点部位である脛と足先部分には残存するプレイヤーが密集しており入り込む余地がなかったので、とりあえず目についた尾羽へと斬り掛かってみた。
尾羽に対して垂直に振り下ろすとガキンという異音ののち、ブロンズソードの刀身に亀裂が入る。耐久値を確認すると一気に半分まで減っていた。もう一振りすると完全に壊れてしまうなこれ。
とりあえずトネルオラージュは初期装備で挑む相手じゃないというのがよーくわかった。
まあ刃の通りそうな口の内部や弱点部位らしい脛とか足の小指ならまた話は変わってくるのだろうが、初期装備かつステータスで殴った所でという話である。
ブロンズソードを容易く両断するらしい『瑞氷』があればまだ別だろうが、ない武器の話を持ち出しても意味がない。大人しく離れて戦闘終了まで待つとするか。途中で離脱するのもアレだし最後まで見届けるとしよう。
「そろそろ倒れてもいいんじゃねぇかな……!どんだけ体力あんだよ……!」
「弱点部位だけど武器の方が保たない~!耐久値の消耗速度が早すぎるよ~!!」
連続して攻撃を繰り出し続けるプレイヤーサイドの鬱憤を焚べて得た体力は決して無限というわけではなく、連打の速度も低下してきた。終わりなき連打の度に一定間隔で鳴いていたトネルオラージュは、今やすっかり鳴りを潜めてしまっている。……、鳴りを潜めているという事は。
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!ドラム叩いて鍛えた腕振り速度なめんなコラ!!」
「だあああ!シルバーダガー壊れた!!ええい墓標代わりだ受け取れコンチクショー!!」
悲痛な叫びと共に耐久限界を迎えて完全に破損してしまった武器をプレイヤーが思い切り振り翳し、トネルオラージュへと突き刺した瞬間、拡散する黒の雷光が視覚と聴覚を完全に覆い尽くす。
麻痺効果のある雷ではなく広範囲攻撃として放たれた黒雷は、弱点部位を集中して叩いていたプレイヤーを残さず焼き焦がす。
俺はトネルオラージュから距離を取っていたので被弾する事はなかった。武器の損耗を気にせず尾羽を殴りつけていたら間違いなく巻き添えになっていただろう。ヘンな所で運がいいな俺。いや、悪いよりは全然いいんだけれども。
「GIY……、GIY…………!!」
袋叩きの影響で体力の限界が近いのか、トネルオラージュの咆哮からは覇気が感じられなかった。しかし横たわっていた身体を起こして両脚で立ち、自らを鼓舞するかのように翼を雄々しく広げてみせるその姿に撤退の意思はないように見えた。
『タコ殴りでコケにしてくれた貴様らは絶対に私が残らず潰す』――トネルオラージュは人語を発していないので完全に想像だが、言葉にするならこんな感じだろうか。
『絶対に逃がすものか』という意思を感じる視線が、黒雷を逃れて残った俺含めた数名のプレイヤーに注がれる。
 




