困ったときはお互い様
麻痺とバインドの重ね掛けは流石にライン越えというかやり過ぎ感のあるトネルオラージュの攻撃パターンに、生き残ったプレイヤーから怨嗟の声が上がった。
個人的には黒い雷の全方位攻撃ではなく突進だから手心を加えてくれているような気もするが、そもそもレベル差がある時点でいわゆる接待クエストではないんだよなこの戦闘。
フードゥルは経験値が美味しい敵だったからたぶんそっちが接待用で、こっちのトネルオラージュはやり込んでいる人向けに用意した敵なのだろう、たぶん。LDDの運営の事よく知らないけど。
「なぁポーションまだ残ってるか?急な戦闘だったから俺もう手持ちがないんだけど」
「ウチもないよー、さっきので使い切っちゃった」
「すまない誰か!マナポーションが余っていれば少し分けてくれないか!?このままではもう魔本のカドで殴るしかなくなる!!」
突然何の予告もなく始まったレイド戦だった上、数十人のプレイヤーで袋叩きしてようやく倒せた体力オバケのトネルオラージュを討伐するのに支払った代償は大きく、プレイヤーサイドの手持ちアイテムの余裕もなくなってきたようだ。
俺はというとフードゥルを無傷で倒したので損耗はほぼない。回復アイテムも昨日購入したポーションとハイポーションが残っているが、この状況下で俺がポーションを持っていたところであまり意味がない。かなりのレベル差があるので攻撃をまともに喰らえば即死だ。
トネルオラージュの攻撃速度を見て判断する限りだと、パリィでの受け流しも出来なくはないだろうが、初期装備なので武器の耐久値が一瞬で削られて武器を喪う可能性の方が高いだろう。
なのでここで俺が取るべき行動は一つ。
「あの、ポーションでよければ使って下さい」
「お?いいのか?ありがとう、助かるよ!」
「たすかるー!ありがとね~」
ステートウォッチから取り出したポーションを2個ずつ、回復アイテム不足で困っているプレイヤーに手渡した。低レベルの俺が使うより、見るからに戦えそうなプレイヤーに使ってもらった方が有意義だろう。
「すまないそこのキミ!マナポーションは持ってないか!?」
「えっと、ごめんなさい。マナポーションは持ち合わせがなくて」
「そ、そうか……。すまない、無理を言った。……くっ、やはりもう魔本で殴るしか……!」
魔力が枯渇してしまったであろうプレイヤーは手に握る魔本のカドをジッと見つめていた。いやいや流石にそれは……。
眼球に叩き込むとかならまだ可能性はありそうだけど、あの巨体のトネルオラージュの攻撃を掻い潜り、被弾することなく接近出来る魔法職はさっさと魔本を放り捨ててジョブチェンジした方がいいと思う。
まああまりにも真剣な面持ちで悩んでるので口には出さないが。
 




