拘束技はプレイヤーだけの専売特許ではない
「GIYAAAOOOO!!」
トネルオラージュは体勢を崩した状態から起き上がり、咆哮と共に鋭く伸びた鈎爪でミサさんへと襲い掛かる。しかしミサさんはそれを半歩動いて回避し、そこから急接近して逆関節になっているトネルオラージュの膝を思いきり殴りつけた。
「GIYAU!?」
膝カックンの要領で再びバランスを崩したトネルオラージュが地面へと倒れ込む。あまりにも簡単にダウンを取るのでトネルオラージュが実は弱いのではと錯覚しそうになるが、ミサさんが強すぎるだけだろう。転倒したトネルオラージュに追撃を仕掛ける事なく、退屈そうな表情を浮かべながら見下ろすミサさんからそれが伺える。
「今がチャンスじゃねぇか!?」
「攻めろ!!」
そんなミサさんの事を気に掛ける事なく、目下討伐すべき敵が転倒しているのを好機と判断したプレイヤー達が、一斉にトネルオラージュへと攻撃を仕掛ける。
「どおぉりゃ――ッ!?ハァ!?」
「ちょっと全然刃が通らないんだけど!?」
「いやそこの【拳鬼婦人】は普通に殴ってたじゃねぇか!攻撃が通らねぇわけ――硬ェ!?」
「表面の鱗になってる箇所は駄目だ!切断も打撃も生半可な装備じゃ通じない!!」
「プレイヤーレベル50あってもまともに通らねぇ攻撃ってなんだよクソが!?」
「おい!翼の部分ならダメージ通るぞ!」
「鱗に覆われてない腕の内側もいけるみたい!!」
先に倒したトネルオラージュとは異なり、ダメージが通じる部位と通じない部位があるらしく、手探りで攻撃を続けるプレイヤー達。プレイヤーの数が減っているので動きやすくなり、俺も攻撃に参加する為に接近を試みようとしたが、違和感を覚えて立ち止まる。トネルオラージュが鳴いていない。
袋叩きにされているなら先程討伐されたトネルオラージュのように鳴き声の一つでもあげそうなモノだが、何かを耐え忍ぶかのようにジッと蹲るトネルオラージュ。倒されたわけじゃないとすればこれは――。
「またさっきみたいな広範囲攻撃が飛んでくる前に攻め続けろ!!」
攻め立てるプレイヤーの誰かがそう発言したのが合図だった。僅かな発光と共にトネルオラージュの全身から黒雷が迸り、地を這い、濡れた地面を通じて感電した周囲のプレイヤーの動きが止まる。
「――がっ!?クソ麻痺かよ!?」
「予備モーションなしでの拘束技は初見殺しにも限度があるでしょ!?」
慌てふためくプレイヤーをよそにトネルオラージュはゆっくりと起き上がり、大翼を広げて天高く吼えた。
「GIIIIIIYAAAAAAAAAAA!!」
しかもこれは拘束効果のある咆哮だ。麻痺で動きを止めた上での拘束技は容赦がなさすぎる。
「麻痺からのバインド重ね掛けは駄目でしょ!?」
「初見で攻略させる気ねぇな!?」
「あ、詰んだこれ」
身動きが取れなくなったプレイヤーを一瞥したトネルオラージュは、黒い雷を纏い周囲のプレイヤーに突進攻撃を繰り広げた。まるでボウリングのピンのように軽々と吹き飛ばされたプレイヤーは、その後ろに居た他のプレイヤーを巻き込みながら周囲に立ち並ぶ建物に激突。一人、また一人と壁のシミになっていく。
雷を纏っている影響で攻撃力が増加しているのか、突進をまともにくらったプレイヤーはピクリとも動かない。巻き込まれたプレイヤーの方はそこまでダメージは通ってないのか、動かなくなったプレイヤーを押し退けながら立ち上がり、ポーションを取り出して回復を試みる。
「ああもうどうすんのよコレ!」
「接近しすぎてもダメ、距離を置いて遮蔽物に隠れてもダメならもう一撃離脱を繰り返していくしかないか」
「攻撃が通じる部位も限られてるから、回避しながら的確に当てる技量も必要だぞ」
「記念で討伐させるモンスターの難易度じゃねぇだろ、ゲームバランスもう少し考えとけよ運営……!」




