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数の暴力

「…………だぁー!クソッ!!」


「マーサル君!」



回復魔法がギリギリ間に合ったらしく、マーサルが苦悶の声を上げながら地面から起き上がる。それとほぼ同時に、地面へ衝突したトネルオラージュもゆっくりとその巨体を起き上がらせ、劈くような咆哮を轟かせる。



「GIIIIIIYAAAAAAAAA!!」


「うるせェなぁッ!?」


「うげっ!バインド効果ありかよこの咆哮!!」



トネルオラージュのすぐそばで叫び声を聞いたプレイヤーの身動きが出来なくなるのが見て取れた。有効射程範囲はあるが拘束効果のある叫び声か、厄介だな。拘束時間は…………3……4……5秒、5秒か。動かせなくなるのは脚だけで身体の上部は動かせるのか?パリィで攻撃は受け流せそうか。



「よし!!今だ攻めろ!!早めに倒しきらねぇと上の黒いヤツも襲いかかってくるぞ!!」


「うおおおおお!!」


「くたばりやがれ!!」



プレイヤーの号令を受けて拘束が解かれた者、仲間が拘束されている間に大技を放つ準備をしていた者、それぞれが今出来る最大限の行動に移る。俺もその流れに乗るべく、プレイヤー達の合間を縫うようにトネルオラージュへと迫ろうとするも、動きの激しい人混みで思うように前に進む事が出来ない。



「GYAUUUU!!GIYAA!GIYAUU!?」



四方八方から集中砲火で攻撃を与えられ続けるトネルオラージュが鳴き叫ぶ。袋叩きしているようで絵面としてはあまりよろしくないが、そんな悠長な事を言ってる暇はない。地上に落下した衝撃だけで建物の窓が粉砕したのであれば、その巨体が暴れるだけで周囲に及ぶ被害は甚大なモノになる。


そしてなにより、上空にいるもう一体のトネルオラージュがこちらへと差し迫って来ている。



「GIIIIIYAAAAAA!!」


「――ガッ!? くっそお前空中からのバインドは卑怯だろうが!!」


「ヤバイヤバイヤバイって早く解けろ解けろ解けろ……!」



標的にされている同胞を救う為、黒い雷を纏ったトネルオラージュが咆哮と共に地表へと急降下してくる。咆哮による効果で脚をその場に縫い留められてしまったプレイヤー達から焦りの声が上がる。どうやら先程よりも拘束時間が若干長い、……5……6……7秒?おいおい、この状況下で拘束時間の異なるバインド攻撃とかやられたら面倒なことこの上ないぞ。


情報量が増えていく戦場へと大気を押しのけながら襲来した雷鳥は、その降り立った余波でプレイヤーを押し返す。



「あーもうどうすんのこれ!?とりあえず普通の方を集中攻撃しかないよね!?」


「市街地の狭ェ場所でこんなデケェの2体も同時に相手とかしてらんねぇよ!」


「ゲームバランスゥゥゥゥ!!覚えてろよ運営!!この戦闘生き延びたら絶対にお気持ち表明してやるからな!!」


「おいバカお前それフラグ!」


「ハッ!オレ様はその程度じゃ死なギャバババババババ!!?」


「言わんこっちゃねぇ!!」



怒りに燃えるプレイヤーが黒い雷に打たれて意気消沈、いや焼身である。黒の雷光が飛び散る火花のように周囲へと拡散する。



「………………ハッハッハー!残念だったなぁ!耐久ビルドのオレ様にゃあ丁度いい電気マッサージだぜェ!」


「バカ言ってねぇではよ回復しろ!」



しかし黒い雷で焼かれたプレイヤーは戦闘不能にはなっていなかった。耐久ビルド、最前線で敵の強力な攻撃を受け止め、パーティーにおける盾の役割を担う構築だ。高い体力と防御力で敵を倒すよりも倒れない事を最優先としているので生存力に優れている。



「しっかし体力フルの装備込みで精神力350越えててなお8割削るんかよ……とんでもねぇな」


「お前でそれなら俺は間違いない消し炭になっちまうな」



回復用のポーションを飲みながら二人のプレイヤーはわずかに距離を取った。周囲のプレイヤー達は押し返されてなお、果敢にトネルオラージュへと接近して攻撃の手は緩めない。なんとしてでも手負いのトネルオラージュだけでも倒し切る、そんな気迫に満ち溢れている。



「GI……GIIYUU……!」



止むことのない波状攻撃を受けながら手負いのトネルオラージュは苦し紛れに雷魔法を放つも多勢に無勢であった。数人のプレイヤーへ直撃させて行動不能に追い込むも、それでも攻撃は止まらない。

黒い雷を纏ったトネルオラージュも大翼をはためかせてプレイヤーを吹き飛ばし、鈎爪で切り裂き、黒雷を放ち迎撃する。



「押し切れ押し切れ!!一体だけならこの数の暴力で倒せるはずだ!!」


「ぬおおおおおお!!ド根性ォォォ!!」


「あーもう魔力切れちゃったよぉ!!誰かマナポーション分けてぇ!!」


「杖で殴れ!!」


「無茶言わないでよぉ!?」



ここが正念場だと、プレイヤー達も腹を括り攻める手を緩めない。怒号が飛び交い、魔法が交錯し、剣戟の音と絶叫が入り混じった戦場に、一瞬の静寂が訪れる。



「GI………GI、U…………」



弱々しい鳴き声を遺して、手負いのトネルオラージュが斃れた。

巨体が地に伏して地面を僅かに揺らした後に響き渡るのはプレイヤー達の勝鬨の声である。



「うっしゃあああああ討伐成功!!!」


「ラストアタック誰だ!?」


「こんな入り乱れてたらわかんねぇよ!!」


「そもそもラストアタックボーナスとかあるのかこのゲーム?」


「知らねぇ!そもそも初のレイド戦だから報酬とかどうなってるのかも知らん!!」



トネルオラージュ討伐で歓喜に湧くプレイヤー達を、離れた場所で眺める俺。結局まともに攻撃に参加することすら出来なかった。一太刀も入れられてないんだが、密集地帯じゃこうも満足に動けないものか。


喜びを分かち合うプレイヤー達だが、安心するのはまだ早い。手負いのトネルオラージュは撃破したとしても、もう一体別のトネルオラージュが残っている。撃破したトネルオラージュよりも強力な個体が、だ。


その黒い雷を纏ったトネルオラージュが斃れた同胞に群がるプレイヤーを視界に入れた直後の事だった。





――――――世界から、音が消失する。

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