襲撃の巨兵
「……【コレ】を使うか素手で戦おうか悩んだんだけど、本気でやっても問題なさそうだから使っちゃうね?」
レベさんが軽々と振り回してみせる鎚の全長は彼女の身長と同サイズくらいだろうか。
鎚の武器による攻撃パターンはシンプルに叩きつけ、横薙ぎによる範囲攻撃、跳躍して上段から振り下ろす質量攻撃、下段から上方への叩き上げ、あと考えられるのは投擲か?
あんな大質量を投げられたらたまったもんじゃないな。
「……さて残り1分30秒、踏ん張りどころやねぇ」
時間も残り少ない。というか見積もりが甘かったなこれ。
レベさんに攻撃を当てなきゃいけないのにも関わらず、土人形の攻撃を観察してからなんて悠長に構えた時点で後手に回ってしまっていた。
明確な反省点だ。次また同じミスをしないように記憶に留めておかないと。
「大丈夫っすかカシさん!?」
「狼狽えんなダイ!パリィは間に合った!!」
吹き飛ばされたカシさんは空中で器用に体勢を立て直し、地面に着地してみせた。
だがカシさんの持つ刀の刀身にはヒビが入っている。次また同じ攻撃が来たら武器の耐久値的に防げるかどうか。
「時間がもうねェ! ダイ!シキ!攻めるぞ!!」
同時に壊れて武器を失う最悪のパターンを回避する為か、刀を1本鞘に納めたカシさんはレベさんへ肉薄する。
俺とダイさんは互いに頷き二人の元へと接近して攻撃の隙を伺うが、互いの戦闘がハイレベルすぎてなかなか間に割って入ることが出来ない。
「直撃したのにタフだね!」
「ああいった手荒い歓迎には慣れっこなもんで!!」
「そうなんだ!……じゃあもっと手荒くても大丈夫かな?」
「――ッ!?」
パチンッ、と指を弾く音と共にレベさんが巨大化――、否、レベさんの立っている地面が隆起したのか、彼女の巨体は瞬く間に上昇していき広範囲に影が広がっていく。
「質量攻撃だよ、耐えられるかな?」
隆起しきった土の台座から高々と跳躍したレベさんは、大きく仰け反りながら鎚をカシさんに向けて振り下ろす。
直後、耳を覆いたくなるほどの激しい轟音に合わせて巻き起こる砂塵と衝撃波が俺達を襲った。
そして間髪入れずに舞い上がった砂埃が暴風と共に晴れ渡る。
その中心には折れた刀を手に苦笑を浮かべて立つカシさんと、余裕綽々といった表情のレベさんが佇んでいた。
「すごいすごい!これも防いじゃうんだ!?」
「叩かれるのは俺の趣味じゃねェんすよ!」
「趣味?」
「……そこの赤髪の兄ちゃん、あとで話があるから覚えときぃ?あと50秒や」
遠方からリーラライフさんの怒気を含んだ底冷えする声が耳に届いた。
制限時間が迫っている。何か、何か俺に出来ることはないか……!?
周辺を見渡すも倒されずに残っている数体の土人形が、僅かに逃げ粘っているプレイヤーを追うモーションを見せたり、戦闘に慣れていないプレイヤーが逃げる際に落としたのか、槍や短剣などの武器が散乱しているだけだ。
……いや待て、立ち入る隙が作れないなら遠距離からレベさんに投擲してヘイトをこちらに向けて隙を作れば……?いけるか……?
――いや考えてる時間が勿体ない!やるしかない!
俺は散乱している武器の元へと一目散に駆け出した。
【装備品の小話】
LDDではプレイヤーが装備している武器や防具、アクセサリーは戦闘中に耐久値がなくなったり手放して手元から離れた場合は所有権がなくなり、ドロップアイテムと同等の扱いとなります。
なので現在地面に散らばっている戦闘に慣れていないプレイヤーが放置した武器はドロップアイテム扱いとなっており、他のプレイヤーが入手しようと思えば入手する事は可能です。
……が、一般的なプレイマナーとして他人の装備を一時的に使うことはあっても、インベントリに収納するのは印象が悪すぎるので実際に行うプレイヤーはあまり見かけません。
見かけないだけで実際はそれなりにいます。
例えばムルフィームの4番街にある【闘技場】では大人数によるバトルロイヤル方式の試合があり、その戦闘で小遣い稼ぎとして戦闘中に場外に弾き飛ばされ敗北したプレイヤーが手放した武器をこっそり回収し、売り捌いて金策を行うプレイヤーがいます。
闘技場の参加規約に「武器や防具をロストする可能性がある」という警告に同意して参戦するのが闘技場なので、目立ったトラブルにはなってないですがそれを快く思わないプレイヤーも中にはいます。
ただし戦闘中に手放しても所有権が放棄されず、手にしようとすると弾かれる例外の装備品も存在します。
特殊なクエストを達成して得られる装備品、俗に言うユニーク装備の類はそれに該当します。
闘技場においてもそれは例外ではなく、闘技場での上位ランカーは基本的にユニーク武器持ちか、ロスト上等でプレイヤー技量で武器の性能差を補い安価な武器を使い回すか、そもそも武器を装備せず己の身ひとつで薙ぎ倒す拳闘士のいずれかに分類されます。
【紳士槍兵】
【拳鬼婦人】
【回収屋】
の異名で呼ばれるプレイヤーがいますが、それはまた後々。




