自由を求めて
VRMMORPG《Lucid Day Dreaming》 ――通称『LDD』
全世界にフルダイブ型VRマシンを普及させた天才が社長を務める会社が二ヶ月前に世に解き放った超話題作である。
高校入学という一大イベントが終わり、高校最初の中間テストを終えた週末。
俺、白峯鏡と友人である芝崎蒼馬は市内にある大型ショッピングモールに隣接された漫画喫茶に集まっていた。
この漫画喫茶は件の『LDD』を開発した会社と提携を結んでいるとかで、現役プロゲーマーが使用する機体と同等の性能を誇るVRマシンが設置されている。
利用に関しては完全予約制であり、『LDD』がリリースされてからは連日連夜予約で埋まっていたため、俺達が『LDD』を開始するのに二ヶ月も待つことになってしまった。
『LDD』そのものは家庭用の一般フルダイブ型VR機器でも遊べるのだが――
「どうせなら最初はプロ仕様がいい!!」
――と、断固として譲らなかった現在絶賛遅刻中である身内がいたので待つことになった。
まあ事前情報なしに手探りで遊ぶよりは、ある程度攻略情報が集まってからプレイした方が無駄もないだろうからな。
「鏡、お前種族どうするんだ?」
セルフレジで入店処理を済ませ、スマホに事前インストールしていた『LDD』の提携アプリを起動してユーザー情報を確認していると、同じく入店処理を済ませた蒼馬に声を掛けられた。
「俺は人族でいいかな。魔法より武器振るう方が個人的に好みだし」
「そうか」
色々集めた事前情報によると、かなり自由度の高いゲームである『LDD』でプレイヤーはまず人族、亜人族、機人族の3種族の中から大まかなプレイ傾向を選択するようになっている。
人族はスキル重視の物理攻撃が得意な種族。
亜人族は魔法重視の魔法攻撃が得意な種族。
機人族はスキル魔法のバランスが取れた種族。
なんとなく機人族が将来的にバランスブレイカーになりそうな気がしなくもないんだよなぁ。
世界観から推測するに機人族の文明レベルがずば抜けてるのに、なんか意図的に制限がかかっていそうだし。
現状だと三種族の中で『魔法もスキルも修得が遅すぎる中途半端な不遇種族』みたいな評価に落ちついているようなので、ここから運営がどういう方向に舵を切るのやら。
「すまん!遅れた!!」
「遅いぞ龍斗。言い出しっぺのお前が遅刻してどうする」
『LDD』のゲーム内容を脳内考察しつつ、蒼馬と店内で待つ事5分。
息を切らしながら店内に駆け込んできたのは高校入学後に知り合い仲良くなった森河龍斗だった。件の「最初はプロ仕様がいい!」とゴネた当人である。
「いやぁ来る途中で道に迷ってたお婆ちゃん助けてたら遅くなっちまった!これ詫びの飴な!」
「リンゴ味は好かん。鏡、いるか?」
「おー、じゃあ貰うわ」
蒼馬から貰ったリンゴ味の飴玉をポケットに放り込み、それぞれ予約した個室へと向かう。
「それじゃあまたあとでな。あ、プレイヤーネームは『シキ』な」
「わかった。俺は『ソーマ』だ、γプランで従機士もいるからすぐわかるはずだ」
「オレは『モリー!』んじゃまたあとで!」
互いにしばしの別れの言葉を告げて個室の扉を締め、眼前に鎮座する巨大なマッサージ機の様なフォルムをした業務用VR機器へ『LDD』を起動したスマホを専用の台座に置いて接続する。
接続認証が完了し、チェアに座ると頭上のカバーが顔を覆い隠すように降りてくると同時に周囲から特殊な音波が流れ始めて意識が微睡み始める。
「それじゃあ、始めるとしますか」
そう一人呟いた直後、意識は完全に闇へと溶けていくのであった。