大戦で滅びかけた祖国の復興を伝説の神兵の力で頑張ります
『さあ、どうぞ停戦契約へサインを』
百年続き、大陸全土を戦場にした大戦は終わった。
大戦を勝利し、大陸の覇権を握った国は無し。
全ての国が致命的な損害を受け、ようやく矛を下ろさざるを得なくなっただけの事だ。
その停戦契約の場に俺は居た。
停戦の締結は古くからあるという有名な教会の礼拝堂を借りて行われている。
普段は礼拝の為に並べられている椅子は片付けられ、この日の為に円卓が設置されてその周りに各国の王が座っていた。
『各国の皆様、お集まり頂きありがとうございます』
円卓の中央に置かれている宝玉の中にドレス姿の女が映し出されている。
華美では無いが素人目に見ても品のある衣装と佇まいは高貴な生まれなのだと実感させられる。
『ご機嫌麗しゅう。私は神聖ラーナ王国王女、ラーナ=ルナマリアです。先ずは西方諸国の代表たる皆様にはるばるお越し頂いているというのに申し訳無ありません。現在私は東方諸国との停戦契約の締結に………』
「下らん前置きは良い!!さっさと停戦契約を済ませろ!!」
ルナマリア姫は一礼し、丁寧で品のある言葉遣いで喋るが、一人の王が遮る。
「そうだ!!たかが一国の姫如きが王たる我の時間を無駄にするな!!」
「停戦の条件の変更は認めぬのだろう!!さっさと終わらせろ」
「歴史だけしかない小国が図に乗るな!!」
「魔女め!!早くしろ!!」
そして堰を切った様に各国の王達は宝玉へと向かって四方八方から罵倒を浴びせるが声は震え、上ずっていた。
怒りの罵声では無く、焦りと恐怖によるものだ。
『ククッ……失礼しました。では早速停戦契約を結びましょう。使者よ、契約の石碑を皆様の下にお持ちしろ』
ルナマリア姫はからかう様な、笑いをこらえながら謝罪し、そこにいる自身の配下へと命令を下す。
ガチャッ………ギッ………………ギギッ………………ジャラ………ガチャン………。
「フゥーッ……!!………ウゥーッ……………!!」
姫の命令が下ると同時に立ち上がった存在に王達は青ざめる。
王達が怯えているのは漆黒の全身に幾つもの棘を生やし、鋭い牙を剥き出した頭部からは歪に曲がりくねる角が生やし、何かを封じているかの様に身体のあちこちをぐるぐると鎖を巻き付けた異様で悍ましい姿の存在だ。
一歩進む毎に鳴る金属音からそういう生き物ではなく中に人が入った作り物なのは明白なのだが、その外見の悍ましさと苦しげに呻きながら礼拝堂の奥の壇上へと進む様に王達はどよめく。
「これが各国の軍を壊滅させたという神兵なのか……!?」
「我が国の堅牢な砦を一瞬で破壊する力が………!?」
「なんと悍ましい姿だ………神兵ではなく伝承にある悪魔の姿ではないか………………」
「恐ろしい……」
『使者よ。契約の石碑を掲げよ』
ルナマリア姫の命ずるままに壇上に置かれている石碑を持ち上げ、王達へ向けて掲げる。
『さあ、お一人ずつ順番にその石碑に少量で良いので血を捧げて下さい』
「ウゥ……オモイ……………クル……………シイ……」
カタカタカタカタカタカタカタッ。
「あ、おい!!大丈夫なのか!?」
「何故これ程までに物騒な使者を寄越した!?」
「なぜ震えている!?説明しろ!!」
「わ、我等を纏めて吹き飛ばすつもりでは無かろうな!?」
「そ、そんな事をすればどんな手を使ってでも貴様の国を滅ぼしてやるからな!?」
『まさかまさか。。使者よ、もう少しだ。もう少しだけ耐えてくれ』
「ハヤク……………モウ…………ゲンカイ……」
『だ、そうです。ちなみに血を頂ければ契約完了ですので他の方を待たずにお帰りになられても構いません。皆様お忙しいでしょうし?』
ガタッ、ガタタン!!
「わ、私が先だ!!」
「横入りするな!!我の後に並べ!!」
「うるさい!!」
「早くしろ!!」
王達は文字通り我先にと石碑へと殺到し、持参した刃物で手を切りつけ、石碑へと血を捧げる。
「うおおおおおお!!」
「覚えておれ!!人殺しの魔女め!!」
「嫌じゃ!!死にとうない!!」
「神聖王国に滅びあれ!!」
そして血を捧げ終えた王から悲鳴や捨てゼリフと共に礼拝堂の外へと全力で走り去っていった。
礼拝堂に残るのはただ一人、悍ましい姿で石碑を掲げる俺だけだ。