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忘却されし魔王は微笑み、忘却の召喚少女は次代魔王候補のヒロイン候補に言い寄られています!  作者: キャラ☆めり〜ぜ
第1章 転生令嬢エリザヴェータ・シルバニア
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05/エリザヴェータ・シルバニア/魔法公国ユートピア・アムールの初秋(九月)/

05/エリザヴェータ・シルバニア/魔法公国ユートピア・アムールの初秋(九月)/




 初秋を迎え、太陽が輝いていた季節が終わりを告げ、北部のアムールの空を雪雲が覆うようになってきました。

 シルバニア家の領地から、魔獣たちの棲むオルト山脈を越えて、すぐにある、シロノワール家の最北端の領地にユートピア魔法学院がある。

 毎年、この時期、そこで入学式が行われます。

 ユートピア魔法学院へは、十三才の誕生日を迎えた者ならば誰でも受けることが出来る入学試験を受け、合格すれば入学の資格を得ることが出来る。

 入学試験は事前に筆記試験の問題が送られ、カンニング防止として、時間制限つきの魔法空間の中で個別に行われる。

 余程のことがない限り不正は出来ない。

 その後、筆記試験の合格者にのみ合格通知と共に案内状が届き、各自、入学に必要な制服や魔道具の発注などを行い、入学式を待つのだ。

 そして、最終試験として、入学式当日に、魔力測定の水晶に触れ、その結果でランクが振り分けられ、事前の希望学科と照らし合わせてカリキュラムが組まれる。

 能力と希望する学科が見合わない場合は学科の変更を教師が提案し、本人との話し合いとなることもある。

 ユートピア魔法学院。いいえ、魔法公国ユートピアは誰でも魔法使いになれる国として、わたくし、エリザヴェータ・シルバニアが生まれた時から、この世界にいる魔法使いになりたい者たち全員を歓迎している。

 それはかつて人族の国であったエーデンハルトの勇者クロウドがユートピアの魔王様ことカエラ・シロノワール公爵と結ばれて、エルレーゲンの神官たちの立ち合いの下、エーデンハルトの皇帝とカエラ様が和解し、勇者クロウドは爵位を与えられ、ユートピアはエーデンハルトから公国として認められ、彼が尽力し、このことを世界に向けて発信したからだ。

 ここ千年ほどは大きな争いもなく、お互い睨み合いの防衛戦が続き、偶にエーデンハルト側がユートピアに勇者を送る形で戦いは続いており、エーデンハルトの民たちにはユートピアは魔獣を操り襲ってくる魔族が棲む怖い土地だという古い認識があった。

 それを払拭する為に、勇者クロウドことジュン・クロウド公爵が、カエラ様に助言し、ユートピアの国営に加わるようになった。

 それまでは由緒ある四大魔将貴族が中心だった内政が、新たに外政部門が設けられ、行方知れずだったカエラ様の叔父、ロマン・シロノワール様がエーデンハルト帝国の外交担当官として任命、派遣され、戦争で武勲を立てた魔将貴族たちの派閥を貴族院として、この国の国民なら誰でも立候補し、国民たちの投票により選手される新たな派閥、民主院を新たに設け、この国の内政は貴族院と民主院の二院制になった。

 勇者クロウドは魔王妃リリスが守ったこの国を壊し始めたのですわ!

「勇者、"許すマジ"! ですわ!」

 わたくしには、まだ早いと言われましたけれど、魔法学院の新任教師となったパーニャ叔父様の真新しい"公民"と書かれた教本を手に、わたくしはアンナちゃん様風に叫びました。

「公民の教本のどこに"勇者"が出てくるんだ? エリザヴェータ?」

「あ、パーニャ叔父様……」

 少し長かった銀髪を、すっきり短く切り揃え、中性的な顔立ちのクールな銀縁眼鏡の美青年の男前が上がっていた。

「いつも言っているが、俺は成人したばかりで、"オジサマ"なんて歳じゃない。それに、俺の教本に何している?」

 そう言われて、わたくしは、自分の手元にある、真新しかった教本のページが、ぐしゃぐしゃになっていることに気付いた。

「ごめんなさい……」

 わたくしは素直に謝罪した。

「チッ!… 魔法学院関連の仕事に就いているシルバニア家に生まれたからには、この時期の子供はどうしても放っておかれる。俺は部屋に本があったから、退屈はしなかったが、ああ……もう! 寂しいかもしれんが、我慢……は、するな! 明日は入学式当日だから、皆、いなくなる。だから、アンナさんがお前を迎えに来てくれる。イヴァンとアレクと会える、だろ? ……女、子供の相手は苦手だ」

 パーニャ叔父様は不機嫌そうに、わたくしに言い聞かせるようにそう言って、頭をガシガシ掻いたかと思うと、そっぽを向いた。

 顔を手で覆い、その横顔の銀髪の間に見える耳が真っ赤だ。

(これは……)

 照れている。

 わたくしは、にんまりした顔でパーニャ叔父様を見た。

 わたくしの知る限り、パーニャ叔父様は、聖女の話や歴史、算術の授業をしてくださる時は、とても饒舌ですけど、普段はあまり人と話したがらず、いつも一人で本ばかり読んでいて、他者に関心が薄い性格なのですが、わたくしに物心がついた頃、お祖母様やお母様に頼まれて、本を読んで聞かせてくれていましたが、わたくしが泣いたりすると、どうしたらいいのか分からないながらも、まだ文字も読めないわたくしに、パーニャ叔父様はお気に入りの本をオススメしてくださったり、パーニャ叔父様なりに、あやそうとしてくださいました。

 パーニャ叔父様は、不器用だけど、わたくしのことは何故だか放っておけない存在みたいで、わたくしには優しいのです。

 そのことが、パーニャ叔父様自身には、らしくないことなので、葛藤があるのですわ。

 わたくしに優しくしないといけないのは何故なのか、その理由がパーニャ叔父様には分からないのですから。

 でも、わたくしは、その理由を知っているのです!

 パーニャ叔父様には内緒ですけど、アカイン家の血を引く、わたくしには、アンナちゃん様と同じ、誰でも虜にしてしまう魅了魔法を無意識に使っているそうなのです。

 まだ子供だから、魔法をコントロール出来ず、誰もがわたくしのことを可愛がってくださるようになっているみたいなのですが、アンナちゃん様からは「変な大人の男が近づいてくるかもしれないから、怖かったら、その時は大声をあげて逃げなさい」と、おっしゃってくださいました。

 教えてもらった時はとても複雑な気持ちでしたわ。

 アレクの告白も無意識の魅了魔法によるものではないかと疑ったりもして、

 魔王妃だった頃は、大柄で暴れ者の屈強な男たちを並べて、叱りつけていたことが何度もあるので怖くはありませんもの、大声をあげて逃げるなんて、そんな恥ずかしいことしませんわ。

 この自分の身体で、コントロールすることは多分まだ出来ていませんが、魅了魔法は魔王妃だった頃は自在に操っていた魔法のひとつですもの、そのうち、使えるようになりますわ。

 いつもは賑やかな食堂も、今日は朝食をお父様と一緒に食べた以外は一人で食事をし、本当は忙しいはずなのに、お母様はわたくしと一緒に寝てくれました。

「リーザ、丸一日ほったらかしにして、ごめんなさいね」

「お母様たちは立派な魔法使いを育てる魔法学院のお仕事をしているんですから謝らないでください。わたくしもいつかはそこへ通えるのでしょう? そしたら、いつも一緒ですわ」

「そうね。新入生として入学してくるリーザの制服姿が楽しみだわ」

「制服ですか?」

「伝統なのよ」

「楽しみですわ」

 そんな会話をして、眠りに就き、翌日の西部行きを迎えました。





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