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第一話 狂乱女王<<カオスクイーン>>は迷惑な婚約破棄をする奴らに罰を与えました。

新作です。

勧善懲悪ものです。


ご感想などお待ちしております。

今日、一人の令嬢が婚約破棄を受けようとしていた。


舞台はこのバレー・トラスト王国の王都ノクティスで行われたパーティー。


婚約者である公爵家の子息に隠れて、子爵令嬢を苛めや暴行を加えていたと言う理由で断罪される。


しかし、その裏を返せばどす黒い陰謀があるのが世の常である。



今回の陰謀はある子爵令嬢が黒幕である。


その子爵令嬢たるローリン・トンプソンは、公爵家の子息であるエドヴァルド・エドガートンの腕に抱き付きながら、断罪の時を愉しみに待っていた。


その後ろには、魅了魔法で虜にした宰相や騎士団長の次男である子息たちが控えている。


それだけではない。


彼女の魅了魔法はすでに会場全体を覆っており、パーティーに参加している者たちの心を支配していた。


すでにパーティーに参加している貴族たちは彼女の手のひらにある。


・・・容易いものね。


ローリンの魅了魔法は絶大なものである。


裏の世界では<七化けのクサンティッペ>と呼ばれている彼女は、妖艶な娼婦、か弱き少女、果ては老婆までローリンはどんな姿にも変身して多くの人々を騙してきた。


まさに稀代の悪女と言える存在である。


今回も三十路である彼女は若返りの魔法を使ってか弱き少女に変身していた。


我ながら感心してしまうローリンであったが、一つだけ気になることがあった。


実はこの中にただ一人だけ魅了魔法にかかっていない美青年がいた。


・・・どういうこと?


ローリンは隙があれば魅了魔法を唱えるが、美青年にはまったく影響がなかった。


ただ、美青年は何も行動を起こすことはしない。


時折、喉を潤すために水を飲んだり、椅子に座ったまま欠伸をしたりしている。


よほど暇なのだろうか。


しかし、断罪する時間が近づいてくるにつれてローリンは青年のことは気にしなくなっていた。


そう、まもなく断罪の時間が始まるのだ。


高揚する気分の中、ようやくローリンの前に目的の人物が現れた。


侯爵令嬢であるメアリー・ウィンステッドである。


周囲からメアリーを中傷する声が聞こえ出す。


聞くに堪えない内容であり、それがローリンの心の闇を潤してゆく。


・・・そう、もっと盛り上げなさい。


そう、メアリーは鳥籠に囚われた小鳥である。


これからメアリーの羽根が否応なく剝ぎ取られていく様を想像するだけで楽しみだった。


メアリーがエドヴァルドとローリンの前に進み寄る。


「お久し振りでございます」


メアリーは二人にお辞儀をする。


「待っていたぞ」


エドヴァルドがメアリーを睨み付けると後ろに控える宰相の子息たちも冷たい視線を向ける。


彼らの圧力にメアリーの体が震えている。


ローリンは改めて会場を見回す。


王族の姿が一人もない。


これも予定通りである。


彼女の魅了魔法に惑わされた騎士の一人から、パーティーのプログラムを手に入れていた。


この断罪の時間も王家の人々が席を外した時間帯に行っている。


おそらく、断罪をしたエドヴァルドたちは拘束されるだろう。


しかし、魅了魔法に取り込まれた目撃者が正気に戻るのは明日。


その間に、ローリンは逃げ出す手筈になっていた。


「メアリー・ウィンステッド、婚約を破棄させてもらう」


「理由をお聞かせ願えますでしょうか?」


声を震わせながら、ローリンがエドヴァルドに尋ねる。


「お前はここにいるローリン子爵令嬢を苛めた。その行為は残虐非道な行い到底許せるものではない!」


・・・そうそう、もっと盛り上げなさい。


楽しさが増してゆく。


目の前ではメアリーが恐怖に支配されてその場に蹲っている。


「よって、私は貴様との婚約を破棄し、ここにいるローリン・トンプソンと婚約を結ぶことにする!」


エドヴァルドの宣言に会場の誰もが感嘆と拍手を送る。


この優越感がローリンにはたまらない。


・・・ああ、いいわ。もっと私に愛しなさい。


これまで多くの婚約破棄事件を起こしてきた彼女にとって、この断罪劇は自分へのご褒美であった。


断罪劇も佳境に入る。


後ろに控えるローリンの取り巻きたちがメアリーのドレスを剥がして暴行を加えるだけだ。


しかし、ローリンの描いた舞台はここから劇的な変化を迎える。


「では、一つお聞きします」


突然、怯えていたはずのメアリーが立ち上がる。


何故か彼女は浮かべている。


ローリンはその笑みが不気味に感じられた。


「な、なんだ?」


急にメアリーの態度が変わったことにエドヴァルドが動揺する。


「今回の婚約破棄は王族の方々もご存じですか?」


「もちろんだ」


これは当然、嘘である。


ローリンは「報告が遅れて大丈夫でしょう」とエドヴァルドに助言していた。


先程も話したように、今回の件は確実に王族の怒りを買う。


そうすればこの国の中枢を担う宰相や騎士団長たちの力が弱まるのだ。


そう、これこそがローリンの目的であった。


彼女はバレー・トラスト王国と敵対するある国の依頼を受けていたのだ。


これまでのこのような依頼を受けており、すべて成功させていた。


今回も事はうまく運んでおり、彼女の中では笑いが止まらない。


だが、その余裕がなくなる時が来た。


「あら、私の耳には入っていないわ」


その場にいた誰もが動きを止める。


メアリーの声が別人のものになったのだ。


「どうせそこの女の入れ知恵でしょうね。でも、まだまだね」


メアリーが大声で笑い出す。


「そもそも王家主催のパーティーで婚約破棄を宣言するなんて馬鹿じゃないの」


「なんだよ!?」


「無礼な!!」


侮辱された騎士団長の子息が怒りのあまり、メアリーに殴りかかる。


「無礼ね」


だが、メアリーはいとも簡単に彼を投げ飛ばした。


騎士団長の子息は受け身が取れず、床に叩き付けられて気を失ってしまった。


・・・嘘でしょ!?


まさか、メアリーが取り巻きである子息を投げ飛ばすとは思わなかった。


そんな力がその小さな体から出るとは、ローリンには信じられなかった。


「仕方ないわね」


メアリーは指を鳴らす。


すると魅了で包まれた結界が消えた。


「えっ?」


ローリンだけが自分の結界が消えたことを知る。


「なんだ?」


「どうしたんだ?」


「何が起こっているんだ?」


ローリンの魅了から目を覚ました貴族たちが混乱している。


「イクス、彼らを避難させなさい」


「はい、はい」


壁にもたれていた美青年イクスの合図で衛兵たちが現れると、貴族たちを外へ誘導する。


「お、お前は本当にメアリーなのか!?」


エドヴァルドがメアリーを指差しながら叫ぶ。


「あれ、あなたも魅了されてたんじゃないの?」


「はっ!?」


エドヴァルドは自分の口元を押さえる。


その事実はローリンさえも知らないものであった。


「エドヴァルド、あなた・・・」


「どうせ、あれでしょ。魅了魔法にかかったふりをして、どこかのタイミングで自分は正気に戻りましたよって言って宰相や騎士団長の力を弱めてるつもりだったんでしょ?それとも他国へ逃げる算段でもついているのかしらね」


「ち、違う!!」


「じゃあ、どうしてあなたは正気なのかしら?」


メアリーの視線がローリンに向く。


「エドヴァルド、あなた、私をだましていたの?」


「お、お前だってそうじゃないか」


二人とも状況を理解できずにいる。


「はいはい、そこまでにしなさい」


メアリーが手を叩きながら二人を止める。


「さて、今度はあなたたちよ」


メアリーがスカートの裾を破ると、彼女の足元が露になる。


「ズボンの方がいいわね」


「姫様、はしたないですよ」


イクスと呼ばれる美少年が、メアリーに注意する。


「はいはい」


イクスの言葉を流しながら、メアリーはハイヒールを脱ぐ。


「そこの女・・・なんだっけ・・・名前が思い出せないわ・・・・」


「ローリン・トンプソンよ!!」


ローリンの苛立ちにメアリーは苦笑する。


続けて、エドヴァルドに目を向ける。


「そこの腑抜けな男も哀れね」


メアリーの冷ややかな視線にエドヴァルドは覚えながら尋ねる。


「お前、本当にメアリーなのか?」


「あら、やっとそこに気付くの」


そう言うと、メアリーの体が青白い炎に包み込まれる。


「遅すぎだわ」


変身を解くとそこには赤毛の髪をした女性がいた。


「あ、あなたは!?」


その姿を見たエドヴァルドは驚愕する。


「どうしたの?」


気付かないのはローリンだけである。


エドヴァルドがすぐに臣下の礼をとる。


「何してるのよ!?」


ローリンが戸惑いを見える。


「あ、あんた誰よ!?」


「私?」


赤毛の女性はエドヴァルドを見る。


「ねえ、私のことを教えて上げなさい」


「・・・バレー・トラスト王国にして第一皇女で在らせられるタムリン・クレディコー様です」


「ご名答~♪」


タムリンが笑う。


「・・・嘘でしょ!?」


ローリンは思わず後ずさる。


まさか、王族でしかも第一皇女が現れるとは思いもしなかった。


「あなたたち、よくも私の親友たるメアリー・ウィンステッドを陥れようとしたわね」


「そ、それは何かの間違いかと・・・」


「もっとうまい嘘をつきなさいよ。私の前で散々、メアリーのことを馬鹿にしたくせに」


こんな()()()()()男がメアリーの婚約者だと思うとメアリーは呆れるしかない。


「ねえ、今回は誰が責任を取るのかしら?」


彼女に尋ねられた二人は無言になる。


「ローリン・トンプソン、あなた、魅了の魔法を使ったわね」


魅了、それはどの国でも禁忌である魔法であった。


そのため、どの王族も魅了魔法に惑わされないよう対抗策を講じている。


「認めなくても良いわよ。二人には国家反逆罪で捕まってもらうから」


タムリンは左太腿に装備していた短剣を取り出すと、ゆっくりした足取りで二人に近付く。


「ひぃ!!」


タムリンの威圧に恐怖したエドヴァルドが逃げ出した。


しかし、イクスがそのまま床に引き倒してエドヴァルドを拘束する。


「姫様、さっさと終わらせましょう」


「そうね」


タムリンは改めてローリンと対峙する。


「さて、今度はあなたね」


「こ、来ないで・・・」


ローリンがさらに後ずさる。


周囲を確認するが、この宮殿には自分たちしかいない。


どう足掻いても逃げ場がない。


このような状況は、ローリンにとってこんなことは初めてだった。


完全に追い詰められたと言ってよい。


「質問に答えなさい。あなた、今回の断罪劇を誰に頼まれたの?」


「そ、それは・・・」


「どうせ西側か北側でしょ?魅了の魔法を使ってまで用意周到な割りには私のことを頭になかったなんて愚か者ね」


「うるさい!黙れ!!」


ローリンは胸元からペンダントを引き千切って前に出す。


追い詰められた彼女はこの手しかなかった。


「最後の手段って訳ね?」


「そうよ!!こうなったら全員道連れにしてやる!!」


「それ、自爆用のペンダントじゃない」


ペンダントに爆炎魔法が封じ込められていることにタムリンは気付く。


「だったら、私に近付かないで!!」


「ふふふ・・・面白いじゃない」


タムリンは歩みを止めない。


「あと、お任せしますよ」


イクスがその間に、エドヴァルドを担ぎ上げて外へ向かおうとする。


「あ、あんただけ、なんで外へ向かうのよ!?」


その様子にローリンが叫ぶ。


「だって、うちの姫様言うこと聞かないんで」


ローリンの問い掛けに答えながら、イクスが宮殿を出る。


「なんなのよ・・・これ・・・」


全く理解できない。


配下の者が王族、しかも、皇女を置いて現場を離れる。


それが許される。


この女は何者なのか。


理解が追いつかないローリンの様子に、タムリンは満足していた。


「何をしてるの?これが見えてるでしょ?」


「ええ。見えてるわ」


「だったら、なんでそんなに楽しそうにしてるのよ!」


「だって、面白いじゃない。こういう展開」


「面白いって・・・狂ってる」


目の前の皇女に恐怖するローリン。


「あ、あんた、異常だわ!!」


「仕方ないじゃない。私には狂戦士バーサーカーの血が引き継がれているんだもの」


タムリンは短剣をローリンに向ける。


「覚悟しなさい」


「ひぃ!!」


タムリンの手がローリンの手を押さえる。


「離せ!!」


「離すはずないじゃない」


タムリンが笑みを浮かべる。


視線がペンダントへ向く。


赤いボタンが鈍い光を醸し出す。


その笑みに隠された意図をローリンが理解する。


「・・・ちょ、まさか・・・」


「一度、試してみたかったの。この手のものを」


タムリンがボタンを押そうとする。


それをローリンが防ごうとする。


「いや~~!!」


タムリンの握力が強く、その力に跳ね返すこともできないローリンが絶叫する。


「押させなさい~」


「やめて~!!」


その時、彼女の手からペンダントが落ちてゆく。


『あっ』


二人が言葉を発した瞬間、ペンダントが床に落ちた。


ボタンが押された音が聞こえると、五秒後に離宮が大爆発を起こした。



翌日、タムリンはイクスと共に廃墟とかした離宮の前にいた。


「やっちゃった」


「そうですね」


実はタムリンは爆発の前に、自分とローリンに防御魔法をかけていた。


同時に、爆発の瞬間に風圧魔法に寄って外に飛び出て爆炎に巻き込まれずに済んだのだ。


だが、王宮の一つである建物を壊したことで彼女は王である父からお叱りを受けた。


「何やってんですか、姫様」


「だって・・・脅せば素直に従うと思ったんだもの。でね、勢い余って爆破させちゃった」


「お陰様で僕の給与は減俸になりそうです」


「いや~~ごめんね」


結局、エドヴァルドは極刑となった。


彼はタムリンの推理通り、海外の勢力と手を結んでバレー・トラスト王国を裏から支配しようとしていた。


そこに<七化けのクサンティッペ>が来ることを聞いていた彼は、彼女の魅了魔法に操られるふりをしていたのだった。


<七化けのクサンティッペ>ことローリンも極刑であった。


これまでの多くの罪を考慮しても極刑は免れなかった。


ただ、彼女は事件後に気が触れてしまっており、刑場へ向かう最後まで「来ないで!!」と叫び続けていた。


その原因はどう考えてもタムリンであるのは間違いない。


また、ローリンの魅了魔法に操られた他の関係者もそれぞれ罰を与えられることになった。


これが今回の顛末であった。


しかし、皆がこの事件の顛末など興味はなかった。


皆の関心は今回の殊勲たるタムリンに向けられていた。


「あの方はヤバい」


「さすがに婚約者になりたくないな」


「爆発の時、笑っていたらしいぞ」


皆が口々に話す中、のちに爆発から逃れたタムリンがローリンの袖を持って引きずりながら、燃える宮殿の中から現れた時のことをある令嬢が両親にこう伝えたと言う。


「あの姿・・・狂乱(カオス)でしたわ・・・」


それが尾を引いた上、タムリンが様々な事件に首を突っ込むたびに災害ディザスターを起こして<狂乱姫カオスプリンセス>と呼ばれ、さらに<狂乱女王カオスクイーン>と呼ばれるようになるのは後のことである。

〇登場人物の紹介


〇タムリン・クレディコー


本作の主人公でバレー・トラスト王国のお姫様。

一見美少年とも見える格好から、皆からは『男』だと思われたが由緒正しい皇女である。

王都ノクティスで行われたパーティーである婚約破棄事件に関わったことで正義の鉄槌を下した。

それがきっかけで正体を隠して悪人退治を行う。


その際、周囲に壊滅的な被害を出すため姫様なのに人々から「狂乱女王カオスクイーン」と呼ばれている。


正体を隠す際に自分のことを「アラン・スミシー」と名乗る。

相手が自分の正体に気付き、「狂乱女王カオスクイーン」と名乗ると必ず「ご名答~♪」と答える。


相手と戦う時は黒髪が赤髪に変わり狂戦士化(バーサーカー化)する。


〇ミランダ・インヴェントリクス


タムリンの秘書兼護衛。

とにかく美青年。

でも、タムリンの尻ぬぐい担当。

愛称はイクス。

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