表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

底までおちた元騎士が偽物聖女と幸せになるまでのプロローグ

作者: 獅子舞

処女作です。生温い目で見てください。

 

 汚れた素足の上を蟻が這う。

 そういや、前回は貸し出しされてて水浴び出来なかったんだった。

 ぼんやりした頭で思う。もはや慣れ切った鼻は何も感じないがきっと酷い異臭がするはずだ。

 お世辞にも衛生的とはいえない檻の中。泥や血で汚れた体を何となしに見る。

 薄汚れた襤褸を纏い、腕や足には折檻の跡。腹には未だに血が滲んだ切り傷があるはずだ。貸し出しの時に受けた鞭の跡が背中を痛ませる。

 今回は特に加虐趣味の強いやつだった。前のやつは何回でダメになったんだろうか。次も来るのだろうか。俺はいつ、壊れるのだろうか。

 そんなことをぼんやりと考える。


 ◇



 黒髪ってのは珍しい。金髪やら銀髪やら、きらきら光に反射する髪が一般的ななか、光を吸収するような漆黒の髪は差別の対象だった。ガキの頃はそれでしょっちゅう喧嘩しては怪我をしていた。お袋は気づけばいなくなり、親父は酒を飲めば暴力を振るう。そんな家だった。平民街でも特に治安の悪い地域のさらに最低な場所。そんな所で俺は育った。盗みや暴力が全てで弱い奴はどんどん死んでいく。かと思えばすこし歩けばお貴族様の華やかな生活がそこにある。それを見ては羨んで妬んで隣のやつを殴る。真隣にある暗闇に明るいやつらは見て見ぬふりをする。

 俺はそれが心底嫌だった。

 こんな場所にはいつまでもいられないと街を飛び出したのは幾つの時だったか。衝動的に飛び出したから当然行く当てもなく、ふらふら彷徨った挙句行き倒れた。そしたら何のめぐり合わせか当時の近衛騎士団に拾われた。汚れた体を川で丸洗いされ、きれいな服を着せてもらったら、遊びと称して剣を教えてくれた。遠征で来ていたらしく、王都に戻る際に共に連れて帰ってくれて孤児院まで手配してくれた。

 孤児院では楽しかった。慣れない集団行動や勉強も騎士団に入る為を思えば頑張れた。

 さすがに近衛騎士団にはなれないが、寄宿学校は試験を通過すればどんな身分でも入学できる。そこからさらに研鑽を積めば王国騎士団や自警団に入団する道が開ける、かもしれない。

 狭き門だが、俺は何とか通り抜けて晴れて王国騎士団に入団した。図らずも少年時分の劣悪な環境がタフネスと攻撃の仕方を体に染みつかせていた。

 そうして騎士として経験を積んで20余年。平民出身ながら王国騎士団団長の地位に上り詰めていた。



 ◇



 最近クラバスの最東端マルサ砦から魔物の発生が多く報告されていた。

 マルサ砦は深淵の森と隣接しているため、荒事も多く実力主義が染みついた騎士がおおく詰めている。

 近くの砦も協力しているが、スタンピードが起きればそれもいつまでも持つまい。報告では魔物の数もさることながら、それらを率いる魔族の姿も確認されている。砦を指揮するアルロ隊長は勇猛な将だ。戦況を見極めつつ深追いして罠にはまるようなことはないだろう。だが兵士も兵糧も限りがある。刻一刻と戦況はひっ迫していくだろう。1日でも早く大隊を率いて援軍に行きたいところだが、国王に止められていた。悠長なことをしていては手遅れになる。いや、もうすでに遅いくらいだ。マルス砦が落ちればあとは流れ込まれる一方だ。こうなれば無理やりにでも援軍を送らなければと、秘密裏に大隊の装備を整え、魔法師団とも連携をとり、あとは出立するだけという段になって、第一王子が伝説の剣に選ばれたと触れが出された。




 王都は一気に沸いた。

 期待の第一王子が勇者となり、近衛騎士団長を盾の騎士に仕立て、魔法師団のエースが噂の魔物退治に行くというのだ。そりゃ市井は賑わうだろうさ、まるでどこぞの物語だ。

 気づけば魔物退治が魔王討伐に成り代わりその熱気は日に日に強まっていった。そして、その熱に浮かされる様に召喚の義を執り行い、艶やかな黒髪の少女が現れた。

 その時俺は王宮の警護のために広間に控えていた。

 勇者御一行の為にせっかく根回ししていた準備がぱぁになり、先遣として小隊をいくつか送るだけになってしまったのだ。近衛騎士団長が出立するため、俺は王宮の警備もフォローすることになった。アルロ隊長には本当に申し訳が立たず、送れるだけの物資をこれでもかと送り、持てるだけの備蓄を小隊に持たせて送り出した。

 王族や貴族がパーティを開く中、連れてこられた少女は場違いな格好で遠目にもわかるほど怯えていた。王子に引きずられるように参加者に挨拶して回るなか、誰も彼女が震えていることを指摘しない。はだしの足がガタガタ震えているのに、唇なんて可哀そうなくらい色を失っているのに。見て見ぬふりをする。ならば俺は、せめて見ておこうと思った。何は出来ぬともただ、見知らぬ場所に連れてこられた少女を。自分と同じ色を持った女の子のことを。



 ◇



 見ておこうと思ったものの、少女は召喚されて早々勇者御一行と一緒に出立していった。旅をしながらこの国のことを教えていくと王子は言っていたらしいが、はたしてあの王子にそんなことができるのか。ま、俺には関係ない。心配しようが当人はもう旅に出ている。俺は俺の仕事をするだけだ。

 通常業務に加え王宮の警備も増えたことで常に追い立てられるように仕事をこなした。なんでこんなに忙しいんだとぼやきながらマルサ砦の戦況を考え物資の供給も続ける。

 目まぐるしく日々が過ぎていく。

 半年も経てばマルサ砦のスタンピードも落ち着いた。被害は大きかったが魔物を国に流れ込ませることなく、すべて砦で抑え込んだアルロ隊長には脱帽した。

 勇者御一行はそのまま魔王を討伐するといい、深淵の森に進行していったらしい。

 いや何やってるんだか、近衛の団長さんは帰ってきてくれ。誰があんたのフォローしてると思ってるんだか。


 それからさらに1年、魔王を討伐したと勇者御一行の吉報が王都に届いた。




 ◇


 魔王討伐の吉報で街が明るくなっていく一方で、何故か俺に他国のスパイ容疑が掛かっていた。いやちょっと待ってくれ。よくわからない。黒髪がどうとか赤目がどうとか。実は魔族なのではとか。重鎮のお貴族様がくちぐちに俺を責め立てた。どこから持ってきたのか他国と繋がっている証拠だという文書。それが大隊を率いようとしてた時に魔法師団に送った文書で、ああ俺は嵌められたのかと理解した。

 国家反逆罪に脱税、横領、窃盗罪とあれよあれよと罪が重なり重くなり、俺は弁解も釈明もできぬまま投獄され。身分剥奪の上奴隷に落とされた。

 犯罪奴隷だ。ろくな扱いはされないとは思ったが、マジで最悪だった。

 殴られ蹴られは日常茶飯事で貸し出しされれば客の要望で痛めつけられる。週に一度水を浴びれるが傷の手当てをしていないから心底沁みて痛い。火傷してる時はのたうち回るほどだった。

 ここで俺は人間じゃなかった。腐った飯を食ってクソを垂れるだけの動物だった。



 ◇


「見つけた」


 女の声に顔を上げると檻の向こうからこちらを見つめる黒い瞳と目が合った。

 フードとマントで顔がよく見えないが意志の強い瞳はじっと逸らされることなく俺を見ていた。

 奴隷商人に首輪を引っ張られ檻から出される。手足に着いた鎖がチャラチャラうるさい。

 そのまま商談の部屋に移され女と商人の会話が続く。

 ぼーっとしたまま机の脚を眺める。いつもの流れ、また貸し出しだろう。この女も痛めつけて鬱憤晴らしをするんだろうか。まぁいつもの事だ。

 虚ろなまま首の鎖を引っ張られ、ガチャンッと重い首輪が落ちる。すかさず違う首輪がギュゥっと閉められ首が絞められる。

「やめてっ!もう彼は私のものよ!!丁重に扱いなさい!!!」

 女の声が響いた瞬間首輪が緩み一気に咳き込み蹲る。咳を鎮めながら目だけで女を見上げる。

 まっすぐ前をにらむ黒い瞳がきれいだった。

 どうやら今度はこの女が俺の主人になるらしい。









最後まで読んでいただきありがとうございます。

お風呂に入っているときに浮かんだネタを書いてみましたが、思ってたところまでなかなか進まないといいますか・・・小説って難しいですね。

書けたら偽物聖女の話も書きたいです。さらにやる気が続けば偽物聖女と元騎士が異世界を満喫している話も書きたい(言うだけならタダ!!)

や、本当はそっちがメインだったはずなんですけどねw


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ