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逃走劇


 全速力で駆けて敷地外へ。

 襲いかって来るヘルハウンドを斬りつけるも、一撃では仕留め切れない。

 怯ませるのが精一杯で数を減らせず、大勢を引き連れたまま道路を駆ける。


「お、追い付かれてしまいます!」

「なにか手は――」


 思考を巡らせる最中に、横転した自動車の脇を抜けた。

 家電量販店に向かう途中に瓦礫と廃車で橋を作ったことを思い出し、スキルを発動。


「これなら」


 磁界を発生させ、群れの横っ腹を突くように廃車を弾く。

 サイコロのように転がった車体に潰されて何体かは息絶えた。

 仲間がやられた動揺でヘルハウンドの足がほんの僅かに遅くなる。

 それでも振り返れば炎の波が押し寄せるような光景が迫ってきていた。


「なるほど。では、私も!」


 戦笛が回転し、旋律が響く。

 その音色は亀裂の走った建物に届き、共振させ、雪崩のように崩す。

 数多の瓦礫に飲まれ、群れの数がまた削れる。

 距離が稼げてきた。


「ナイス。このまま」

「はい、逃げ切りましょう」


 更に速度を上げて駆け抜け、見えてくる落ちた橋。

 背後からはまだまだヘルハウンドが来ている。

 振り切るには――


「秋山! 跳ぶぞ!」

「は、はい!」

「三、二、一! 跳べ!」


 落ちた橋の先端から全力で跳び、スキルを発動。

 稲妻由来の磁界が発生し、川底に沈んでいた瓦礫が浮上する。

 その上に二人ともが着地し、深く沈み込んでまた浮かぶ。

 安定した足場から振り返ると、ちょうどヘルハウンドの群れた同じように跳ぶ場面だった。


「通すかよ!」


 新たな瓦礫を複数浮上させ、盾として、壁として、進路を阻む。

 がっちりと引き合わせて固定した瓦礫に体当たりしたヘルハウンドたちは為す術もなく川底へと落ちていく。

 炎の属性を持つモンスターは水に弱い。

 流れる川に逆らうことも出来ず、何体ものヘルハウンドが溺れ死ぬ。

 同時にレベルアップの通知が瓦礫を背景に表示された。


「うわ、一気に5も上がってる」

「私もです。一網打尽ですね」

「狙ってやれることじゃないけど、とにかく助かった」


 瓦礫橋の先を作り、無事に向こう岸へ。

 磁界を解除すると水飛沫を上げて橋は落ち、対岸の炎たちはこちらを怨めしそうに見つめている。


「行きましょう。まだ他にもモンスターがいるかも知れません」

「そうだな。油断せずに行こう」


 緩んだ糸をぴんと張り、その場を後に。

 多くの経験値と必要な機器を持って拠点へと帰還した。


§


「壊れた蓄電池をベースに新品の蓄電池を宛がって……クラフト開始」


 ウィッチクラフトの機能は正しく作動し、壊れた蓄電池が光を帯びる。

 クラフトが完了すると蓄電池は新品同然のような状態になっていた。


「これで大丈夫なはず」

「確かめてみましょう」


 倉庫に入り、スイッチに触れると微かな明滅と共に照明に明かりが灯る。

 蓄電池は修復されていた。


「やった!」

「いえい!」


 秋山とハイタッチを交わす。

 電気が通れば拠点として申し分ない。


「さて、戦利品のお披露目だ。まずはこれ」


 アイテムボックスから取り出すのは電子レンジ。


「これでいつでも暖かいご飯が食べられますね。あ、ご飯と言えば」


 秋山からも戦利品が出る。


「じゃーん。冷蔵庫です。これで貴重な食糧も日持ちしますよ」

「なんだ、二人とも食い物関係ばっかりだな」

「ふふ、私たちいつの間にか食いしん坊になっていましたね」


 それからあれこれと一通り戦利品を見せ合い、一息をつく。


「……お金、払わずに帰ってきてしまいましたね」

「そうだな……元々、払えるような額は持ってなかったけど」


 アイテム覧から財布を取り出して中を覗く。

 コンビニから商品を取るたびに金を置いていたのでもうすっからかん。

 秋山と合わせても蓄電器一つ買えはしなかっただろう。


「でも、金もいつかは尽きていたんだ」

「しようがないこと、なんですね」

「そういう世界になったからな」


 そう自分を納得させるほかに良心の呵責から逃れる術はない。

 軽い財布をアイテム覧に戻した。


「色々なことがあって、その分、疲れてしまいましたね」

「今日のところはこれで終いだな。ちゃんと休息を取って、明日は……」

「はい。レベルを上げて家族を捜しに行きましょう」

「あぁ」


 絶望的な状況ばかりだったけれど、秋山に会えてすこし希望が見えてきた。

 一人では無謀でも、二人なら捜索になる。

 父さんと母さん、そして秋山の両親も生きて見付かると信じよう。

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