家電量販店
二人の拠点とした倉庫から遠くない場所に家電量販店がある。
そこでなら蓄電池も取り扱っているだろうということで俺たちは出発した。
モンスターやゾンビに見付からないように周囲を警戒しつつ道路を歩く。
秋山の手には笛と棒が合わさった特殊武器、戦笛が握られている。
「なぁ、秋山」
「はい、なんでしょう?」
「秋山は……どっちだと思ってる? この世界が現実か、ゲームか」
「認めたくはありませんが、現実だと思っていますよ」
「そうか」
やはり自己紹介の際に本名を名乗ったのはそういうことか。
「私がこの世界で目覚めた時、お父さんもお母さんもいませんでした。無事に避難したと思いたいのですが……」
「俺も同じ境遇だよ。両親の安否はわからない。だから、蓄電池を回収したら二人でレベル上げをしよう。捜しにいけるように」
「そう……ですね。一人では危険でも二人なら。私、天宮さんと会えてよかったです」
「俺も一人じゃなくてほっとしてる」
隣りに人がいてくれるのは心強い。
それが共に戦ってくれる人なら尚更だ。
「おや? 橋が」
「あー、落ちてるな」
車両が爆発でもしたのか、モンスターに落とされたのか。
橋は半ばから崩れ、川の中心には廃車と瓦礫の山が出来ている。
「どうしましょう? 困りました。ここが通れないとなると遠回りに」
「まだお互いにレベルが低いし、出来ればここを通りたいけど。流石にウィッチクラフトでも修理は無理だな。これだけデカいと」
ほかに方法があるとすれば。
「ちょっと規模がデカいけど」
崩れた橋の端に立ち、スキルを発動して稲妻を纏う。
稲妻から電磁力を発生させ、鉄筋の入った瓦礫や廃車を持ち上げる。
それらを連結させて固定し、チグハグだが道を作り上げた。
「おぉー」
浮かせた瓦礫に足を置くとすこし沈むが落ちる様子はない。
そのまま全体重を乗せても持ち堪えられた。
「よし、行こう」
「はい!」
瓦礫橋を渡って向こう岸へ。
家電量販店はもうすぐだ。
§
「自動ドアは当然反応しないけど」
手で触れて稲妻を流しこむと、音を立てて自動ドアが開く。
「こんなもんよ」
「ふふ、お手柄です」
開いた自動ドアを潜って店内へ。
明かりを付けることは出来ないが、外からの光で十分に見える。
「手分けしよう。なにかあったら」
「はい、すぐにお互いを呼びましょう」
自動ドアを閉め、手分けして店内を回り蓄電池を探す。
「他にも使えそうなもの。電動ドライバーとかもあるのか。作ったり修理したりはウィッチクラフトで事足りるけど……一応、持っていくか」
不測の事態を考えて色々とアイテム覧に収納していく。
商品棚から役立ちそうなものを漁っていると、物陰で何かが動いた。
咄嗟に剣に手を掛けると、笛の旋律が耳に届く。
「秋山?」
「天宮さん? びっくりしました」
戦笛を構えた秋山は、息を吐いて警戒を解いた。
「同士討ちにならなくてよかったな」
俺も警戒を解いて息を吐く。
パラロスでもプレイヤーキル、人殺しは可能だった。
運が悪いと味方に殺されてしまう。
「もう見て回ったのか?」
「はい。蓄電池はありませんでした」
「ならこの棚のどこかか」
同士討ちの危険性を常に頭の片隅に止めておくことにして先に進む。
並べられた商品を順に見ていくと、目当ての物が見付かった。
「これだな、蓄電池」
「はい。これで拠点の蓄電池が直せます。問題は――」
秋山の言葉を遮るように、自動ドアの辺りで派手な音がする。
硝子の割れたような音で、恐らくはモンスターが突き破ってきた。
「見付からないように移動しよう」
「はい」
蓄電池をアイテム覧に収納し、腰を低くして慎重に動く。
物音を立てないようにゆっくりと移動し、自動ドアが見える位置へ。
そっと様子を窺うと自動ドアの前で屯するモンスターを発見した。
「ヘルハウンドだ」
「適正レベル12のモンスターですね」
姿形はウルフに似ているが、燃え盛る毛並みと火の吐息が特徴的なモンスター。
適正レベル12とだけあって属性を持ち、すばしっこい。
「俺のレベルが10で秋山のレベルが9だったか。あの数を相手するのは危険だな」
「そうですね。自動ドアは諦めて裏口へ向かいましょう」
「名案だ、行こう」
正面から出るのを諦めて裏口へと急ぐ。
商品棚の影に隠れて移動していると、不意に何かの匂いがする。
焼けたような炎の匂い。
それに気を取られて足を止めた次の瞬間、商品棚がぐらりと揺れる。
「倒れ――」
すぐにスキルを発動して稲妻を纏い、磁界を展開。
倒れてくる商品棚を受け止め、落ちてくる商品の雨を受け止める。
「お返しだッ!」
そのまま磁力で反発させ、逆方向へと弾く。
商品棚は逆方向へと倒れ、不意打ちを仕掛けたであろうヘルハウンドを押しつぶす。
「ギャンッ!?」
断末魔の叫びと共に経験値が入った。
それと同時に真正面から別個体のヘルハウンドが駆ける。
剥かれた炎の牙が迫るが、秋山がそこへ割って入った。
「させません!」
鮮やかな棒術でヘルハウンドを打ち、振りに伴い音が鳴る。
返り討ちにあったその個体はすぐに起き上がり、そこを商品の塊が襲う。
磁界はまだ生きている。
「あ、レベルアップしました」
「そいつはよかった。さぁ、ここを出るぞ、奴らが来てる!」
ドミノ倒しのように商品棚が倒れ、滅茶苦茶になった店内を後にする。
裏へと回り、裏口を見付け、扉を蹴破って外へ。
「天宮さん! 外にまだ!」
「さっきのは斥候だったのか!」
景色が広がると共に見える炎の色。
音を立てて飛び出した俺たちに気付いたヘルハウンドの群れは数えるのも嫌になるほど。
まともに相手をしていたら命が幾つあっても足りない。
「とにかく走れ!」
「はい!」
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