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プレイヤー


「朝……」


 気がつけば朝になっていた。

 いつ眠りについたのか。

 いつこの場所、横転した電車を見付けたのか。

 寝ぼけた頭で記憶を探ってみたが思い出せない。

 ただただ必死に駆け抜けて、現れるモンスターを斬り捨てた。

 それだけしか憶えていない。


「夢じゃなかったのか」


 座席の背もたれから起き上がり、地面しか映らない窓を踏みつける。

 ポールを跨いで置くへと向かい、ガラス片を蹴散らしながら外へ。

 壊れた連結部分から外に出ると、雨が降ったのか地面が濡れていることに気がつく。

 お陰で眺めた街に火は見えず、とても静かだった。


「……ログアウトできない、問い合わせもできないか」


 うすうす無駄だとわかりつつも確かめてため息を吐く。

 これがただのゲームならと思わずにはいられない。


「腹が……減ったな」


 そう言えば昨日の昼から何も食べてない。


「食べ物、コンビニ」


 水溜まりが跳ねて靴が濡れるのも構わず歩く。

 あれこれと考えるだけの気力は残っていなかった。


「あった」


 幸運にもモンスターにもゾンビにも遭遇することなく見付けられた。

 押し入られた形跡のある壊れた自動ドアを通ると奥のほうでごそごそと音がする。

 息を潜めてゆっくりと近づくとウルフが弁当を貪っていた。


「あれくらいなら」


 ゆっくりと剣を抜き、基本スキルの一閃を発動。

 物陰から飛び出すと、即座に体が予め決められた動きをトレースする。

 瞬く間に剣閃が過ぎてウルフのHPを刈り取った。


「ふぅ……」


 剣を鞘に押し込むと、ウルフの死体が掻き消える。

 そしてドロップ品として毛皮と謎の肉がアイテム覧に収納された。


「レベルアップ。レベル5か」


 レベルアップの通知と共に自身のステータスが表示される。

 その一番下にはスキル習得の文字も。


「スキル。パラロスの時と同じか?」


 試しに発動して見ると、右手に稻妻が迸る。


「やっぱり俺は雷なんだな」


 レベルアップによるスキル習得の内容は個人によって異なる。

 例えばゲイルは雷ではなく風のスキルを習得していた。

 それによって当たり外れがあるとかで、昔はよくマウントの取り合いがされてたっけ。


「飯、飯」


 上の方の棚にはまだ食べられそうなものがある。

 籠を手に取り、食糧を詰めていく。

 おにぎり、サラダ、スナック菓子、水。

 必要そうなものを次々に入れてレジへ。


「金は……」


 商品の金額を確認しつつアイテム覧から財布を取り出す。


「このくらいか……べつに払わなくても咎められないけど」


 商品分の金をカウンターに置き、籠の中身をアイテム覧に仕舞う。

 両手が空くのはありがたい。

 そのままコンビニを出て曇り空の下を歩く。

 途中で再び雨が降り始め、廃れた雑居ビルへと避難した。


「日持ちしない奴から喰っていかないと」


 おにぎりの包装を空けてかぶり付く。

 いつもと変わらない味付けに、今はもうない日常が脳裏を過ぎる。


「ここも昨日までは……」


 何かの事務所だったのか、この部屋には幾つものデスクとパソコンが並んでいる。

 書類の山を誰かが捌き、キーボードを打っていた。

 それが今や見る影もないほど荒れ果て、地面には何らかの資料が散らばっている。

 仕切りとして置かれたパーテーションには血飛沫がべっとりとついていた。


「父さん、母さん、生きてるのかな」


 あの時、家には二人ともいなかった。

 リビングは荒らされていなかったし、二人で避難したはず。

 生きているはずだ。

 捜したいけど、この終末世界を一人で捜索するのは危険過ぎる。

 せめてもうすこしレベルを上げてからでないと。


「雨、止まないな」


 亀裂の入った窓から曇り空を眺めてまた一つおにぎりに口を付ける。

 これから一体どうすればいい。


§

 

 世界が終末を迎えて数日。

 曇り空が続く中、今日もコンビニへと向かう。


「パックご飯。レンジが動けば……」


 電力会社が物理的に潰されたのか、配電の問題か。

 とにかく街全体に電気が届いておらず、街灯にも明かりが灯らない。

 そんな中ではお湯を沸かすにも一苦労する。

 このパックご飯もレンジが動かなければ煉瓦と変わらない。


「そうだ」


 スキルを発動して右手に稻妻を纏う。


「いや、流石に……でも、パラロスでは行けたんだよな」


 パラロス内のイベントで電力切れの機械を動かすというものがある。

 通常はハンドルを回して発電する必要があるが、俺は雷スキルでそれをカットすることができた。

 それが出来るのなら雷スキルでレンジを動かすことができるかも知れない。


「まぁ、どうせ動かないものだしな」


 カウンターの内側に入り、レンジを開いてパックご飯をセットする。


「ふぅ……よし」


 右手に稻妻を纏わせ、そっとレンジに触れる。

 すると、息を吹き返したように電源がついた。


「マジか、やった」


 タイマーをセットすると通常通りに動き出す。

 ずっと触れていないと行けないが、それだけでレンジを動かせた。

 これで暖かい飯が食える。


「これなら冷凍食品も食えたのにな」


 すでに数日が経っている。

 食中毒の可能性がある以上、あれらにはもう手が出せない。


「あ、そうだ。おかずを考えないと」


 タイマーがゼロになるまでの間に今日の献立を考える。

 弁当や丼物、うどんやパスタは平らげてしまった。

 残っているのはスナック類やカップ麺。


「あぁ、カップ麺もこれで簡単に食べられるな」


 ケトルかポットで湯を沸かせられる。

 それはそれとしてほかには日持ちしそうなジャーキーやアーモンド類。

 干した梅干しもあったっけ。


「お茶はあるし、お茶漬けもアリか。そう言えば缶詰にもまだ手を付けてないし」


 候補をじょじょに絞っていき、あと数秒で温め終えるとなった頃。

 入り口のほうから足音がして、ふらりと一人の少女が現れる。

 ウェーブの掛かった茶髪が揺れ、柔らかな眼差しと目が合う。


「あ」

「あ」


 身に纏う装備はパラロスのもの。

 間違いなくプレイヤーだ。

 そう確信した瞬間、温め完了を知らせる音が鳴り響いた。

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