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黒い羽根


「あった!」


 ストーンゴーレムの脇を抜けて歩くことすこし。

 目当ての観光バスが見えてくる。

 幸いなことにモンスターの気配も、アンデッドの姿もない。

 今のうちに観光バスを頂こう。


「キーは……よし、刺さったままだ」


 嶋野さんが運転席に座ってすぐバスのエンジンが掛かる。


「燃料もオッケ。あとは運転方法だけど。悪い、ちょっと確認するするから外を見張っててくれ」

「わかりました。なら、俺が」


 嶋野さんが観光バスを動かせるようになるまで少し時間がかかる。

 それまでの間に見張りとして俺が外に出て観光バスの上に登った。

 ここからなら遠くを見渡せるし、モンスターの接近にもいち早く気づけるはず。


「……ここも随分と変わったな」


 破壊し尽くされた街の様子に今までの面影はない。

 この光景を見ていると、つい数日前まであった当たり前の日常がもう帰ってこないことを思い知らされる。

 復興なんて遠い未来の話だろう。

 それどころか今を生き抜くことすら難しい。


「……ダメだな。ネガティブになってる」


 しっかりしないと。

 これから家族を迎えに行くんだ、考えるのはその後でいい。

 気を取り直して周囲の警戒を継続していると、観光バスの上に誰かが登ってくる。


「椎名」


 月光に照らされた金髪のツインテールが揺れた。


「嶋野さん、もう大丈夫だって?」

「いいえ、あと少しだって言ってたわ」

「そっか」


 逸る気持ちのせいか、落ち着かないな。

 いつもよりせっかちになっている気がする。


「ありがとね、春人」

「なんだよ、急に」

「ほら、助けてくれたでしょ。白蛇から逃げるとき」

「あぁ、そう言えば」

「お礼を言う機会がなかったから、それだけ」

「じゃあ、どう致しまして」


 そう返すと椎名は少し笑って道路に降りる。

 それから少しして観光バスが少し前進した。


「お?」

「天宮、中に入れ。出発だ」

「はい!」


 観光バスに乗車し、適当な席に腰掛けると観光バスは発進する。

 法定速度など意味を成さなず、信号機も全て停まり、対向車など存在しない終末世界だ。

 観光バスは見る見るスピードを上げ、時折モンスターをひき殺しながら夢見ホールを目指す。

 夢見ホールに置いてきたゴーレムからの通知はまだ来ていない。

 このまま何事もなく駆けつけられると良いけど。


「あれ?」

「どうかしたのか? 隼」

「いま何か聞こえなかった?」

「なにかって?」

「なんだろう? 風の音?」

「あ、いま私も聞こえました。バサ、バサって」

「バサバサってそれってまるで」


 鳥の羽ばたき。

 それを連想して直ぐ耳に異音が届く。

 バサバサ。

 椎名と顔を見合わせ、音を鳴らしている何かがいると確信する。

 正体を確かめようと各々が窓際に目を向けた直後、車体が大きく揺れた。


「なんだ、この揺れは!」


 嶋野さんのハンドル捌きに乱れが置き、更に大きく揺れる。


「なんとか安定させてください! たぶん、上に――」


 金属が引き裂けるような甲高い音がして、天井が突き破られた。

 それは鋭く尖った頑丈な嘴。

 引き抜かれると空いた穴から正体を窺えた。


「ブラックフェザー」


 適正レベル23のモンスター。

 その形状はからすを思わせ、されどそのサイズはゾウよりも大きい。

 古今東西、ことアクションゲームにおいて飛行するモンスターは厄介だ。

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