ドーム球場
放置された観光バスの隣りをジープがすり抜けるとドームが見えてくる。
本来なら野球やライブなどで使用されるが緊急時とあらば避難所として機能するとか。
全身を撫でていく風を感じていると、遠目にゴーレムの姿を見る。
近づくにつれ、それが群れであることに気がつき、壁のように並んでいるように見えた。
「あれって」
「そう、ストーンゴーレムという奴だ」
ジープはストーンゴーレムの隣を素通りすると、次に鉄の鎧が目に入る。
「アイアンゴーレム」
その次は戦車やヘリといった自衛隊の装備。
それらに守られるようにしてドームは建っていた。
「終点だ。お忘れ物のないように」
ドームの玄関口でジープは止まり、俺たちは荷台から足を下ろす。
見張りをしていたであろう別の自衛官たちが駆け寄ってきた。
「帰ったな。生存者は四人……その格好、プレイヤーか?」
「みたいだ。トラックみたいにデカい蛇を追い返してたぜ」
「デカい蛇か、そいつは悪夢だな。ともかく、それならプレイヤーで間違いなさそうか」
自衛官たちがプレイヤーの存在を知っている。
顔を見合わせて困惑していると、ドームからまた一人誰かが出てくる。
パラロスの装備を身に纏った、二十代後半くらいの男性だ。
「よう、帰ってきてたのか。お? そこにいるのはプレイヤーか?」
「よろこべ、黒鐘。この子たちは戦える」
「ほんとか? そいつはいい」
気分を良くしたような笑みで、黒鐘と呼ばれた彼が目の前に立つ。
「はじめまして。俺は黒鐘鉄ってもんだ。歓迎するぜ」
この非常事態に似つかわしくないほどにからっとした笑みを彼は見せる。
「まぁ、詳しいことは中で話そうや。それでいいよな?」
「あぁ、プレイヤーのことはプレイヤーに任せる」
「オッケ。じゃあ行こうか」
一方通行な会話の後に黒鐘さんは歩き出す。
まだ状況が飲み込めない中、とりあえずはついていくことに。
ドームの中に入ると直ぐ、人の喧噪が耳に届く。
それはここに避難してきた人が多くいる証。
その中には琴音たちの家族もいるかも知れない。
「三人とも家族を捜しに行ってくれ。話は俺が」
「いいの? ありがとう! 春人!」
「では、お言葉に甘えて」
「恩に着るわ」
うずうずとしていたのだろう。
三人とも駆け足になってグラウンドのほうに駆けていった。
「お前さんの家族は?」
「別の避難所にいます。そこから来ました」
「なるほど」
三人と別れて階段を上がり、とある一室へ。
そこは実況解説が行われる場所で、硝子の向こうにはグラウンドが広がっている。
けれど、そこにテレビ中継で見るような面影はない。
所狭しと並べられた仮設テントと、それ以上に多い憔悴しきった人々が体を休めている。
動く人は少数で、琴音たちをすぐに見付けられた。
「酷い様子だろ? 野球選手が奮闘してたこの場所が今やこの有様だ」
「何人くらいいるんですか?」
「百人とちょっとだ。ちゃんとした数は自衛隊のほうで把握してるだろうよ」
「百人……」
「こんなに助かったと見るべきか、これだけしか助からなかったと見るべきか。人によりけりだろうけど、よくやったほうだと思うぜ、俺は」
「そう、ですね」
この場にいる人達だけが生存者じゃない。
実際、夢見ホールにも十数人の人達がいる。
けれど東京都の人口は一千万人以上、そう考えるとあまりにも少ないように感じてしまう。
「黒鐘さん、でしたっけ。ほかのプレイヤーは?」
「いるぜ。いま資材調達に出てるのが八人。それとそこで塞ぎ込んでるのが十四人」
指差された先にはたしかに目立つ装備の集団がいる。
彼らは何をするでもなく、ほかの避難してきた人と変わらない様子で、ただ塞ぎ込んでいた。
「彼らはなにを?」
「なにも。あいつらは折れちまったんだよ、ここが現実だと知ってな」
彼の言葉を聞いてすぐに、それもしようがないと思う。
現実世界がこんな風に終末を迎えたんだ、心が折れてもしようがない。
楽しかったモンスター攻略も命懸けとなれば話は別。
死ぬのが怖くて戦えなくなる人がいるのも当然だ。
「その様子からして知ってたみたいだな」
ただ硝子越しに彼らを見つめ、黒鐘さんに視線を移す。
「あの日、自分の部屋のベッドで目覚めてからずっと疑ってはいました。確信したのは数時間前ですけど」
「そうか。なら、俺が言いたいこともわかるよな」
「人手が足りないんでしょう?」
「あぁ、そうだ。戦えない奴を戦場に出しても死ぬだけだ、それなら武器弾薬のクラフト要因として残ってもらうほうがいい。ただそうした結果、俺たちは深刻な戦力不足に陥っている」
俺たちを白蛇から助けてくれた嶋野さんが言っていた言葉がある。
この子たちは戦える。
つまり戦力になるということ。
「モンスターを討伐できるのは現状プレイヤーと自衛隊だけだ。その自衛隊も打撃を受けて本来の機能を果たせているとは言えない。俺たちが戦わないといけないんだよ。ここの人たちを守るためにも」
彼は眼下に広がる人々を眺めながらそう説く。
平時なら彼も生死を懸けた戦いとは無縁の人だったはず。
そう考えると、その言葉は自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「見たところまだ未成年だろ? 子供にこんなことを言うのは気が引けるが、背に腹は代えられない。一緒に戦ってくれ」
「……ここにいる人達を守るために戦うことに異論はありません。たぶん、ほかの三人も。ただ」
「ただ?」
「夢見ホールにまだ人が残ってます、俺の家族も。手を貸してくれますか?」
「例えお前さんの返事がノーだったとしても、見捨てたりしねぇよ」
その答えが聞けてほっとした。
「一緒に戦いますよ、大切な人たちを守るために」
「いい返事だ。なら、善は急げだ。行くぞ」
黒鐘さんの背中を追い掛けるようにその場を後にする。
家族を助けに行こう。
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