思わぬ援軍
「逃げろッ!」
足場の戦車を強く蹴って背後へと跳ぶ。
それに続くように三人も跳び、道路に着地すると半壊した戦車が吹き飛んだ。
錆び付いた門を咥えてクシャクシャに折り曲げ、歪な音を鳴らして白蛇は障害物を投げ捨てる。
派手な音が二度響き、白蛇が校門を越えた。
「逃げろ逃げろ逃げろ!」
全身全霊をもって道路を蹴り、白蛇からの逃走を図る。
瓦礫を、自動車を、電柱を躱して道路を駆け抜け、白蛇はそれをなぞるように追う。
なんとかして振り切らなければと考えながら走る最中、両隣に隼と琴音しかいないことに気付く。
「椎名!」
椎名はこの中でもっともフィジカルが低く、全力で走れば置いて行ってしまう。
その事に気がついてすぐに足を止め、椎名を迎えに行く。
「春人!」
伸ばされた手を掴み、直ぐ側まで迫った白蛇に一差し指を向ける。
「雷吼ッ」
指先に集約して放たれる稲妻が白鱗を打つ。
しかし、弾かれるように逸れてダメージを与えられない。
「せめて怯めよッ、クソ!」
すぐに椎名を抱えて切り返す。
すると鳴り響く演奏が耳に届き、鎌鼬が側を通り抜けていく。
「長くは持ちませんよ!」
「走って!」
二人の手を借りて駆け抜け、白蛇から距離を取る。
「助かった」
けれど、所詮はその場しのぎ。
いずれは追い付かれてしまう。
どうにかしないと。
焦る脳内で打開策を考えていると、それを上書きするような派手な音が響く。
爆竹のような破裂音。
それが銃声であると知ったのは、目の前にジープが現れた瞬間だった。
「急げ! すぐそこまで来てるぞ!」
「自衛隊だ!」
荷台では自衛官がライフルを構え、白蛇に向かって発砲している。
俺たちがその最中に荷台へと飛びこむように乗車すると、すぐにアクセルが踏まれた。
「まだ追ってきてるか?」
「あぁ、まだ追ってきてる! 何発撃っても怯みもしないぞ、あの蛇!」
ジープに追い付きかねない速度で、白蛇は道路を突き進む。
障害物もなんのそのと、瓦礫や折れた電柱を吹き飛ばして迫ってきている。
ハンドルを切って障害物を躱さなければならないこちらと、真っ直ぐに突っ切ってくる白蛇。
今のままでは追い付かれてしまう。
「クソッ、もう弾がない!」
「俺たちがなんとかします」
敵わなくても追い払うくらいなら。
「椎名は魔法を唱えてくれ。琴音は演奏でバフを。俺と隼で時間稼ぎだ」
「オッケ!」
「わ、わかったわ!」
「精一杯、演奏します」
立ち上がった琴音が戦笛を振るい、音が奏でられる。
この場にいる全員にバフが掛かれば俺たちの仕事だ。
「なんだ、この音。力が……」
戸惑う自衛官の両隣に立ち、俺と隼で白蛇に攻撃を仕掛ける。
指先から放つ稲妻、乱れ飛ぶ鎌鼬。
バフによって威力が上がった攻撃が微かに白蛇を怯ませる。
「――仰ぐ空 流るる風 遠く 海を越え 見果てぬ大地と手を結ぶ」
僅かに稼いだ時間を使って、椎名が魔法を唱え終える。
「グリモワ―ル第五章、グラスフィールド」
瞬間、生い茂る草花たち。
道路を這い、建物を登り、あたかも草原であるかのような景色が広がる。
ただそれも局所的なもので半径十メートルほど。
ジープは直ぐに駆け抜け、白蛇も後に続く。
しかし、それは生い茂った草花たちが許さない。
白蛇の腹が範囲に入った瞬間、数多の植物の蔓や蔦が絡みついて縛り上げる。
その拘束はすぐに破られてしまうが時間稼ぎには十分過ぎる。
白蛇が再び自由を取り戻した頃、俺たちはすでに大きく距離を空けていた。
小さくなっていく白蛇を見つめて、逃げ切りを確信する。
「はぁ……なんとか生き残れた」
腰が抜けるような思いで尻餅をつく。
ほかのみんなも同様で、安堵の表情を浮かべていた。
「あの馬鹿でかい蛇を……キミたちは」
愕然とする自衛官に見つめられながらジープは走り続ける。
「さて、あの蛇から逃げられたな。これからどうするよ、嶋野」
「あぁ、そうだな。とりあえず、目的は達した。ドームまで戻ろう」
「ドームって、避難所ですか?」
食いついたのは隼だった。
「僕の家族がいるかも知れないんです」
「そうか。なら、行って確かめないとだな」
その時車体が大きく揺れる。
「おっと、おい倉岡、いまなにか引いただろ」
「急な揺れにご注意ください。時折、犬の化け物がタイヤの下に潜りまーす」
「真面目にやれ」
がんと車体を叩く音がして、俺たちはドームへと向かった。
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