出会ってはいけない敵
「来たわね」
「おまたせ」
家族と話を付けて夢見ホールの玄関口へ戻ると三人は準備万端のようだった。
「ストーンゴーレムは僕たちのほうで増やしておいたよ」
「これだけあれば簡単には落とされません。十分に対処できますよ」
「ありがとう、三人とも。じゃあ、行くか?」
「あ、そうだ。その前に自己紹介しない? ここが現実だってみんな納得したんでしょ?」
「そう言えば五年も付き合いあるけど、ゲイルの本名知らないな」
「お互いに言う機会もなかったしね。じゃあ誰からにする?」
「では、私から」
名乗り出た秋山がおっほんと咳払いをする。
「秋山琴音と申します。以後お見知りおきをー」
「仇橋椎名よ。これからよろしく」
「風間隼だよ。なんか照れるね、こういうの」
「天宮春人だ。オフ会ってこういう感じなんだろうな」
パラロスではいつも顔を付き合わせていたゲイルの名前を知るとなんだか妙な気分がしてくる。
「それで? 俺はどっちで呼べばいい? 風間? 隼?」
「え? 僕はどっちでもいいけど」
「なら下の名前で呼び合えばいいじゃない。そっちのほうが短いし」
「たしかに椎名さんと呼ぶと仲良くなれた気がしますね」
「あたしも? まぁ、別にいいけどね。どう呼ばれたって」
「ふふ、ではそのようにしましょう。ね? 春人さん」
「あぁ。そうだな、琴音。じゃあ、今度こそ行こう」
玄関口から外に出て連なったゴーレムたちの脇を抜ける。
仲間の家族を捜すため、自分自身が強くなるため、崩壊した夜の街に繰り出した。
§
「――澄み渡る空 光射す道 集いて動くことなかれ」
倒壊した民家から起き上がる瓦礫のゴーレム。
動くたびに軋み、微かに崩れるその体に狙いを定める。
ドレイク戦を経て俺たちのレベルは20となり、スキルはその威力を増した。
「雷吼」
真っ直ぐに伸ばした指先に稲妻が集い、閃光となって瓦礫の敵性ゴーレムを貫く。
「斬り斬り舞い」
舞い踊るような風がゴーレムを包み、関節部や瓦礫の隙間に風の刃が入り込む。
それはまるで解体作業のように四肢の末端から切り離されて粉々になった。
「魂のレゾナンス」
振るわれた戦笛の音波にゴーレム内部の瓦礫が共振し、震動で粉々に砕け散る。
ゴーレムはそれで全滅したが、まだ終わってない。
パラロスの敵性ゴーレムがそうであったように、壊れたゴーレムたちは一つとなって復活を遂げる。
より大きな四肢と胴を携えたゴーレムに魔法が降り注ぐ。
「グリモワ―ル第二章、ライトライト!」
天から射す光の一条が巨大ゴーレムを貫く。
瓦礫が融解するほどの熱量にたちまちHPがゼロとなる。
崩れ落ちる様を見届けて、俺たちは安堵の息と共に得物を仕舞う。
「今回もなんとか勝てたね」
「今のところ危なげない感じだな。今のところは」
「そうね。今はザコばっかりだけど、急に強いのが出てきても可笑しくないし。というか、ここが現実ならゲームバランスなんて考えられてないわよね」
「今、適正レベル五十や七十のモンスターが出てきても可笑しくない、ということですね。普通のゲームなら負けイベントですが」
「そんなの出てきたら完全にクソゲーだわ。コントローラー投げてる」
「今じゃ投げるコントローラーもないけどな」
アップルはゴーグル式だし。
「あ、あそこにコンビニがあるから、もう少しで小学校だよ」
子供たちの通学路だったであろう道路は今や無残にも破壊し尽くされている。
瓦礫や横転した自動車で見る影もない。
「……前々から思っていたけど、人の死体を見ないな。見ないに越したことはないけどさ」
「でも、血の跡らしきものはあるよ……引きずられた跡も」
「人が……亡くなっているんですよね」
「この世界が現実で納得したけど、やっぱり信じ切れないわ」
ゲームだったら、夢だったらどんなにいいか。
それを言っても始まらないけど。
「見えて来た」
月光を浴びて校舎の輪郭が夜に浮かぶ。
「明かりがついてないってことは……」
「焦るなって、隼。モンスターに気付かれないように消してるのかもよ」
「電気も届いてないでしょうから」
「ここから気を揉んだってどうにもならないわ。さっさと確かめに行きましょ」
整備された歩道を通り、塀に沿って歩くと校門に辿り着く。
当たり前のように閉まった門には無数の傷が付いている。
そして。
「これ、戦車か?」
奥には校門を塞ぐように戦車が停まっていた。
「なら、自衛隊がいるのかも。助けてもらえるよ」
「世界がこうなって何日くらい? やっと良いことが起こったわ」
「早速、会いに行きましょう。家族がいるかも知れません」
「よし、じゃあ飛び越えよう」
歩道を軽く蹴って校門に足を掛け、更に跳んで戦車の上へ。
足裏に硬い感触を感じて直ぐ異変に気付く。
先ほどまで見えていなかった戦車の裏側がない。
囓り取られたようにごっそりと無くなっている。
「おい、なんか――」
言葉を言い切る前に三人ともが戦車の上に立つ。
そして薄暗い校舎玄関からぬるりと白い蛇が這う。
鎌首を擡げるように持ち上がった頭部は、戦車の上に立ってもなお見上げるほど高い。
「――白蛇」
適正レベル40のモンスター。
レベル20台の俺たちでは現状どう足掻いても絶対に敵わない相手だ。
逃げなくては。
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