約束
「え、え? ライトのお母さん?」
ゲイルが混乱している中、母さんはこちらに駆け寄り俺の手を取る。
「よかった、生きてたのね! 本当によかった! どこに行っていたの? 化け物が沢山現れた時、あんた部屋にいなかったでしょ! 心配したのよ!」
「あ、あぁ」
姿も、声も、性格も、間違えようがない。
NPCなんかじゃ決してないと、血の繋がった家族として確信を抱く。
本物だ。
「あら、やだ。あんたなによ、その格好。この非常時に。まぁ、いいわ。とにかくお父さんに知らせないと、もうどこに行ったのかしら。探してくるから勝手にどっかいかないでよ」
「わ、わかった」
去って行く母さんの背中を見送り、自分の中で整理がつく。
これまではあくまで可能性が高いとして来たけれど、これで答えは出た。
ここは現実世界でゲームの中じゃない。
「ライトのお母さんもプレイヤーだったの?」
「いや、母さんはこの手のゲームには無頓着だよ」
「じゃあどうして――」
「後で話す。とりあえず二人と合流しよう」
「う、うん」
戸惑うゲイルを急かすように歩く。
程なくして二人とは合流できた。
秋山の表情は暗く、ここに両親はいなかったようだ。
周囲に人がいる状況では話ができないので俺たちは裏口へと足を運ぶ。
「なにかイベントは起こった?」
「まったく。これも不具合かしらね」
「かもね。こっちはちょっとしたことがあったよ」
「ちょっとしたこと?」
「うん。なぜかライトのお母さんがいたんだ」
「お母さんが?」
不可解そうな表情のウィッチ―の視線が刺さるが、今はどうだっていい。
俺は一人だけ家族を見付けられたことに後ろめたさを感じつつ、ゆっくりと秋山と目を合わせる。
すると秋山は微笑んでいた。
「よかったですね。私も嬉しいです」
「……ありがとう」
人を気遣う余裕はないだろうに、秋山の心遣いがしみた。
「二人に話があるんだ」
「あたしたちに?」
「あぁ」
俺と秋山は頷き合って、この世界が現実だと二人に告げた。
§
「ちょ、ちょっと待ってよ。ここが現実? なにを言っているの? ライト。そんなの――」
「ありえない? でも俺は、俺たちはそうだと思ってる。根拠はさっき話した通りだ」
「たしかに言われてみれば不自然なことばかりだけど、だからって」
「……あたしも可笑しいとは思っていたのよ。スタート地点が自分の部屋なんてね」
呟くようにウィッチ―は口にする。
「家具の配置も小物の置き方も書き掛けのノートもそう。個人情報が抜かれているのかと思ってぞっとしたわ。流石にここが現実だとは思わなかったけど」
「俺も決め手はここで母さんに会ったことだよ。NPCじゃないと確信を持って言える」
「そんな……なら、僕の家族も――こうしちゃいられない、すぐに捜しにいかないと」
「待った!」
今にも飛び出そうとするゲイルを手で制して落ち着かせる。
「一人じゃ危険だ。それにどこを捜すつもりだよ」
「そんなのわからないよ! でも、居ても立ってもいられないんだ!」
怒鳴り声が裏口の廊下に響き、しんと静まり返る。
「……ごめん、僕」
「いいんだ、誰だってそうなる」
俺だって人のことは言えない。
「でも、ゲイルの気持ちもわかるわ。あんたの言うことが事実なら、あたしも家族を捜したい。それはソングもでしょ?」
「もちろんです。私もライトさんもそのためにここに来ましたから」
「問題は三人の家族がどこに避難しているかだ。俺とソングで四カ所、デカい避難所を巡ったけど無人だった。マップで言うところの……」
マップを開いて表示し、三人に見せる。
「ファストトラベルのマークがついてるところがそうだ。ここにはいなかった」
「僕の家はここだよ、でも一番近い避難所はライトが調べた後か……」
「あたしはここ。で、一番近い避難所は……」
「伏見小学校、ですね」
「二人の家はそう遠く離れてないし、ゲイルの家族も小学校にいるかもな。ソングの家族も」
「そうだと良いのですが」
「行き先は決まった。行こう」
「待て、今からか? もう日が暮れるぞ」
「日が暮れても僕は行くよ。家族に危機が迫ってるかも知れない。そうとわかっていて朝なんて待てない」
「あたしも行くわ。もう手遅れかも知れないけど、いま動けば助かる可能性だってあるでしょ」
「ライトさん。私も行きます」
三人の意思は硬い。
この夢見ホールに家族がいなければ、俺もきっとそうしていたはず。
「わかった。なら四人で行こう」
「え――でも、ライトには家族が」
「あぁ、だからゴーレムの数を増やすのを手伝ってくれ。それで守りが固められるし襲撃があれば気がつける。ファストトラベルでここにも一瞬で戻れる。家族には……なんか上手いこと言うよ」
「いいんですか? 無理に付き合う必要は」
「約束しただろ? 二人で家族を見付けようって。それにこの世界で生きるならレベルは上げないと」
「たしかにそうね。常に危険と隣り合わせなんだし、強くならなきゃ大切な人も守れない。戦えるのはプレイヤーと、あとは警察とか自衛隊くらい?」
「だと思う。だから、一緒に行こう」
俺たちは頷き合って準備を整えることにした。
皆と別れ、俺はその足で家族の元へ。
「母さん、あのさ――」
「春人、あなたもしかして危険なことをしてるの?」
出会い頭に母さんに詰め寄られて思わずたじろぐ。
「さっきは驚いて気付かなかったけど、その格好。ゲイルって子と同じでしょう? あなたも外の化け物と戦っているの?」
「……あぁ、戦ってる」
「なら、もうそんな危険な真似は止めて」
強く手を握られる。
「外でロボットが守ってくれているんでしょう? なら安全じゃない。それにきっと自衛隊が助けに来てくれるはずよ。春人が危険なことをする必要はない、そうでしょう?」
「いいや、それは違うよ。母さん」
握られた手を握り返す。
「外にいるゴーレムだけじゃ絶対に安全って訳じゃない。自衛隊もいつ来てくれるかわからないし、俺にはモンスターと戦うだけの力がある」
その照明のように母さんから手を離して稲妻を纏う。
「世界がこうなった以上、生き抜く力を身につけないといけない。そりゃ危険だけど、俺には仲間がいるから大丈夫だよ」
「でも――」
「春人」
それまで黙って聞いていた父さんが口を開く。
「春人はきっと父さんたちが知らないことを知っているんだろう。やらなければならないことも見えている。そうだな」
「……あぁ」
「なら、春人の好きなようにしなさい」
「あなた!」
「春人の決意は固いよ。いつもそうだったろう」
「それは……」
「春人。その代わり一つだけ約束しなさい。危険なことをしてもいい、だが最後には必ず父さんたちの所に帰ってきなさい。いいな」
「約束する。ありがとう、父さん」
これから外に出て仲間の家族を捜すことを伝えてその場を後にする。
約束は必ず守ろう。
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