再会
「こんなところで会えるなんてな!」
「喜ぶのは後だよ! ライト! 魔法が発動するまで攻撃するんだ!」
「――わかった! 行こう、秋山!」
「はい! 押し切りましょう!」
得物を握り締め、ドレイクへと刃を向ける。
稲妻が明滅し、音撃が鳴り響き、鎌鼬が舞う。
「――時を束ねて渦を巻き 光の雨が彼方を穿つ」
間を置かない攻撃の連続にドレイクが攻めあぐねている間に詠唱は完了する。
「グリモワ―ル第九章、メテオレイン」
発動した魔法が空から落ちる隕石の群れとなって顕現。
圧倒的な破壊力を持つ魔法に撃ち抜かれてはドレイクも一溜まりもない。
残っていたHPはすべて削り取られ、断末魔の叫びを上げて倒れ伏す。
間もなくして死体が掻き消え、この場にいる全員にレベルアップの通知が表示される。
なんとか勝てた。
「ふぅ……流石の火力だな。完全詠唱の魔法」
魔法の発動に手間が掛かる代わりに高威力になるのが詠唱の利点だ。
お陰でドレイクのHPを削り切れた。
「ありがとう、ゲイル。お陰で助かった」
「どう致しまして。まさかここで会えるとはね」
「あぁ、びっくりだ。それと」
ゲイルの後ろには魔法使い然とした少女。
「あぁ、紹介するよ。魔法使いのウィッチ―」
「よろしくどうも」
そう言いながら彼女は乱れた金髪を手櫛で解かし、ツインテールが揺れる。
それにしてもウィッチ―か。
「俺は……ライトで、えーっと」
秋山に目配せをすると、秋山は意図を察してくれた。
「私はソングと申します。お二人に会えてよかったです」
「よろしく。ライトとは色々と話したいことがあるけど、とりあえず拠点に戻ろう」
「拠点ってことは」
「そう。避難所だよ、夢見ホール」
俺と秋山は顔を見合わせてほっと安堵する。
ようやく人がいる避難所を見付けられた。
§
壊れ果てたコンビニを後にして道路をいく。
二人から四人へと増えた人数は心強さと安心感を与えてくれる。
本当に会えてよかった。
「避難所には何人くらいいるんだ?」
「誰もいないよ」
「え、誰も?」
「うん。僕とウィッチ―しかいないんだ。あとはNPCが十数人ってとこ」
「――あ、あぁそういうことか」
びっくりしたけれど、これではっきりした。
やっぱりゲイルはまだこの世界がゲームの中だと思っている。
ログアウト出来ない不具合が起こっているとしか考えていない。
「天宮さん」
「あぁ、ここは話を合わせておこう。俺のこともライトで」
「はい、そうしましょう」
ウィッチ―はどうだか知らないけれど、ゲイルはNPCを無闇にキルするような奴じゃない。
避難した人たちは全員生きていると見て間違いないはず。
「おや? ということは避難所はいま無防備なのでは?」
「それなら大丈夫よ。拠点警備にストーンゴーレムを置いてきたから。攻撃されたら通知がくるし」
「なるほど-、ストーンゴーレムですか」
ウィッチクラフトで作れるアイテムの中にゴーレムコアというものがある。
鉄屑とドロップ入手の魔石をクラフトすれば作れる安価なアイテムだ。
それを更にクラフトすればゴーレムになる。
種類はクラフトの際に選択した素材で異なり、クレイ、ストーン、アイアンと様々。
パラロスでは主にタワーディフェンス系のクエストに用いられていたものだ。
「NPCと言えども本当の人間みたいにリアルだし、死んじゃうのは可愛そうだからね」
「そういうところがゲイルの良いところだよ、ホントに」
「やめてよ、照れるから」
ゲイルがすこし顔を赤くしたところで避難所である夢見ホールが見えてくる。
出入り口の前に陣取る複数体のストーンゴーレムも。
二人が離れている間も物言わずに自らの役割を果たしていた。
「お帰りなさい。なにか食糧はあった?」
「いえ、今回は……」
「あぁ、それなら俺たちが」
秋山と一緒にアイテム覧から食糧を出して渡す。
コンビニから取ったもので、ゲイルもウィッチ―も食糧目当てでコンビニ来ていたのだろう。
上手く鉢合わせられたわけだ。
「ありがとう。ゲイルくんの仲間、なのかしら? 助かったわ、非常食ももう底をついてるの」
「どう致しまして」
「遠慮せずに持っていってください」
「本当にありがとうね」
そう言って、この夢見ホールの職員と思しき人は奥へと消えていく。
「このクエスト、食糧を渡しても特に得られるものはないのよね」
「後で纏めて帰ってくる系のクエストだよ、きっと」
「だと良いけど」
二人ともここがゲームの中だと信じて疑っていない様子か。
この世界が現実かも知れないと伝えて信じてもらうにはどうするべきか。
すこし話をしたほうがいいかも知れない。
「ゲイル。すこし話せるか?」
「うん、いいよ。今は暇だし」
「よし。あき――ソングは拠点を一周してきたらどうだ? なにかイベントが起こるかもよ」
「そっか、プレイヤーの人数が増えたからなにかイベントが起こるかも。あたしも行って良い?」
「もちろんです。では、行きましょう」
秋山はすれ違い様に小さな声でありがとうございますと呟く。
ここに家族がいるなら一刻も早く捜しに行きたいはず。
俺もそうだけど、ゲイルと話をしないと。
「話って?」
「色々だよ、色々。歩きながら話そう」
止めていた足を動かして避難所の奥へ。
角に纏められたゴミ袋、積み上げられた段ボール、毛布に包まる人、
誰もが暗い顔をしている。
廊下を歩くだけでも悲惨な光景が続く。
「ゲイルもやっぱりログアウト出来ないのか?」
窺うように問う。
「うん、何度も現実に帰ろうとしたけどダメだった。問い合わせも出来ないなんて、凄い不具合だよね。今頃、現実じゃ大騒ぎしてるはずだよ」
「だろうな。ゲームの中に取り残されるなんて夢にも思わないだろうし」
「ホントホント。でも、珍しいよね。パラロスの運営って考えられないくらい優秀だったのに。こんなに本格的な不具合とか初めてじゃない?」
「考えてみればバクとかも一個もなかったもんな。パラロスがリリースされた時なんか、自称デバッカーが延々と体を壁に擦り付けてたのにさ」
「結局、壁抜けもアイテム増殖もなにも出来なかったんだよね」
ふと思う。
ここが現実世界なら、パラロスはどうだったのかと。
もしパラロスの世界も現実にあるどこかだったら。
現実世界の物理法則にバグが生じる余地はない。
そう考えるとバグが一つもない理由にもなる。
まぁ、パラロスはすでにプレイできない状態だし、考えるだけ無駄だろうけど。
「パラロスは間違いなく神ゲーだったのに、今作はこの不具合のせいで駄作扱いされそうだよ。やっぱり人気シリーズの二作目ってそうなる運命なのかな?」
「かもな。この不具合が直らない限りはクソゲー扱いもやむなしだと思うけど」
ゲイルに話を合わせながら思考を巡らせる。
いつどの段階でどのように事実を伝えようか。
実際問題、難しいところだ。
伝えたことで自棄になったりパニックに陥ってしまう可能性だってある。
実際、俺も我が家を燃やされた後はそうなっていた。
なら、あえて秘密にするか?
いや、死んでもやり直せるつもりでモンスターと戦うのは危険すぎる。
捨て身になることで浮かぶ瀬もあるだろうが、危険のほうがずっと大きい。
それにゲイルの前で嘘をつき続けるのは憚られる。
さて、どうしたものか。
「――春人!」
自分の名前、天宮春人の名前を呼ばれて咄嗟に振り返る。
ほぼ無意識のうちにこの両目は声の主を突き止めていた。
廊下の先に立つ、一人の人物。
その声にも、その姿にも、見覚えがある。
見間違えるはずがない。
「母さん」
母さんがそこにいた。
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