61話 精神修行
まさかの二作品目も執筆開始しましたが優先順位はこちらが高いです。それでは本編へ。
ダンジョン攻略から暫くして大きな出来事が幾つかあった。
一つ目は総本部のグランドマスターである、ガン・ドーガの引退。骸龍により臓器が幾つか損傷してしまい介護がなければ日常生活もままならないためだ。そのためダンは後継者となる冒険者の育成に力を入れつつ余生を過ごすそうだ。そして後継者として総本部のSランク冒険者のズー・ルルを指名した。そういった事情もあり総本部は一部の機能を停止している。
二つ目は暗闇の一等星のNo. 1陥落。ダンジョン攻略という最高難易度の依頼ではあるがSランク冒険者2名の死者を出した事。ギルドマスターのやり方に合わない者たちがこれ幸いとばかりに辞めてしまい冒険者最多を誇ったギルドではなくなったのである。そんなギルドのSランク冒険者の1人であるルーク・レオナルドはレイに、
「あなたは辞めないのですか?」
という質問に対して、
「辞めれずに残った後輩がいるからな。そいつらを放っておけないよ」
と言葉にした。そんなルークに、
「もし辞めるならうちのギルドは歓迎しますよ」
「その時は頼らせてもらうよ」
と会話をしていた。
三つ目は薔薇の花園がNo. 1ギルドへとなった事。今回のダンジョン攻略において唯一犠牲者を出さずにいた事。そしてAランク冒険者のレオナ・ドルドが今回の功績からSランクに昇格した事が理由だ。そんなレオナだが、
「男に守られての昇格なんて納得いかない!!」
と昇格を蹴ろうとしたのだが、
「我儘言わないの」
とギルドマスターに説教されてしまい渋々昇給を受ける事となったのだ。
そうしてガルド王国は大きな話題で盛り上がっていたが運命の宿木はというと、
「自分は冒険者を引退します。これからは育成に力を入れていきます」
ゴウ・ライの引退宣言があった。彼はギルドマスターであるマイを庇って片腕を失ったのである。流石に片腕では武器である大剣を振れないために後進の育成をする事を決意した。そして、
「ヒビキの墓は故郷じゃなくて良かったのかな」
マイの言葉にゴウは、
「剣聖を倒すって言って倒せずに死んで戻るなんて彼が嫌がるでしょうし、これでいいんですよ」
墓に花を供える。ヒビキ・カイは骸龍三体から攻略メンバーを逃すための殿となり死亡した。そんな彼の墓参りから帰ったギルドメンバーたちは、
「ハンザに続いてヒビキもか。寂しくなりましたね」
メンバーはいるが全員元気がない。おまけに、
「サブマスターはまた修行に行っちゃうんだもん」
マイの言うようにリュウガはウェンと共に修行に行ってしまったのだ。理由は、
「私が斬りかかったことに関係します。詳しい説明は今度しますので」
と言ってウェンはリュウガを連れ去ってしまったのだ。
「確かにあの日のサブマスターは変だったんだよね」
と呟くマイに、
「そう? いつも通りバケモノみたいに強かったし何の問題も感じなかったわよ?」
ルイは疑問に思うが、
「いや、私も確証がある訳じゃなくてな〜んか変だな〜くらいにしか思ってなかったんだよね」
とたははと笑うマイに、
「それで実際に当たってるのですから流石の慧眼ですよ」
レイはマイを褒める。
「さぁ!! 今日も頑張りましょう!! いつまでもメソメソしてたらヒビキに笑われますよ!!」
ゴウの言葉に冒険者たちは大きく頷いて依頼を受けるのであった。
◇
「主様や私に気づかれないという事はおそらく神の仕業ですね。何故そんな事をされたか心当たりは?」
「前に2代目に精神と肉体が一致してないって言われたからそれを聞かれた可能性があるな」
2人はとある山奥にて話す。
「そうでしたか。それで精神操作をかけて主様を強化したのでしょう」
「しかし、神はなんだってそんな事を?」
「そればかりは分かりません。主様が神に成った際にでも問い詰めてみるのはどうですか?」
その言葉にニャッと笑い。
「楽しみにするよ」
そう言ってはいたが、
(そのためにも龍帝に勝てないことには始まらないんだよな)
と龍帝という高すぎる壁を思うとどうも身が入らない。そんなリュウガたちは目的地に到着する。
「ここは?」
人が1人入るスペースしかない穴蔵がありそこへウェンはリュウガを突き飛ばす。
「えっ!?」
いきなりの事で驚きの声を出す。そうして穴蔵は瞬時にリュウガを閉じ込める。説明はないが穴蔵が作動した以上は説明がなくてもどういう仕組みかは嫌でも分かるだろう。
「頑張って下さいよ主様。その穴蔵は物理的時間は流れてないですので攻略出来ないとギルドの皆さんが寿命で死ぬかもしれないですよ」
そんなウェンの言葉はリュウガには届かないがそれでも言うだけ言ってみるのであった。
「はぁ!? ここはどこだ?」
どこかの建物の屋上にリュウガはいた。しかも、
「これ学ランだよな。どういう事だ」
驚いてるリュウガに、
「龍〜、また午前の授業サボったでしょ」
そこには制服に身を包んだ綾乃がいた。
(はっ? 夢? 幻覚?)
動揺するがそんな龍牙の様子を心配したのか、
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
近づいて来て額をくっつけられ体温を綾乃の体温を感じて、
(本物!!)
確信して泣きながら抱きしめる。
「綾乃、綾乃、綾乃〜〜〜〜」
突然の事に綾乃は、
「え〜!! どうしたの!! 悪い夢でも見たの!!」
驚きはしたがよしよしと龍牙の頭を撫でるのであった。
「とんでもない場所にぶち込んだな」
リュウガが入った穴蔵に前に龍帝も現れた。
「お久しぶりですね。龍皇と氷獄龍の死合以来ですね。その節はありがとうございました」
そう言ってウェンは頭を下げる。
「礼はいらねぇよ。それにしても鬼畜な事してんな。龍神に仕える龍が龍神の末裔をこんな地獄にぶち込むとはな」
ケラケラと笑う。そんな龍帝に、
「仕方がないんですよ。精神と肉体が一致さえすれば主様は並の龍なら殺せるまではいける事が分かったのですから」
「だとしても俺には勝てない」
断言する龍帝に、
「それよりも何故ここに?」
「もしこいつがこのまま出ないようなら覇龍を殺してその流れでこいつを殺すってのをお前に伝えに来たんだよ」
その言葉に、
「殺せるのですか? 覇龍を」
覇龍は現在は休眠中ではある。そんな覇龍は龍の頂点に位置するのだが、
「今の俺なら殺せる」
龍帝は自身の胸に手を当てて、
「確信がある。絶対に勝てる! 殺せる! という確信がな」
そう言って帰ろうとする龍帝は、
「もしそいつが出たら伝えとけ。来月に覇龍を殺して傷が癒えたらお前を殺すってな」
ピシャアーン!! という雷鳴と共に龍帝は消えるのであった。残されたウェンは、
「残された時間は僅かですよ。主様」
小さく呟くのであった。
「本当に大丈夫なの? 早退する?」
泣き終わった龍牙に心配そうな顔で綾乃がついてくる。そんか綾乃に対して、
「大丈夫だって。サボって寝てたら悪い夢を見てただけだから」
そう言う龍牙に対して、
「なら良いんだけど。無理はしないでね」
そう言って綾乃は自分の教室に戻って行った。そして龍牙も、
「ここが俺の教室か」
そう言って入室するとじろじろと見られる。サボり常習犯である龍牙が来て若干ザワザワとした。そんな中、
「龍! 早く座んなよ」
綾乃の妹の綾香が自分の隣の席を指差す。どうやらここには綾香もいるらしい。
「分かったよ」
そう言って席に座り授業を受ける。今龍牙は16歳の高校1年らしく綾乃は3年という状況だ。
(楽しいな。学校なんて行った事ないから授業が楽しいな)
そうして新鮮な気持ちで授業を受けていたらあっという間に終業のチャイムが鳴る。
「それじゃあ昼ごはん食べに行こう」
そう言って綾香と共に再び屋上に行くと、
「お先」
そう言って待っていたのは綾乃とバルト・アザンディッシュがいた。
(こいつもいんのかよ)
動揺するが顔には出さないようにしてごく自然な流れで2人に近づいて、
「さっさと食おうぜ」
弁当箱を開き4人で仲良く食べる。
「お姉ちゃん今日はバルト君とデートするから帰りは遅くなるね」
「分かった。バルト君綾香の事よろしくね」
そんな会話を聞いて、
(まさかと思うがこいつら付き合ってんのか?)
驚く事ばかりだが必死に取り繕う。散々泣いて不自然な事を龍牙はしているので我慢する。そんな龍牙の様子に3人は気づかずに会話を進めていく。
「お姉ちゃんと龍はどうするの?」
「う〜ん今日は家でゆっくり過ごすよ。ねっ♪ 龍」
笑顔で語りかける。綾乃に、
「そうだな」
と優しい笑顔で龍牙は頷く。そうして昼休みを4人で仲良く過ごして午後の授業も終わり、
「それじゃあね〜」
「またな」
綾香とバルトはデートに行き。
「帰ろっか」
「あぁ」
龍牙と綾乃は一緒に帰る。すると綾乃が手を繋いでくる。
「今日どうしたの? いつもなら龍から手を繋ぐのに。それに泣いて抱きついたり。やっぱりどこか悪い?」
そう言って顔を覗き込んでくる綾乃に、
「心配するなよ。本当に大丈夫だから」
そう言って一緒に帰る。
「それじゃあまた明日〜」
どうやら綾乃たち姉妹とはお隣さんらしい。だが問題は、
(クソ親父とクソジジイがいるのかね)
自分の殺しの才能だけを愛したクズ2人。それとまた過ごす事になるのかと思い憂鬱な気持ちで家に入る。
「ただいま」
と挨拶をすると、
「おかえりさない」
と女性の声が返事を返す。
(誰だ? 母さんは俺を産んで死んだはず! ここだと生きてんのか?)
そう思ってリビングに入ると、
「帰ったのか? いつもなら綾乃とイチャイチャしてから帰る癖によ」
そう言ってソファに座るのは二代目当主の練龍鬼であった。そんな龍鬼に、
「もう! あんまり茶化さないの!」
そう言ってキッチンから短髪黒髪の柔和な表情をした女性が龍鬼を叱る。
(親父が2代目? どうなってんだ? これは?)
どういう配役になってるか分からずに混乱する龍牙。ちなみに母親は練夕鶴。龍鬼の妻だ。
「龍牙帰ったの?」
そう言って2階から降りて来たのは、
「やっと降りて来たか、龍姫」
「いいじゃない。講義がないから自由にしても」
10代目当社の練龍姫であった。どうやら大学生らしい。
「それじゃあ夕飯まで道場で遊ぶか。親父もいるし」
「え〜おじいちゃん怒るよ」
「いいんだよ。俺たちの乱取りの見学は勉強になるんだから」
そう言って龍鬼により龍牙と龍姫は無理矢理裏にある剣道場に連れて行かれる。
「親父来たぜ〜」
「馬鹿者! ここでは師範と呼べ!」
白髪の老人が怒鳴る。
「別に良いだろうが俺も師範なんだから」
そう言って面倒そうに頭をかく。そんな龍鬼を睨んで、
「龍姫に龍牙はあんな風にはなるんじゃないぞ。おじいちゃんとの約束だぞ」
と2人の頭を撫でる。それに対して、
「残念! 龍姫はともかく龍牙は俺似だから俺みたいになるよ」
そう言って道着を着る龍鬼。
「ほらお前らも着替えろ。最初は2人が試合して勝った方が俺とな」
「勝手に決めるな!」
どんどん話を進める龍鬼に祖父である練龍覇は怒るが、
「見取り稽古だよ、見取り稽古」
そう言って道場にいた門下生を退かせる。そして龍牙と龍姫の準備が出来て、
「そんじゃあ一本勝負な。それでは初め!!」
試合が始まったが結果として龍牙は、
「今日は張り合いがなかったね。調子でも悪いの?」
「ちょっとな」
龍姫の勝ちだった。龍姫が強いというのもあるが普段よりも力が出ないうえに付け慣れてない剣道の防具は動きを制限されて全く動けなかったのだ。
「ったくよ〜。見取り稽古になんねぇな」
がっかりした顔をしながら龍鬼は、
「邪魔したな親父。先に帰る」
そう言って龍鬼は龍牙と龍姫を連れて帰るのであった。
「あ〜不味いな」
自室のベッドにて龍牙は考える。
(心地良すぎる。もうこのままでも良いだろ)
クソみたいな親による訓練もない。新しい家族は優しい。何より守れずにいた愛しの人がいる。それだけここは心地が良くそのまま眠りにつこうとしたら、
「う〜す。邪魔すんぞ」
龍鬼が入って来た。
「何だよ、親父?」
そう言ってむくりと体を起こして龍鬼と向き直る。
「何かガキの癖に一丁前に悩んでるみたいだから来てやったんだよ」
そう言いながらベッドに腰掛けて、
「で? 何を悩んでんだ?」
真剣な表情で龍牙の目を真っ直ぐに見る。龍鬼に、
「前に進むべきか、現状のままを受け入れるかで悩んでる」
しっかりと打ち明けた。それに対して、
「くだらねぇな」
バッサリと切り捨てられた。
「前に進む一択だろ」
「何でだよ?」
前に進む一択の答えに龍牙は疑問に思い問いかける。
「現状に満足したら成長もクソもない。だから黙って前に進め。進んだ先に人生の答えは絶対にある」
「だけど、俺は」
今が心地良いと言おうとしたら、思いっきり拳を叩き込まれた。
「現状維持なんて甘えた事は許さねぇぞ。成長して俺を超えろ。過去の人間に縛られるな。今を享受して満足するな。貪欲に行け。お前は現在を生きてるんだ」
そう言って立ち上がり扉を開ける。
「さぁ、どうする?」
殴られた所をさすりながらも立ち上がり、
「あんたはどっちのあんただ?」
その言葉に、
「どっちだろうな?」
言葉を濁されてしまう。
「なら、未来に進んで答えを聞くよ」
そう言って扉を潜る。そこには、
「行くの? 私を置いて」
綾乃がいた。
「あぁ。本当なら連れて行きたい・・・・だけど駄目なんだ。お前は死んだ。俺が弱かったから。もっと早くに連中を殺せば良かったのに機会を待ってしまった。本当に大事なら気持ちを優先するべきだった。俺はもっと感情を優先するべき事に今更気づいた」
そう言ってずんずん前に進む。
「自分だけ前に進むの? わたしを置いて? そんなに薄情な人なの? 愛してるってのは嘘なの?」
その言葉に、
「愛してるってのは嘘じゃない。今でも命日は寝ずにお前の事だけを考えてる。それでも今は未来に進む」
そう言ってまた一歩踏み出す。
「それにお前は綾乃じゃない。本物なら後ろを押してくれる。これは俺の甘ったれた願望で作られた偽物だろ?」
だから、
「さよならだ」
手刀による『神凪』で綾乃の首を落とす。過去を振り返り続けるのは辞める。現状維持なんてクソ喰らえ。これからは未来を見る。そういった決意を込めた『神凪』であった。そして、
「お帰りなさい、主様」
閉じられた洞穴から龍牙が出て来たのをウェンが迎える。
「ただいま。どんだけ経った?」
その問いは、
「半月とちょっとです」
「悪い。時間かけすぎた」
(ていうかあっちじゃ丸一日しか経過してないのにそんだけ経過するってどうなってんだよ)
時間の流れが違い過ぎて困惑するリュウガにウェンは追い討ちをかける。
「後もう少ししたら龍帝が覇龍を殺すらしくその次に主様らしいですよ」
と龍帝からの伝言を伝える。
「そうか。楽しみだな」
以前だったら絶望していたはずなのに今はそれが見られなくリュウガの成長に嬉しくなるウェン。
「怖くはないのですね」
「メチャクチャ怖いよ。ただそれ以上にあのレベルの強者と戦える喜びのが勝つそれだけだよ」
そう言ってギルドへと2人は帰るのであった。
次回はSランク冒険者同士の戦いです。
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