59話 冥界への宣戦布告
既に2名が死亡したダンジョン攻略。冒険者2名を屠ったモンスターは討伐しておりダンジョン攻略達成かに思えたその瞬間に冥府の門が突然開いて現れた骸龍の人型によりゴウは右腕を、ダンは脇腹を持っていかれる事態となった。そして、
「自分が殿を務めます! 全員逃げて下さい!」
ゴウは自分が助からないと判断して殿を申し込んだが、
「こいつ相手に片腕のあんたじゃ殿としては役立たずだ!」
ヒビキが双剣を構える。それに続いてルイとレイとレオナも構える。
「ギルマスたちは怪我人を外へ! 私たちは時間を稼いでから逃げます!」
レイの言葉に、
「分かった! 助けを呼ぶからそれまでに絶対死なないでね!」
そう言ってギルマスたちは怪我人を連れてダンジョンの出口を目指して駆け出した。それを骸龍は逃がさないために追撃するもそれをルークがガードするが、
「がはっ!!」
ガードした剣を破壊されて腹に重症を負う。それにトドメを刺そうとしたところをレオナの鞭が捕える。その隙に怪我人が増えたがギルマスたちは最奥から抜けていった。それを見届けてレオナは、
「今よ!」
ルイ、ヒビキ、レイの3人の攻撃を喰らわせる。しかし、ギロリと睨んだ骸龍に反撃される。それを紙一重で3人は避ける。
「危ないですね。下手に攻撃を喰らえませんよ」
「でもウェンよりは遅いからギリギリ反応出来るわよ」
「だが反応出来るとはいえこっちの攻撃は効かないし向こうの攻撃は擦るだけでも致命傷になるぞ」
三者三様の反応を見せる。とりあえずは、
「「「時間を稼ぐ」」」
と言ったが本心は、
(勝つ!!)
(殺す!!)
(斬り捨てる!!)
やる気満々であった。そんな3人を見てレオナは、
(私が一番弱い。嫌いな男よりも。そんなの絶対に許せない!!)
嫌いである男よりも自分が弱いというのはレオナにとって屈辱なのだ。だから鍛錬を欠かさなかった。剣聖にも引けを取らない実力を誇るまでに至ったのに目の前の3人は明らかに自分よりも強い。その事実により自分が情けなく思う。そんな彼女の視線の先、戦闘を繰り広げる面々ではなくその奥にある財宝と武器があった。その武器は丁度鞭であった。
「幸運ね、私は」
そう言って駆け出す。そんなレオナに攻撃するために骸龍は視線をレオナに向けるが、
「隙あり」
そこをレイが首を狙って斬りかかるが、ガキン! という音がしただけで一切の傷らしい傷がない。
「あざすらつかないのはショックですね(死閃しかないのか? だがあの技は隙がある上に一日に何度も使える技じゃない)」
そんな数秒の思考も隙でしかない。軽く振るわれた腕が掠るだけでレイは吹っ飛ばされて壁に盛大に激突する。
「あ・・がぁ・・・・あっ」
痛みに呻くレイを気にしたいがそんな事をしたら死ぬのが分かってるのでレイに追撃がいかないようにルイとヒビキは仕掛けるが、
「クソが! ちっとは堪えろや!」
「固すぎよ! 聖槍の突きでアザすらつかないってあり得るの!?」
3人はウェンのように相手が龍なのではと疑うがそれだとしたら自分たちの実力が上がっているからここまで戦えると思っていたが明らかに、
(((遊ばれてる)))
ウェン同様に龍ならば全員殺されている。そうなっていないのは単純に相手が本気を出してないからだと判断する。その判断は間違ってはないが多少の間違いがある。この骸龍は龍帝に殺されてからギールスが製作し始めたものであり実力は名無しの龍より若干弱く設定されている。だから全員殺されてないのだ。それでもなお遊ばれている。この実力差を感じて3人はギアをマックスまで上げる。それと同時にレオナはダンジョンの最奥にある武器を手にした。偶然とはいえその武器が鞭であったためにすぐに戦える。そうして4人で一切に骸龍へ襲いかかった。
ダンジョンを脱出したマイたちは医療班に怪我人を任せたが、
「回復魔法が効かない!? こんなのどうすればいいんだ!!」
お手上げの言葉を言う医療班。このままではゴウ、ダンは死ぬ。ルークも2人に比べればましというだけで重症に変わらない。そんな状況にマイは仮拠点へと走る。
(確か遠隔連絡装置を総本部が設置していたはず! ギルドにいるウェンなら3人を治せるしリュウが来たら何とかなる!)
今自分に出来る最善の判断と信じてマイは急ぐのであった。
「はぁ・・はぁ・・」
「ぜぇ・・ぜぇ・・おえっ!」
最奥にて4人は激闘を繰り広げているつもりであった。つもりというのはあくまでも4人が繰り広げてはいるものの相手の骸龍が犬、猫にじゃれつかれてる程度にしか思ってないからだ。
(あれだけ攻撃を叩き込んでようやく跡がついた程度)
レイは愕然とする。
(ダンジョンに眠る武器を使ってもこれってのはどうなってんのよ! このバケモノは!!)
レオナはせっかく手に入れた武器が世界最高峰のものであるにも関わらず骸龍には効かずに歯軋りする。しかし、それも仕方ない。レオナが手にした鞭は聖剣、聖槍に並ぶ代物ではあるが今は基本性能による身体能力の向上のみで真の性能を発揮出来てないからだ。おまけに全員が竜人との戦闘で疲弊しているというのもある。
「ふぅ〜〜〜〜、けど時間稼ぎは出来たでしょ」
ルイの言葉に、
「はぁはぁ、お前はもう勝つのを諦めたのか? 俺は、ぜぇぜぇ、まだいけるぞ!」
ヒビキは強がって見せるが、
「無理は駄目ですよ。気持ちだけで勝てるなら誰も苦労しません」
レイは嗜める。ヒビキはまだ何か言いたそうにしていたがぐっと言葉を飲み込む。強がっては見せたが自分たちでは勝てないというのは分かっているからだ。それでも、
「このまま負けるのは気にいらねぇんだよ!!」
ヒビキは魔力を全開にした蒼炎を纏った状態になった。これを見て、
「あぁ!! もうやってやろうじゃないの!!」
ルイも聖槍に全魔力を回す。そんなルイの聖槍の使い方を見てレオナも、
「こうかしら?」
流石はSランク相当の実力を有する実力者だけあって一発で成功させた。3人共が修行前の剣聖と同等以上の力で骸龍を攻め立てる。そんな3人を見てレイは死閃の構えを取り。骸龍を斬り捨てれる瞬間を待つ。それがいつになるかは分からない。下手をすれば来ないかもしれないその一瞬のために斬る事だけに全神経を集中させる。そこから来る殺気は骸龍であっても気になるものである上に攻めてくる3人も少なくはあるが確実にダメージを負わせてくる。この事実を受け止めて骸龍は目の前の人間を雑草やゴミとしてではなく殺す対象へと認識を変える。
「目つきが変わったな!! こっからが本番だな!!」
ヒビキは双剣を振るう。これにより骸龍の胸元に傷を負わせるが、
「ヒビキ!!」
ルイからの悲鳴で自分の右腕が千切飛ばされたのを確認するが、
「気にすんな!! こいつはここで殺す!!」
千切れた部分からも蒼炎を出してそれで燃やしにかかる。大ダメージになる訳ではないが本能的に骸龍は下がる。その瞬間をレイが見逃すはずがなかった。
『死閃』
高速の斬撃は骸龍を両断するには至らないが大きな傷跡を残した。これにより相手は自分を殺せる力を持つと判断して本気を出そうと骨の鎧を纏おうとしたが遅かった。
「これで終わりよ/ね!!」
ルイの聖槍による突きとレイの鞭による攻撃により心臓を吹っ飛ばされて骸龍は絶命した。それを確認して4人は激闘を制した事による満足感と疲労感で倒れた。
「いや〜勝った勝った!!」
ヒビキは嬉しそうにする。そんなヒビキとは対照的にルイは、
「けどあれが最初から本気だったらこっちが負けてたわね」
悔しそうにする。
「それでも勝ちは勝ちよ。この戦いを糧にしましょう」
そう言ってレオナはルイに優しく語りかける。その様子を優しく見守っていたレイはあるモノを見て目を見開き、
「全員!! 急いでダンジョン外へ!! またアレが来ます!!」
レイの視線の先には冥府に繋がる穴が空いていた。レイに続いてルイ、ヒビキ、レオナも脱出のために駆け出そうとするが穴からは3体もの人型骸龍が現れた。ヒビキは逃げられないと判断して3人が最奥から出たところで蒼炎で入り口を塞いだ。
「何してんのよ! あんたも逃げるのよ!!」
ルイは必死に叫ぶが、
「全員じゃ逃げらんないだろうが!! 向こうはもう最初から殺す気でいる以上は絶対に無理だ!! とっと行けよ!!」
それでも動かないルイをレイとレオナは2人がかりで無理矢理連れ出して行った。ヒビキは蒼炎の向こうの気配が遠くなるのを感じて改めて構え直す。
「さぁ、来いよ!! 生涯最期の力を見せてやるよ!!」
その瞬間に骸龍の1体が視界から消えたと思えば左目を抉られる。他の2体も襲いかかる。その攻撃を防ぐために残った左腕に持つ剣で防ごうとするが剣ごと腕を砕かれた。痛みに顔を歪めるがそれでも体から蒼炎を噴射して攻撃するがそれでは止まらずに燃えたまま襲われヒビキは吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされた先には左目を抉った骸龍が待ち構えていた。そしてヒビキのお腹目掛けて拳を叩き込んだ。
「がふっ!!」
ずぼっ! と骸龍の拳が引き抜かれるとそこからは大量の血が流れる。
(あ〜死ぬなこれは。だが後悔はねぇな。親父もこんな気持ちで村のために戦ったから後悔がなかったのか。俺は仲間を守れて良かったよ)
そうやって満足そうにするヒビキの顔面に骸龍の拳が突き刺さる寸前で、
「良くやった。ゆっくり休んでろ」
リュウガが骸龍の腕を掴んでいた。マイが遠隔連絡装置でギルドと連絡を取ったのだ。
「ウェン!! 非常事態だからすぐにダンジョンにリュウと一緒に来て!! 怪我人も多数いるの!!」
「分かりました。私もすぐに行きますね」
「ん? その言い方だとリュウはもう向かってるの?」
「えぇ、何を感じたのか数分前に(それって私たちがちょうど変な穴から来たモンスターから逃げた時じゃない?)」
何故リュウガがその瞬間にこっちに向かったのかは知らないがこれで助かる。そう思ってたら、
「後は任せろ」
そう言って頭を撫でられる。撫でたのはリュウガであった。あまりの到着の早さに驚いた表情をする。そうしてマイはリュウガに話しかけようとするがその前にリュウガは姿を消していた。
(一体何があったんだろう?)
優しくはあった。しかし、どこか雰囲気がいつもと違う気配をリュウガからマイは感じていた。こうしてリュウガはダンジョンを駆けるとちょうどルイ、レイ、レオナがダンジョン外に向かう途中でありその中にヒビキがいないのを確認して3人には話しかけずに最奥へと向かった。そうしてたどり着いたところで骸龍がヒビキにトドメを刺そうとしていたところであった。
腕を掴まれた骸龍は不審に思う。自身は死の気配を纏っており下手に触れればその部位は永遠に動かなくなるはずなのにそんな様子をリュウガからは感じられないからだ。試作品、しかも人型で力を抑えられているとはいえ龍である自身の攻撃を止めたのが信じられないでいた。そんな思考は隙となり、
「死ね」
その一言と共に放たれた神速の抜刀術により骸龍の首が落とされる。それを見て残りの2体も同時に襲いかかる。目の前の敵が龍クラスの実力と判断して本気で行った。しかし、
『虚無』
襲ってきた2体を同時に仕留める。以前よりも速くなった剣速。何故急にここまでの力を身につけたのかそれは、
「お前、弱くなったな」
いつもの精神世界での修行で龍鬼に言われた突然の一言。それには、
「あ゛」
ぶちギレて殺気が出る龍牙。それに対して、
「あ〜言い方が悪かった。実力は伸びてるが精神面で弱くなってんだよ。確かギルドをNo. 1にするって言ったか? それが邪魔になってる。死にたくないって気持ちが出てるんだよ」
その指摘に対して、
「死にたくないからこそ本気になれるだろうが」
反論するも、
「お前はその手のタイプじゃねぇって話だよ。俺が見た感じだとバルトって殺人鬼と俺のパチモンとの戦いは楽しんでたようだし。明らかに他と違って動きが良かった」
言われて確かにとも思うが、
「そんな簡単に割り切れねぇんだよ」
マイとの約束はそれだけ大事なものだ。バルトとの時に一度喧嘩をしてるがそれ以降は二度と裏切らないと思ってるのだ。
「面倒くせぇ奴だな。だがこのままじゃ一生龍帝には届かねぇぞ」
「そんな事は分かってるよ」
龍牙自身も分かってはいるがそれが出来れば苦労しないのだ。そうしてその日の修行は終わったのだがそれを生命神フルールドリリスに聞かれたのだ。そうして、龍鬼に気づかれないようにこっそりと精神に細工をした。基本は普段通りだが少しでも敵の気配、特に冥府の気配を感じたら戦闘をする事にのみ特化した精神になるようにしたのだ。結果としてリュウガは肉体と精神が一致した状態となり名無しの龍なら勝つのは当たり前、名ありの龍とも渡り合うレベルとなっていた。そんなリュウガは骸龍の頭を拾うと、
「どうせ見てんだろ? まどろっこしい真似しないで殺してやるから自分でかかってこいよ」
骸龍から様子を見ているギールスに宣戦布告をした。しかし、これはフルールドリスの細工でありリュウガの本心ではない。それを踏まえて、
「大口を叩いたな人間風情が」
ギールスはリュウガを殺す標的として認定した。2人がぶつかるのもそう遠くはない。
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