44話 冥府からの絶望
思ったより長くなったけど自分の中では満足したものを書けたと思うので読者の皆さんも喜んでくれると自分も嬉しいです。
「総本部の仕事でアストラの偵察に行ってきます」
前回の戦争により超軍事国家アストラは兵の半分が龍皇の襲撃により失うという大損をこいた。それにより戦力ダウンしたアストラは周辺諸国からの今までの報復を喰らい国が崩壊しかけている。そのためグランドマスターのガンからハンザは指令を受けたのだ。
「分かった。引き抜けそうな人材がいたら引っ張ってこいよ」
「了解」
「ハンザさん! 手伝いに誰かいる?」
「いえ、偵察が目的なのでいりませんよ。それにこれはギルドの仕事ではないので皆さんは普段通りに依頼をこなしてくださいよ」
「引き抜きの仕事もしてくれるんだからこっちからも人を出す分には問題ないのに」
なんて会話をしていたら。
「ねぇねぇ、なら私が行きたい〜。他国の錬金術について知りたい〜」
「う〜ん。国が崩壊の危機ですから得れる情報や技術はないかもしれませんよ?」
「ありゃ? ついて行っても良いの〜?」
「まぁ、自分が偵察してる間に仲間の引き抜きもしてくれるなら連れて行っても良いですよ」
「OK OK! それじゃあレッツゴー!」
という会話がありハンザとアズサがアストラへと向かったのが3日前だ。
「酷い有様ですね」
ようやく着いてのハンザの第一声がこれなのも頷けるレベルで酷い有様だ。アストラは高さ30mもある外壁に囲まれている国なのだが今はその外壁がボロボロで国を防衛するには心許ないものになっているうえに国中から煙はあがり怒号やら悲鳴やらが響いている。
「思ってた以上に酷いね〜。これは錬金術の技術やらは壊されてるかな?」
「でしょうね。どうしますか? 帰ります? 自分はこのまま国内に入って情報収集してから帰りますけど」
「いやいや〜、流石に私個人の趣味が果たせないからって帰る訳にはいかないでしょ〜。引き抜けそうな人材がいたら引っ張って来るから〜。ハンザさんは総本部の仕事頑張ってね〜」
なんて会話をしてからアストラへと入国した。とはいえ、状況が状況なので入国手続きもクソもないのだが。
〜アズサside〜
「ありゃ〜、中も酷い有様だ〜。本格的に引き抜きがメインの目的になるな〜。残念無念」
なんて言いながら歩いているがどこもかしこも喧嘩してる者や強盗してる者までいるがそんな中を錬金術師であり戦闘がまるきり出来ないアズサが何故歩いているのかというと最近の錬金術の研究により透明マントの錬金に成功していたのだ。しかし、
「いや〜、あっちこっちで暴動が起きてて引き抜きしようにもマントが脱げないから勧誘が出来ないな〜」
と困り果てたが暫くしてから悪そうな笑みを浮かべて、
「今なら重要機関に潜入して錬金術の資料盗んじゃお♪」
と犯罪宣言をして国の中央に足を進めるのであった。
〜ハンザside〜
「もう国としては崩壊してるな。犯罪が行われても誰も取り締まらいしどこでも喧嘩が起こっているな」
総本部の仕事であるアストラの現状の偵察の報告としては、半月かかるかかからない位で国は崩壊して生き残ってる人間は近くの国に亡命するだろうなというのがハンザの今考えてる報告内容だ。
「それにしても酷いな。あちこちに死体があるうえに子供まで犠牲になってる中、レイプしてる連中までいるし本当に終わりだな」
ハンザの言う通り、死臭や精液の臭いが混ざって鼻が曲がりそうだ。ここに鼻の良いサブマスターのリュウガが来ていたら臭いのせいである程度の弱体化が見られるレベルである。しかし、
「いくら国が崩壊寸前とはいえここまでの死臭がするものなのか?」
不審に思っていたらその答えが地下から現れようとしていた。
その答えに気づいたのはアストラにいる人々ではなく遠く離れたガルド国にいるウェンであった。
「どうした。汗がヤバイぞ?」
この世界では最強の存在として君臨している龍。その中でも名持ちであるウェンが汗をかくというのは明らかに異常でリュウガがウェンを心配する。
「主様。事情は後で説明します。私はアストラに2人を迎えに行きます」
そう言ってギルドを飛び出すと龍の姿となりアストラの方角に飛んで行った。
「おいおい、ウェンがあの慌て方をするなんて尋常じゃねぇな。無事でいろよ2人共」
アストラにいるハンザとアズサを心配するリュウガであった。
そんな異常事態に気づかずに、
「いや〜、焦げたり、破れたりしたものもあるけど中々面白い研究資料が手に入ったな〜」
とルンルン気分でアズサはスキップしていた。ハンザと事前に打ち合わせていた通り今は国の外を目指している。
「勧誘はできなかったけどこんな状況下だし問題ないよね〜」
なんて言ってたら、
「ありゃ〜、あの綺麗な龍はウェン? 何でこんなところに?」
上空に見覚えのある龍を見つける。ウェンもアズサを確認すると、
「見つけました!」
そう言って急降下でアズサのところに降りて行く。
「説明は後でします! わたくしの背に乗ってください! ハンザも拾わなくてわいけないので!」
「え〜、そんな事言われても私の身体能力であなたの背に乗るのは難しいよ〜」
ごねるアズサをとっ捕まえて背に落とす。
「急がないといけないんですよ! このままでは冥府の門が、、」
その言葉が続く前に、
ドッゴォーン!!!!
という音共に国の中央から骨で覆われた龍が現れた。
「遅かったですか!」
「嘘!? 何、、あ、、れ、、」
ウェンの背にいたアズサはその龍を見た瞬間気絶した。アズサだけではなく周りにいた喧嘩をしている者、犯罪を犯している者、レイプしている者もその龍が現れた瞬間に気絶していく。
(クソ! 以前よりも死の気配が強い!)
心の中で毒吐くウェンを知ってか知らずがその龍は口から不気味な黒い霧を吐く。
「いきなりですか!」
アズサを落とさないようにしかし、迅速に国から飛び出す。
(ごめんなさい。貴方の事は助けられない)
ウェンはギルドに急いで戻った。その姿をハンザは確認して安堵した。
「アズサは助かったようだな」
遠見のスキルでウェンの背にアズサがいるのは確認出来た。ハンザは気絶する瞬間にサブ装備のナイフで足を突き刺して気付を行い気絶を防いだのだ。
「それにしてもあんなものがいきなり地下から現れるなんてな。あれも龍だとするならサブマスター案件だろうし、自分の敵は彼にとってもらおうか」
なんて笑みを見せた。そんな彼の中に心残りがあるとするなら、
「ギルドがNo. 1になる時を見届けたかったなぁ」
そう言い残しハンザの体は黒い霧に呑み込まれるのであった。
ウェンの飛んで行く姿を見ていたのはハンザだけではなく、骨に覆われた龍は白銀の龍を見て、ニヤッと不気味に笑った。
「戻りました」
ウェンがアズサを抱えて戻って来た。気絶してるアズサを見てゴウがウェンからアズサを引き取りギルドのベッドに寝かせる。
「ハンザはどうした?」
アストラに向かったのは何もアズサだけではない。ハンザについてを聞いてはみたもののリュウガは覚悟を決めて聞いた。
「死にました。罰ならいかようにも受けます」
ウェンからの言葉にギルドにいた何人かは涙を流す。マイは自分のギルドの初めての死者に大号泣だ。ヒカリも総本部からのお土産でオヤツを貰っていたのもありハンザの死に泣いている。他の者達も俯いたりしている。
「罰したりしないが説明はしてくれよ。約束したろ」
「そうですね。お話します。あの時わたくし、というより名持ちの龍達も感じたでしょうが冥府の門がアストラで開いたのです」
「冥府?(日本でいうところの地獄みたいなもんか?)」
とリュウガは疑問に思う。それに対して、マイは涙を拭って、
「冥府って本当に存在するの! 御伽話じゃないの!?」
「いいえ。ギルドマスター、冥府は御伽話ではなく実際に存在します。とはいっても、昔のように現世に一つの国としては存在せずに神界のように地下の別次元にありますがね」
その発言に、
「それが急に現れた理由は何ですか?」
レイが問いかける。
「何も冥府の門が開かれたのは今回が初めてではありません。何百年も前、それこそわたくしや龍皇がまだ産まれて間もない頃にも大きな争いがあり大量の死者が出た時に開かれています」
「変じゃねぇか? だったら前の龍皇が現れた時にはもっと死者が出たんだしその時に開かれてないとおかしくねぇか?」
という、ヒビキの疑問にはウェンではなくリュウガが推測をたてて答えた。
「死者は確かに50,000人は出たが龍皇の炎で骨も残らず燃え尽きたから開く必要がなかったんだろ」
「主様の推測で正解です。逆に言えば、もし龍皇が現れず主様が50,000人を殺しきっていたら冥府の門が開いていましたね」
(俺が勝とうが負けようが龍皇が現れようが現れまいが戦争が起きた時点で冥府の門は開いたって訳か)
なんて考えているリュウガをよそに、今度はルイがウェンに聞く、
「それで? 冥府の門が開くとどうなるのよ?」
「冥府の王にしてこの世界の神の1柱でもあるギールスが作り出した骸龍が現れます。奴が纏う死の気配はあまりの強烈さに人々は恐怖のあまり気絶します。それだけでなく奴の吐く黒霧に呑み込まれたら最後骸骨兵に変えられてしまいます」
その言葉に全員がゾっとする。つまりハンザは骸骨兵にされてしまった事を意味していたからだ。
「命を司るお前でもその骸龍は殺せないのか?」
「無理ですね。向こうは作りモノではありますが作った相手が神ですからね。格が違います。奴に勝てる可能性があるのは、覇龍、世界魚、龍帝だけです」
「そうか」
それを聞いて絶望するが、
「大丈夫です。冥府の門は骸骨兵を回収するために開かれるので回収を終えたら閉じ、、ら、、れ、、ます、、か、、ら、、」
ウェンが目を見開いて驚く、それに対して、
「どうした!」
リュウガがウェンの肩を掴んで焦って問いかける。どう見ても異常事態が起こっているからだ。
「千里眼で様子を見ていたのですが骸龍がゆっくりですがこの国に向かって来ています」
その言葉にリュウガは、
「ゴウ! 総本部のグランドマスターに緊急報告しろ! ルイは家に帰って貴族ひいては王族に報告! マイは魔法学院に行って学院長に報告して国中に結界を張れ! お前も手伝え! 必要ならランも連れてけ!」
これに全員が頷き、急いでギルドを出る。
「ウェン! 俺とお前とハクで挑めば勝機はあるか?」
「甘く見積もっても2割いくかいかないかです。ですが、、」
「ですが何だ! 非常事態だ! 何でも言え!」
「龍皇が来てくれたら五分五分の勝負になると思います」
「呼べるか?」
「念話してみます」
ウェンが念話を試みるが、
(ノイズが入る。冥府の門が開いた影響か? それとも、、)
ザザー、ザザーとノイズ音が入り、龍皇との念話が出来ないでいる。すると、
(よぉ、久しぶりだな。オレ様の獲物だから邪魔すんなよ)
予想していなかった相手からの念話が届いた。
(何故貴方が、、)
ゆっくりとしかし確実に骸龍はガルド王国を目指しながら道中にある村々を死の霧で覆いながら滅ぼしなから骸骨兵を増やして進軍している。前回現れた時は現れた地点にいた人間、モンスターを骸骨兵にして冥府へと連れて行った時点で骸龍の仕事は終わりなのだが、今回は、
「あの龍は生命に溢れている! 冥府という死の気配しかないあの世界に彩りを与えればギールス様も喜ばれるだろう」
自分の創造主を喜ばせるため今回は遠くまで足を運んでいる。それに、
「あの美しさ、あの強さ、俺の番にふさわしい!」
そう言ってゲラゲラと笑う。そんな骸龍の上空が突然ゴロゴロという音共に雷雲で覆い尽くされる。
「何だぁ?」
疑問に思う骸龍だったが、
ピッシャアーン!!!!
という音が雷と共に炸裂した。煙がもくもくとたちこめる。その煙が晴れるとそこから現れたのは黒髪に雷のようなメッシュが左に入った細身ではあるが鍛え抜かれた体をしているのが良く分かる男だった。
「成程なぁ。お前の事は知ってるぜ。先代龍帝を殺してその名を襲名したバケモノ中のバケモノ。雷を司る今代龍帝!!」
今から始まるは龍vs龍の殺し合い。この殺し合いはリュウガにとっても大きな転換期となる。
次回は、龍帝vs骸龍です。長くなるので一週間で書ける自信はないけど頑張ります。
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