43話 フェンリル再び!?
ドサッ! そんな音と共に龍牙は仰向けでぶっ倒れる。そんな龍牙に対して、
「身体能力もそうだが練家の技も極めないとこっから先の龍相手には厳しいぞ。17代目〜」
刀を担ぎながら2代目当主練龍鬼は言う。今、龍牙は以前約束した通りに精神世界で練家最強当主である練龍鬼に稽古をつけてもらっている。
「特に、‘虚無’ に関しては完成させないと話になんねぇぞ。お前のは甘く見積もって7割しか出来てねぇ」
むくり、と起きて龍牙は、
「分かってはいるがあの技の難易度は他とは比べらんねぇだろ」
「まぁな。あれの完成系は構えすら必要ない上に集中すらいらない自然体の状態でも反射で相手の攻撃を防ぐと同時にそのまま斬り捨てる技なんだが結局は俺しか出来なかったからな」
「初代、10代目も駄目だったのか?」
「親父、、あぁ、初代の事な。初代は俺との立ち合いの時に俺の実力に引っ張られてか何回か成功はしてたな。10代目は1回だけ成功してる。だけどそれを再現する事は不可能だった」
つまり、いつでも完成系の ‘虚無’ を使えたのは2代目だけという事だ。
「とはいえ、お前は集中状態に入る必要があるとはいえ、他2人よりも完成度は高いからな。後はひたすらに俺と殺し合って10割の完成系に触れさえすれば後は感覚でイケるとおもうんだよな」
なんて言ってる龍鬼に言葉を投げかけようとしたところで、
「あ〜、起きちまったか」
また、新しい1日を迎えた。そして起きて早々にハンザから、
「グランドマスターがSランク冒険者をお呼びです」
との事なので現在、グランドマスターの部屋には。リュウガ、ルイ、レイ、ウェンがいる。ウェンは以前にリュウガがSランクに上げるように申請したのだがどうやら無事に承諾されたようだ。
「久々に呼ばれたと思ったら、Sランクをこんだけ呼ぶってどんな依頼を頼む気でいるんだ?」
「実は最近、前にフェンリルが現れた地域のモンスターが大移動をしていてたのでうちのお抱えのSランク冒険者を派遣したのだが腕を1本失って命からがら逃げてきたのだ」
グランドマスターの説明にリュウガとウェン以外の2人は気を引き締める。当たり前だ。Sランク冒険者は国内最高戦力だ。その1人が片腕を失うレベルとなると気を引き締めるのも当然だ。
「モンスターの大移動、何よりSランク冒険者の片腕を持っていく実力となるとやはりドラゴンですか?」
という、レイの問いかけに、
「だったら、良かったのだがな。それよりも最悪だ。どうやら前に現れたフェンリルはメスだったらしくてな」
という、ガンの発言に、
「おい、まさかとは思うが、、」
リュウガ以外の3人も流石に察した。
「フェンリルの子供が今国内にいるという状況だ。何とか撃退してくれ」
ギルドに帰って今回の依頼をどうするかの会議が始まった。
「普通に考えてサブマスターかウェンしかありえないでしょ。フェンリルの撃退なんて出来るのこの2人以外には無理でしょ」
ルイが言う。これにヒビキが、
「面倒な国だな。討伐しちまえば良いのによ」
「それは国によって対応が違うので仕方ないでしょう。ワ国でもフェンリルが現れた時はSランク相当の剣士が数十人単位で撃退してましたからね」
他国出身の2人からのフェンリルの撃退に関して意見は様々だ。
「わたくしはフェンリルに関わる事が出来ません」
そんな中ウェンからまさかの発言が出た。
「大人のフェンリルならある程度ボコボコにしてもいいんだろうけど子供相手に手加減の具合が分かりづらいからお前に頼みたいんだが。何せリヴァイアサンの時もお前頼みだったんだし」
リュウガとしては大人相手ならある程度ボコボコにするなら前回やってる上に前回よりも強くなってるので余裕なのだが子供相手にどこまでやっていいのか分からないから手っ取り早くウェンに任せたいのだが、
「原初のフェンリルつまりはこの世界に1番最初に産まれ落ちたフェンリルが龍とは争わないという契約を結んだんですよ。そのためわたくしは戦えません」
「可笑しくねぇか? 龍の方が強いだろ? 契約する必要があったのか?」
「昔のフェンリルというか、伝説のモンスター達は龍と同格の力を有していましたよ。今では大分、力を落としていますけどね」
「ちなみに、契約を破ったらどうなるの?」
マイが気になってウェンに質問する。
「喧嘩両成敗として、龍帝が殺しに来ます」
「何で龍帝がわざわざ殺しに来るんだよ」
「龍同士の殺し合いはよっぽどの事がない限りあり得ない事ですからね。殺し合う動機にはもってこいなのですよ。それこそ数100年前に契約を破って争った龍とフェンリルを龍帝が殺しましたからね」
その話を聞いた上で、リュウガは、
「リヴァイアサンの時みたいに威圧するだけでも駄目なのか?」
「龍帝からしたら殺し合いをする良い口実になるのでフェンリルに近づいただけでも雷の速度でやってきてわたくしを殺す可能性がありますね」
そこにハンザが口を挟む。
「とにかくこちらとしては総本部の主力が引退させられる事態に陥ってるので早く対処して欲しいんですけど」
「そんじゃ、消去法で俺だな。他メンバーのサポートも無しでいい。下手に警戒されても面倒臭いからな」
との事で、またもやリュウガがフェンリルの撃退に行く事になった。こうしてリュウガはフェンリルのいる森に入って直ぐに異質な気配のする方向に真っ直ぐ歩いてる。
(適当に痛めつけたら親みたいに逃げてくれると楽なんだがな)
なんて考えていると目の前に今回の撃退対象が現れた。現れたフェンリルは産まれたばかりだと思ったが既に大型犬よりも一回りは大きい。
(おいおい、親より強いのはまぁそういう事もある。俺だってそうだから。だが、剣聖以上は流石に異常じゃねぇか?)
明らかに雰囲気が違う。心なしか顔つきも毛並みも親より良く見える。
(オスだからか? いやそんな単純な訳、、)
などと考えてたら、目の前からフェンリルが消えたと思いきや、
ドォーン!!
という音と共にリュウガのいた場所にフェンリルの足跡が出来た。
「ダイナミックなお手だな、おい!(確信したぜ。パワーもスピードも親より上だ!)」
嬉しそうに笑う。なぜなら、
「こんだけ強いなら耐久力もあるだろ」
きっと耐久力もある筈、そうならば容赦なくボコボコに出来る。そう思い、
『神凪』
お決まりとなってる初撃を放つ。殺す訳にはいかないために峰を使っているので抜刀術の要である鞘走りが上手くいかずスピードが遅くなってしまった。それでも並の相手なら避けるのも困難なのだが、
「おぉ、避けるか。スピードは龍を除けば今までの相手だとバルトに匹敵するな」
かつて、殺し合いをした男を浮かべる。
「こうなってくると撃退は無理かもな。まぁ殺しちまうかもしれないが初の依頼失敗も相手がフェンリルじゃしゃあないだろ」
そう言って突っ込む。その速度は先程のフェンリルに匹敵する。
『神鳴』
練式剣術では最大威力の技を繰り出したが、
ガギギッ!
という音が鳴る。まさかの噛みついて止めたのだ。神速を誇るリュウガの斬撃を! しかも、
(ただ止めただけじゃねぇ! 牙に風を纏って殺傷力を上げてやがる!)
止まってる状態だから分かったがフェンリルの牙は風の魔力で覆われている。しかもこの風は凄まじい速度で牙を覆っている。これは本気モードのルイ、鬼化したヒビキの防御力をも貫通する程のものだ。
「(俺でも油断したら前のSランク冒険者同様腕を持ってかれるかもな)つーか、、、、いい加減離せや! 犬っころが!」
そう言って顎を蹴り飛ばした。フェンリルはモロに蹴りを喰らい刀を離す。リュウガは蹴りの反動を活かして後ろに跳び退いたが、すかさず、フェンリルは追撃してくる。
『虚無』
攻防一体の奥義である虚無を使おうとするも、
「やっぱりまだ無理か」
発動に失敗して慌てて噛みつきを回避する。今のリュウガでは ‘虚無’ を発動するには完璧な脱力と集中状態でないと不可能だ。それでも、
「今の現在地点が分かればそれで良い」
そう言ってまた新たな構えをとる。刀を地面に滑らせる様にした今までの戦いでは見せなかった構えだ。それを見たフェンリルは警戒度を上げる。だが産まれたばかり故の無知が行動に出てしまう。
ウォォーン!!!!
という遠吠えと共に、4本の竜巻がリュウガを囲み、徐々ににその体を斬り裂こうとする。その竜巻と同時にフェンリルも牙に風を纏って音速で突っ込む。
普通なら怯むような状況でもリュウガは気にしない。恐ろしい程の集中力でツバを飲むのも忘れている。そしてそのツバが落ち、フェンリルの牙が、竜巻がリュウガをバラバラにしようとした瞬間、
『死閃』
ズバン!!
そんな音が響いて竜巻はかき消えて、フェンリルは数m吹っ飛ばされた。リュウガの体勢から見ても剣を振り上げたのは分かる。だがその剣速が異常だ。彼が放った一撃でも前の世界でも、この世界の両方においての過去最速の一撃が放たれたのだが、
「ガアァァァァッっ、、、、、、」
とんでもない激痛に襲われていた。先程の技は今のリュウガが使うには体が出来上がっていない。
(完全に左腕が砕けた。その上身体中が悲鳴を上げてやがる。誰かのカバーがない状態でやるにはリスクがデカすぎる。この技は封印だな)
リュウガが使った技 ‘死閃’ これは、精神世界で2代目当主の練龍鬼との訓練において一度本気の技を見せて貰ったのだ。とはいってもあまりの速さで殺されたので実際は見えなかったので構えから予想して今回使ったのだが時期尚早だった。しかし、その技はあくまでもリュウガの予想であって本物ではない。技名も使い方も龍鬼が放った技とは程遠いものなのだが、リュウガはそれを知らない。それでも今回はそれで良い。なぜなら、
「はぁ〜、バルトの野郎以来じゃねぇか? ここまでの戦いは」
そう呟く。それだけフェンリルは強敵だった。
「さて、峰打ちだし、死んでねぇだろうが。これで国を出てくれるかな?」
何て言って顔を上げると、
「はぁ?」
目の前でフェンリルがお腹を見せる形で寝転んでいた。犬が見せる服従の姿勢だ。まだ子供とはいえ、伝説のモンスターが服従の姿勢を見せるというのは異常だ。
「え〜、これどうすんだよ。なぁ、国外にいるお前の親を追っかけてくれねぇか?」
人語を話すの不可能だが理解出来る事はウェンから聞いているので話しかけてみるが、
バウッ!
吠えられて、ガブッと、よりにもよって砕けた左腕を噛まれた。
ギャアァァァァァァァァ!!!!
という、情けない悲鳴が森中に響き渡った。
「、、という訳で、フェンリルをうちで飼う事になった」
リュウガがフェンリルの撃退に行った次の日に包帯で左腕を吊ったリュウガがガンに報告に現れた。残念ながら発火現象の時にエリクサーを使い切ってしまっていた。
「何故そんな事になっているんだ?」
呆れられた。まぁそうなるのも仕方ない。撃退を依頼した筈なのにそれがまさかの飼うことになるなど想像するのは不可能だろう。
「制御出来るのか? 相手は陸の覇者フェンリルだぞ?」
「心配なのも分かるが俺とウェンがいるんだしどうとでもなるだろう」
「そのお前さんがその有様だが」
そう言って、リュウガの左腕を指差す。
「大丈夫だよ。ウェンによると、
「おそらく先祖返りでしょうね。原初のフェンリルには勿論、今は及びませんがいずれはそうなるかもしれませんね」
フェンリルを撫でながらウェンが言う、
「そんなバケモノを連れて来るとか何やってるんですか貴方は」
総本部の人間としてハンザが口を挟む。
「俺だって連れて来る気はなかったよ! 置いていこうにも付き纏ってくるし何だったらこんな重体の状態なのに噛みついてくるんだよ! もう契約だとかどうでもいいからウェンに何とかしてもらうしかなかったんだよ」
左腕を受付嬢に治療してもらいながら喚く。そんなギルドの雰囲気を気にせず、
ウォン! と吠えるフェンリル。ふむふむと何やらウェンはフェンリルと会話している。
「主様が親よりも強いので服従する事を誓ったみたいです。主様が死ぬまではここで暮らすそうです」
「他国に行かせらんねぇの?」
「今もフェンリルに関わっている状況はわたくしにとっては大分怪しい状況なので無理矢理他国に移動させると龍帝が確実に飛んできます」
流石にそれは勘弁してほしいので、
「いいじゃん。凛々しい顔つきだけどまだ幼さもあって可愛いんだし」
「うん、可愛い」
マイとヒカリが撫でながら会話に混ざる。相手はSランク冒険者以上の実力を持つモンスターなのに大した胆力だ。
「うちの番犬になってもらおうよ! どう?」
フェンリルに語りかける。
ウォン! と、元気良く返事した。つまりは、
「良いそうですよ」
ウェンからの通訳に、
「よ〜し今日から君はうちのギルドの番犬で名前はハクね。白銀の毛並みが綺麗だから」
ウォン!
「肉はシカ系モンスターやドラゴンが好みだそうです」
「クソグルメな番犬だな、面倒見れるのドラゴン狩れる組で確定じゃねぇかよ」
「良いではないですか。番犬でもあり良い訓練相手にもなりますよ?」
そう言って笑っていやがったよ」
と話すが、
「はぁ〜、まぁまだ龍による被害が解決してない上に新たに龍が来る事態にならなかっただけマシとするか」
「そういうことにしてくれると助かる」
それじゃあ、と報告を済ませて帰ろうとするが、
「あぁ、言い忘れていたが日にちは決まっていないが今度暗闇の一等星と薔薇の花園の合同作戦があるのだがそこにお前さんらも参加して貰うからメンバーを決めておいてくれ」
「了解(国内トップ2ギルドに加えて俺達のギルドからも参加要請って何するんだか)」
返事はしたもののあまり乗り気ではない様子で総本部を後にして、
「あ〜面倒だが、うちの番犬様の餌のシカでも狩ってから帰るか」
と呟いて森に向かって行った。
久しぶりのオマケ
死閃
2代目当主の本気の技を喰らった時に構えからリュウガが予想して使った技。刀を地面に滑らせる様な構えから刀を振り上げるだけの技。しかしその速度は練式剣術最速の技である ‘神凪’ ‘虚無’ よりも速い。だが今のリュウガでは扱いきれずに自滅します。そんな自爆技ですが2代目当主が放った本来の技のパチモンです。本来の技はまた今度のお楽しみに!
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