38話 vs龍皇
(暑いなんてもんじゃねえな。ただそこにいるだけなのに燃え尽きそうな程暑い)
リュウガがそう感じるのも無理はない。ガルダ王国はアブソリュートが現れた瞬間気温が50℃を超えている。
「人間にしては強いな。普通なら俺が側にいるだけで燃えるんだがな」
「お褒めにあずかり光栄だな」
皮肉混じりに返事を返しつつも抜刀術の構えを崩さず。いつでも首を刎ねる用意をする。
(様子見はいらねぇ『神凪』)
一気に間合いを詰めて刀を振るう。
「良い刀だな。普通なら溶けるんだがな」
あっさりと腕で止められる。傷すらつかない。だが、
(ウェンとの訓練でそんな事は経験済み)
ウェンとの訓練でも同じように止められた経験があるので別段驚きはしない。そしてそのまま、
『神射』
最強の突き業を放つが、
「思ったよりはやるな」
数cm動かしたに過ぎなかった。
「それじゃあ、お返しだ」
そう言って腕を振るわれ炎がリュウガを襲う。その炎はドラゴンすらも焼き尽くす程の威力だが、
『神流』
なんとか受け流したに見えたが実の所違う。体に炎は当たらなかったが刀に熱が伝導して手に深い火傷を負う。
(クッソ! 致命傷は避けてるがヤバイ。現れた時もそうだが高威力の攻撃をポンポン出すな!)
そんなリュウガの思考なんて知らずに、
「お〜やるな! それならこいつはどうだ?」
そう言って楽しそうに4万の大軍を焼き払った時よりもデカイ火の玉を作り出して投げてきた。しかも速い。
『神流』
先程の炎のように受け流そうとするがあまりのデカさ、あまりの速さに、簡単に受け流せずにいる。
「ガァぁぁぁぁ!!!!」
雄叫びを上げて火の玉を上空へと受け流す。火の玉は上空で爆発してガルダ王国に広がっていた雲を吹き飛ばした。
ゼェ、ゼェと息を吐くリュウガに対して、
「良いぞ! 技は見事だ!」
瞬間移動でもしたのかと言うレベルで接近したアブソリュートの拳を避けるリュウガ。そして、反撃とばかりに斬りかかるも堅すぎる。ガキン! という音共にはじかれてそれが隙となる。時間にしてコンマ数秒。だが彼らにとってその数秒は命とりになる。
「おらよ!」
本気の一撃が腹に入る。数100mはとばされる。それに追いつき追いうちの火の玉をぶつける。
「あばよ! 龍神の末裔!」
爆発は当たり一面に広がりガルダ王国そのものを灰にするものと思われたが何故かそうならない。
「ウェンだな」
アブソリュートは静かに呟く。自分の攻撃を防げる存在などそうそういない。
「あんだけ龍神を信仰してるのに戦いには参戦しねぇのは何故だ? 何か裏でもあるのか?」
アブソリュートとウェンは全く知らない仲ではない。そのためウェンが龍神を信仰しているのは知っているためその末裔であるリュウガを手助けしない事を不思議に思うが、
「まぁ、どうでもいいな」
彼女の信仰対象である龍神の末裔は殺した。それならもうその疑問は無駄というもの。爆心地へとゆっくり歩く。すると、
「龍神の末裔だけあるな。まさか体が残るとは」
そこにはリュウガの体が残っていた。ただ服は燃え尽き体中酷い火傷になっている。
「それに刀が異常だな。全く壊れてねぇ」
リュウガの持つ刀は燃え尽きるどころかどこにも傷一つない。
(何か神の力が関わっているのか?)
不思議ではあるが、
「念の為心臓潰しておくか」
そう言って拳を振り下ろす。
「あん?」
はじかれた。刀で。勿論はじいたのはリュウガだ。ふらふらと立ち上がる。そしてアブソリュートに対して再び構える。
「無意識か? たいした野郎だな」
素直にそう思う。それでも、
「そんな状態じゃ俺には勝てねぇよ!」
音速で拳を出す。しかし、それは届かずその上斬られる。
(浅いが斬られた! 俺が!)
人型でも龍の姿同様の硬さを持っているにも関わらず斬られたのだ。しかも死にかけで意識もないただの人間に。
「面白くなってきたなぁ!」
笑いながら猛攻を仕掛けるアブソリュート。それをリュウガは全て捌く。時間にして5秒。その間132手もの攻防があった。これはバルトの殺し合いの時よりも更に。ウェンとの訓練よりも速い攻防。
「久しぶりだぜ! この緊張感! 他の龍共と殺り合って以来だ!」
しかし、今戦ってるの龍ではない。人間だ。それが尚更愉快で堪らない。
「これでお前が無意識じゃなきゃ完璧なんだがな!」
ただ一つ文句があるのはその一点。意識がある状態でお互い笑い合いながら殺り合いたかった。
ギアの上がったアブソリュートの攻撃によりリュウガは捌ききれずに更に傷つくが最初の時は吹っ飛んだはずの攻撃に今は耐えている。しかし、
(最初の攻撃で内臓を潰した。こっちが有利! だが折角楽しくなったんだ! この姿のままじゃ勿体ねえ!)
一旦離れてアブソリュートは本来の姿、龍皇としての姿に戻る。それは燃え盛るような赤の鱗に手足は炎で形作られた東洋の龍の姿。
「さぁ! 幕を下ろそうじゃねぇか!」
上空から降ってくるのはリュウガに放たれた火球よりも一回りデカい隕石。それがリュウガ1人目掛けて落ちてくる。納刀する。そして足に力を溜めて一気に跳ぶ!
『神凪』
隕石をぶった斬る。それどころか、
「見事だ」
アブソリュートの首を斬る。ブシャ! と血が出て落ちていくアブソリュート。勿論、飛べないリュウガも斬った体勢のまま落ちていく。
ドッゴーン!!
という音があたりに響く。そしてゆっくりと人の姿になるアブソリュート。
「まさかだな、龍神の末裔とはいえ人間に負けるとはな」
首を斬られ体中傷だらけで龍であってもほっておけば死ぬレベルの重症だがどこか嬉しそうだ。そこへ、
「派手にやりましたね。結界を張るこっちの身にもなってください」
「手加減なんてしたらそいつへの侮辱だろ。だから俺は常に全力だ」
「変わりませね、あなたは」
そう言ってアブソリュートに近づいて回復魔法をかける。一瞬で傷が治る。エリクサーと同等の回復魔法これには、
「流石は龍姫だな」
ウェンはただの龍ではない。龍皇達と同じレベルの存在なのだ。そして普通の龍とは異なり龍皇は炎を龍姫は生命を司る。
「いいのか? 俺を治したらお前の信仰対象を殺すぞ」
「そんな事しないでしょ、あなたは」
「何でそう思う」
「殺るなら真っ向からがあなたの信条でしょう」
そう言ってリュウガの口にエリクサーを流しこむ。
「そいつには回復魔法使わねぇのか?」
「龍神様からわたくしはあなた達龍との戦いは見守るように言われましてね、正直どこまでが駄目なのか分からないんですよ(まぁ、主様には回復魔法が効かないんですけどね)」
「成程ね、どこまでも心神深い事で」
リュウガを背負い帰ろうとするウェンに対して、
「もっと鍛えてやれよ、素質はあるが次は死ぬぞ。そいつ」
アブソリュートの言う通りであり、最後の一撃も本来は避けれたのをワザと受けたのだ。その理由はまだ人間でありながら自分を傷つけれるそれが嬉しくてつい受けてしまったのだ。それだけリュウガの進化が嬉しかったのだ。それだけ言って、アブソリュートは龍の姿となり上空へと舞い上がりどこか遠くへ消えていった。
「勿論そのつもりですよ。ご忠告ありがとうございます」
ウェンは焼け野原をゆっくりと歩いていった。
ガルダ王国はアストラとの侵略戦並びに龍皇の襲撃により国土の南側が焦土と化していた。まぁ、ほとんどは龍皇による被害なのだが。
「侵略戦に勝ったのに国土の4分の1が焦土になったんじゃあんまりだよね」
「わたくしが結界を張ってなかったらこの国全土が焦土になって皆さん死んでますよ」
「うへ〜、そんな事が出来るバケモノに狙われるサブマスも大変ね」
そんな龍皇と相対した本人はというと、戦いが終わって3日が経過したが未だに寝ている。
「当事者が起きないんじゃ報告も出来ませんからね」
総本部そして城からも報告を求められているが本人は眠りから覚めないのでそれも無理な話だ。
「パパ死なないよね」
不安そうにヒカリがウェンに聞く。
「大丈夫ですよ。龍皇と戦って身体が残ってるだけでも凄いですし何よりいずれは龍神になる方ですからきっと死にませんよ」
ウェンはヒカリの頭を撫でながら諭してあげる。そんな会話の中心の本人はというと。
「死んだのか? 俺」
龍牙は目を覚ますと一面真っ白な空間にいた。誰もいないし何もない。ただ白い空間が広がっている。
「龍皇と戦って火球をぶつけられた所から記憶がねぇんだよな」
パチパチ
と手を叩く音がして、その音がする方向を見ると、
「おめでとう。17代目。お前は龍皇との勝負に勝った。まぁギリギリもいいところだがな」
「あんたは?」
「2代目当主、練龍鬼だ」
「伝説の2代目に会えるとは光栄だね。それで祝いの言葉を送るためだけに来てくれたのか?」
「勿論それだけじゃねぇ」
龍鬼は龍牙のそばまで近寄る。
「神としてあんまり人間と関わるのは良くねぇしそもそも世界が違うから俺個人としては関わらない方針だったんだが他2柱がうるせぇからな。お前を鍛える事にした。勿論、お前が望むならだがな」
「他の2柱は来ないのか?」
鍛えてくれる分にはありがたいのだが折角なら初代と10代目とも会いたい。
「悪いが他の2柱は来れない。何せ世界が違うから龍神の中でも2番目に力のある俺しか来れねぇんだよ。それに2人は強さではなく功績で龍神になったからお前を鍛えるには少し物足りない」
「成程」
神の世界にも色々あるらしい。そこはウェンにでも後で聞こうと思い、
「そういやここはどこだ?」
「お前の内面世界ってやつだよ。今お前の本体は龍皇との戦いで眠ってるから今ここにいるお前は意識だけの存在だ。だからここでどんなに死んでも影響はない」
「死ぬ前提なのかよ」
「お前と俺とじゃ天と地の差があるからな」
「そりゃ人間と神だからな」
「いや、俺が人間の時でもだよ」
「いや〜、盛ったろ。流石に」
「マジだよ」
そんな事を言ってるうちに、
「あん? 何か俺の身体薄くなってね?」
そうなのだ。薄くなってる。幻覚などではない。
「あ〜、お前の本体が目を覚ますんだろ。しょうがない、鍛えるのはまた今度だな」
「それじゃ、また今度」
そう言って龍牙は消えていった。それを見送り龍鬼は、
「出てこいよ。別に殺しはしねぇからよ」
白髪の幼い少女が現る。
「いつから気づいてました」
「最初からだよ。で? お前がこの世界の神の1柱か?」
「えぇ。生命神フルールドリスと申します」
そう言ってぺこりとおじきをする。
「異世界の神である俺が来たから牽制しに来た訳か」
「別にそんな事はありませんよ。ただの興味本位です。異世界の神が来るのは稀ですから」
基本的に神達は異世界だろうと存在を認知しているがわざわざコンタクトをとるほど仲が良い訳ではないので今回のケースは非常に珍しいのだ。
「彼を鍛えるのは構いませんが本体を寄越すのだけはやめてぐたさいね」
「安心しろ。流石にそこまでしねぇよ」
「助かります」
それでは、と言って立ち去ろうとするフルールドリスに、
「お前、17代目を利用するつもりならやめとけよ」
殺気を放つ龍鬼に対してぴたっと止まり、
「そんな事しませんよ」
にこやかに微笑んで消えていった。
「見た目に合わねぇ、腹黒そうな笑顔だったな」
そう言って龍鬼も消えた。
「腹減った。肉がいいな。後血になるものがいいな」
「「起きた〜!」」
皆嬉しそうに叫んだ。当たり前だ。死んだように眠っていたのだから。
「起きて早々ですが大変ですよ。報告書がいっぱいですからね」
そう言ってハンザが書類を渡してくる。
「ダリィな、明日で良いか?」
「本当なら今日中にして貰いたいんですが貴方の状態を知ってる身ですから明日でも構いませんよ」
そう言いハンザは総本部へと向かった。おそらく報告書の期限を延ばしに総本部へ向かったのだろう。そうしてハンザが仕事から戻ってからギルドでは、
「それじゃ、龍皇を倒した、我がギルド最強のサブマスターが起きた記念のパーティーだ〜!」
とマイの号令でパーティーが始まった。そのパーティーは朝まで続き結果としてやる予定だった報告書が遅れてグランドマスターに怒られるリュウガとハンザの姿があったとか。
内面世界での主人公の名前表記は漢字でいこうと思います。分かりづらいかもですがご先祖様が漢字表記なのでそこに合わせます。読みづらいかもですがご了承下さい。
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