36話 天才魔法使い マイ・クルルガ
結婚式前日、オズワルドは大騒ぎになっている。理由は、
「クルルガ家のお嬢様が王子と決闘するってよ、しかも王子が負けたら婚約破棄」
「マジで! 勿体ねぇ!」
「だって、第3王子はお坊ちゃんだし気持ち分かるわ〜」
「それでも勿体ねぇよ」
てな具合である。第3王子の結婚の3日前にマイが決闘を申し込みそれがバレたのは前日というのが流れである。
「どこもかしこも話題はそればっかりですよ」
「そりゃそうだろう。国の王子様が結婚するのかと思いきやお相手と決闘なんて事になったら話題にもなるわな」
宿の一室にてリュウガとランは今のオズワルドの現状を話している。
「決闘は誰でも観れるのか?」
「関係者と上流階級である貴族のみです。一般の方々は観れないそうです」
「場所は?」
「コロッセオがあるらしくてそこで昼間にやる事までは分かりました」
「そんだけ分かれば充分だな」
情報を元に明日の作戦をランに説明してリュウガは部屋を出る。行き先は勿論、
「ランには指示を出した。後はお前が勝ってゆっくりギルドに帰るぞ」
マイの所であった。一応作戦は前に来た時に喋ってはいるが最終確認のために来た。
「そんなにわたしの事が心配なんだね」
ニヤニヤとからかってくるマイに、
「あぁ、心配だよ」
と真顔で返されて顔が真っ赤になるマイそれを見て、
「バーカ、俺をからかおうなんて100年早い」
そう言って部屋を出るリュウガに、
「バーカ!!」
空に向かって叫ぶしかマイは出来なかった。
決闘当日入れはしないがコロッセオの周りは人で溢れていた。ほんの一瞬でもいいから王族に決闘を申し込んだお嬢様を見てやろうという野次馬根性を感じる。そんな野次馬達の目を掻い潜り、
「屋根があるのは助かるな」
屋根の上からコロッセオの中を見ているのはリュウガだ。コロッセオには観客席の上にだけ屋根があり中央は吹き抜けになっており、これのおかげでリュウガも決闘を観ることが出来る。勿論、そういった者がいるかもしれないと結界を張ってはいるのだが魔力のないリュウガはそれをスルーしている。
「さて、魔法使いの決闘ってのはどんなのかね」
ワクワクしていた。自分のギルドのマスターが戻ってくるかどうかがかかってる大事な一戦ではあるのだがリュウガにとって魔法使い同士の戦いを観るのはこれが初めてなのだワクワクするのも仕方ない。
「来たな」
コロッセオの東側からマイの対戦相手の第3王子である、ライ・ホープナーが現れた。いかにも温室育ちのお坊ちゃんですというオーラが体から溢れている坊ちゃん頭の男だ。
「ヤベェな、俺には強いのかどうか分かんねぇ」
魔法使いであったなら魔力を見て相手のおおよその力量を測れるのだがリュウガにはそれが出来ない。
(まぁ、王族なんだし強いんだろうな)
とリュウガが思っている通り一般の魔法使いよりは魔力が多い。魔法使いの決闘では魔力量も強さの一つだ。そして、
「来た来た。うちのギルマス様が」
マイの登場に嬉しそうにするリュウガ。
「約束通りわたしが勝ったら婚約は破棄して貰います」
「勝てたらね」
どちらも自信満々で負ける気がないらしい。
『重力』
マイに通常の100倍の重力がかかる。しかしマイはあらかじめ結界を張っていたので問題ないが周りは地面がへこんでしまっている。
「魔法後進国にいたあなたにはこの魔法が理解出来ないでしょう」
防がれてしまっているが余裕がある。それもそのはず彼が使う重力魔法は無属性という新たな属性でありこれは回復や補助魔法にも属性はあるのではないかとオズワルドで研究した結果判明した属性である。勿論魔法使い後進国にいたマイはそれを知らないが、
「流石は王族だけあって凄い魔法ですね」
感心しながらも、
『強制解除』
かけられていた重力魔法を解除する。
「どんな魔法も解除すれば無駄なんですよ」
「そんなのは分かってます。それに決闘は始まったばかりですよ」
『重力』
今度は横に重力が飛んでくるがそれすらもマイの結界は防いでしまう。
『耐魔法結界・極』
これがマイが張っている結界だ。この結界は対魔法使いにおいては最大の防御結界でありこれを突破するには結界に使われた魔力よりも多い魔法で破るかマイが良く使う強制解除でしか破れない。しかし強制解除は天才と呼ばれる魔法使い達しか使えないレベルの超上級魔法でありライは使えない。だから、
『重力魔法・極(これは防げまい)』
そう確信する程の魔力を込めて放つ。しかし、
「無駄ですよ」
無常にもその魔法はマイには届かない。これには、
「何でだぁぁぁぁ!!!!」
叫びながらがむしゃらに魔法を放つが全然届かない。何故なら彼が相手にしているのは天才魔法使いなのだから。
「終わりにしましょうか」
そう呟くと、
『重力魔法・極』
マイから全く同じ魔法がライに向けて放たれたが威力はライよりも大きくライは派手に吹っ飛んで壁にめり込む。観客席からはざわめきが聞こえる。何故魔法後進国のマイが無属性の魔法を使えるのかと驚いている。
『自動学習』
マイが常にかけている結界の一つでありこれに魔法が触れるとマイの頭に触れた魔法の使い方が流れてくるというものである。当然リスクもある。自分の属性に合わないと魔力がごっそり削られる上同時に身体中の血管がズタズタになるというものだが全属性を操るマイにはリスクとして作用しておらずメリットしかない。
「わたしの勝ちですね」
そう確信して杖を下ろした。その隙をついて、
『超重力』
マイの目の前に黒い球体が現れたかと思ったらそれは辺りを吸い込んでいく。ブラックホール全てを飲み込む重力の塊であり無属性最強の魔法である。壁にめり込んだ状態でも勝ちへの執念から魔法を唱えたらしい。だが対人戦で使うには過剰な魔法に、
「婚約者を殺す気か?!」
などと声が上がるが、
結界が割れて徐々に吸い込まれていくが冷静に得意魔法である、
『強制解除』
ライが最後の意地で放った魔法もマイにとっては簡単に解除出来てしまう。これが才能の差だ。これには、
「圧倒的だな。普段俺を見てるメンバーの気持ちが分かったわ」
上から見ていたリュウガが相手に同情していた。魔法使いでない彼から見てもそれだけ圧倒的なのである。
「もういいでしょ? わたしの勝ちで。それともお互い死ぬまでやりますか?」
淡々と語るマイ。いい加減終わりにしたいのだ。それに対して、
「お前は俺の物になれば良いんだよ!」
そうライが叫ぶとゾロゾロと魔法使い達が出て来てマイを囲むその数は20人。
「これが王族のする事か〜」
予想はしていたがいざ直面すると呆れてしまう程往生際が悪くて笑ってしまうマイに、
「捕らえろ」
ライが掛け声を上げると同時にマイを捕らえるための魔法をかけようと魔法使い達が杖を上げた瞬間、
「え?」
ライの口から間抜けな声が出る。マイが消えたのだ。突然音もなく。しかも、
「どう言う事だ? 魔力が感じなかったぞ!」
慌てふためく魔法使い達。答えは簡単だ。屋根にいたリュウガが高速でマイを攫ったのだ。これがリュウガ達が立てていた作戦である。もしも相手が決闘に負けてもごねてきたらリュウガが攫ってそのまま国を出るという強行手段。マイには魔力があるのでその気になれば追えない事もないがいかんせんリュウガが速いので追えない。その上魔法使い達にとってまさか魔力のない人間がいるとは夢にも思わないのだから尚更だ。そして、
「よっしゃ、ここは任せたぞ」
「OK」
壁の上で一旦止まる。オズワルドは壁だけでなく結界にも守られており違法出国は難しいがマイにはその結界すらも効かない。
『魔力同化』
そう言って張られている結界に同化する事で結界をすり抜ける事に成功する。リュウガは魔力がないので当然スルーしてマイを抱えて壁から飛び降りる。
「マイ様〜、また会えて嬉しいです〜」
泣きながらランがマイに抱きついて来る。事前にランには国を出てもらって近くで待機させていたのだ。
「ごめんね、まさかわたしもこんな大事になるとは思ってなかったから」
マイが申し訳なさそうに頭を掻く。
「まぁ、細かい話はギルドに帰ってからにしようぜ」
そう言ってマイがランにも耐物理結界を張ってからリュウガは2人を抱えて走ろうした時、
(何だ? 変な感覚が身体を走らなかったか?)
そう思い2人にも確認をとろうとしたのだが、
「なぁ、今何か身体に、、、、お前ら浮いてね?」
そうなのである。リュウガが抱えずとも空中で固定されている。2人だけではない鳥も木の葉も止まっているのだ。
「マジか! 時が止まってんのか!」
時が止まってしまっているのだ。だがリュウガは止まらないつまりは、
「魔力のない俺には作用してないって事は魔法か? だが滅茶苦茶すぎるだろ」
世界規模の魔法に驚くリュウガ。そこへ、
「あの一瞬でここまで移動するとはな。それに魔力がない人間を初めて見たな」
現れたのは黒髪短髪の男。この男が時を止めた人物なのだろう。
「こっちも時を止める人間なんて初めて見たよ」
皮肉混じりに返す。すると、
「安心しろ、止めるといっても3分が限界だ。その上魔力を4分の1は持っていかれるし月に1回しか使えん」
「いや充分凄ぇよ」
デメリットはあるがそれでも充分過ぎる効果だ。
「で? あんたは誰だ?」
「こっちが逆に聞きたいね、君は誰で娘に何をするつもりだ」
マイの父親だった。リュウガはその答えに、
「親父さんでしたか。それは申し訳ない。自分は娘さんが作ったギルド『運命の宿木』サブマスターのリュウガ・レンです」
そう言って頭を下げる。
「成程な。わざわざここまで来るほど娘の事を思ってくれて感謝する」
「サブマスターとして当然です。それでどうしますか? 引き止めますか?」
「いや止めないよ。そもそもわたしでは君を止められないし何より娘が無事ならそれで良い。婚約のほうはこちらで破棄しておく。そちらにまた押しかけたりはしないよ」
「いいんですか?」
「問題ない。息子も今日の第3王子の行動を見てあんな奴に妹はやらんと言ってるからね」
どうやらこのまま逃げても問題はないらしい。
「娘の事よろしく頼むよ」
そう言って身体強化魔法を使い走り去っていった。その背を頭を下げて見送った。
「やべ! そろそろ3分だ」
そういって慌てて2人を抱え直してまた身体に不思議な感覚が走った瞬間に時が動きだしたと思い走り出す。
「何か言わなかった?」
マイが話しかける。どうやら時が止まっている間の事は分からないらしい。
「何でもねぇよ」
親父さんに会った事は黙っていよう。そう思いただひたすらにギルドへと足を進めるリュウガであった。
ブックマークと下記の評価して貰えると嬉しいです。