29話 素手で挑むは空の覇者サンダーバード
マイからの1日に受ける依頼を1回とする制限をウェンは与えられていたのだがリュウガがウェンとの手合わせをしたいがために3回にしてもらった。流石に他の龍との殺し合いに備えてとは言ってないが、
(いずれは言わねぇとなんねぇけどな)
なんて考えながら今リュウガはサンダーマウンテンを登っている。サンダーバードを討伐するために。
「わたくしがランクを上げている間に主様には課題を出します」
「課題?」
マイにウェンの依頼制限を解除して貰う時にウェンからリュウガへと課題が出された。それが、
「わたくし達龍を差し置いて空の覇者と呼ばれているサンダーバードの討伐です」
「それ私怨が入ってねぇか?」
なんて突っ込みを入れているが、
(俺だからいいけど普通の奴にとってはサンダーバードは最終目標だろ)
暗に自分にとっては通過点だと言ってるがそれを見透かしてなのか、
「余裕そうですが刀を使わずに素手で討伐してもらいます」
「それは中々厳しいな」
「主様が刀を使えば瞬殺ですからね。当然の縛りです」
「いや、相手はサンダーバードだよね。2人共そこらの鳥と勘違いしてない」
マイが横から口を挟む。
「とんでもない、主様が素手で討伐するにはギリギリの相手です。そんな事そこらの鳥では出来ません」
なんてフォローになってないフォローを入れるウェン。
「全くリュウガもウェンもとんでもないね」
「そんな2人を従えているギルマスも天才魔法使いとして頑張んないとな」
「そうですね、ギルマスはわたくしと一緒に依頼をこなして共にAランクになりましょうか」
「わたし死んじゃわない?」
「安心してください、魔法使い相手に無茶はしません」
とまぁ、そんな会話があったのがほんの数時間前の事だった。
(素手縛りってのがキツいな)
今回というよりも今後はリュウガは素手で戦う事になった。というのも、
「龍を相手にするなら身体はより頑丈にして更には速く動けるようにしなければ話になりません」
との事だそうだ。
「まぁ、そこらのモンスターなら問題ないがな」
そう言って手刀で襲いかかるモンスターを斬り裂いて険しい山道を駆け上がって行く。そのモンスター達はいずれもAランク。そこらの冒険者なら素手はおろか武器を持っていても勝てないようなモンスター達を有象無象のように斬り捨てて行く。
その調子で進む事1時間で山頂に着いた。岩がゴロゴロと転がっているが山頂からの景色は中々美しい。だがそれを楽しむ前にまずは、
「卵を探すか」
これはおまけのようなものなのだが、
「ちょうど産卵の時期なので運が良ければ卵があるのでついでに持って来てください。美味しいので」
「そんな子供のお使いみたいに頼むものじゃないでしょ」
マイの突っ込みもごもっともなのだがそんな事をやってのけないといずれ来る龍との戦いでリュウガは死んでしまうのだから仕方ないだろう。
そんなお使い感覚で討伐されるサンダーバードには合掌するしかない。
「あれが巣だな」
岩ばかりの山頂に似つかわしくない木の枝で作られたいかにも鳥の巣ですというものがあった。そして、
「急に暗くなったって事は登場だな」
辺りが雷雲によって暗くなり雷が辺り一面を襲う。
(巣には落ちない辺り名前通り雷を操るのか)
冷静にサンダーバードの特性を分析するリュウガ。しかし、肝心のサンダーバードの姿が見えない。
(雷雲から気配がするからいるのは確定だが確実に攻撃を当てたいから今は耐えるか)
相手は遥か上の雷雲の中にいては手が出せない。神凪なら上空の相手にも届きはするが雷雲で見えないので今はそれも出来ない。
そんなリュウガの状態を把握しているのかサンダーバードはただひたすらに雷を落とし続ける。今は何とかかわせているがこの調子だとやばい。
(卑怯だが巣の近くにいれば絶対に雷は来ない上にサンダーバードも降りてくるからそこで仕留める)
既に対策を考えていた。そして、巣へと駆け出すリュウガ。それを雷雲から見ていたサンダーバードは慌ててリュウガに突進してくる。それを、
『無刀 ‘神凪’』
手刀で斬り裂いたかにみえたが、
(硬ぇ)
翼で防がれた。リュウガの手刀は鉄すらも斬り裂く。つまりはサンダーバードの翼はそれ以上の強度をほこるという事になる。
『無刀 ‘神挿’』
貫通力のある業に切り替えたがかわされる。素速さはフェンリルと同じのため仕方ない。
距離があいてサンダーバードの姿を見て、
「綺麗だな」
戦闘中だが思わず口に出てしまうのも無理はない程綺麗なのだ。美しい金色に輝く翼、雄々しい嘴と鉤爪。翼を広げた状態で3mもある世界1綺麗な鳥。それがサンダーバードだ。
(いやいや、今はそれどころじゃねぇわな)
首を振る。雷雲から引きずり出したとはいえ、無刀の状態だと仕留めれない以上戦い方を変えないといけない。
(まぁ、全く手段がない訳じゃねぇが)
だがその手段を取るにしても地面に叩き落とさないと話にならない。サンダーバードの、
キェェェェーー!!
という鳴き声と共に雷が再びリュウガを襲う。しかし、それをかわしチャンスを狙うリュウガ。
ひたすらに雷をかわすこと数十分仕留める事が出来ずにイライラし始めたサンダーバードがその立派な鉤爪でリュウガに襲いかかる。
「流石鳥頭だな」
リュウガはカウンターを狙っていた。サンダーバードが雷を使わずに直接攻撃するその瞬間を、
『赤華』
サンダーバードの胸を掌底で打ち抜く。サンダーバードの羽毛で覆われた胸も翼同様に硬いが、
「この技に硬さは無意味だ」
そう言うと、サンダーバードの心臓が弾けた。
練家に伝わる格闘技 ‘赤華’ 相手の心臓が拍動する瞬間に胸を掌底で打ち抜く技だ。この技はかなり難易度が高い、何せ相手の心臓が拍動する瞬間を戦闘中にしかも急所である胸を狙わないといけないからだ。しかし決まれば確実に相手の心臓は弾けて血の華が咲くため赤華と名付けられた。
「ぶはぁ〜」
どっ、と疲れが出る。それだけ難しい技なのだ。本当は使いたくはなかったのだが他の技では決めきれないので仕方なかったのだ。
「本当は無刀技で決めたかったんだがな」
もっと時間をかければいずれは無刀技でも仕留めれたかもしれないが確実ではないので赤華を使ったのだ。
「ウェンとしてはこの勝ち方は褒めないだろうな」
なんて事を呟きながら巣にあった卵を回収する。2個あったがダチョウの卵よりも2回りも大きかったので1個だけにした。
「お疲れ様でした」
ギルドにて出迎えるウェンだがそれ以外の冒険者全員がぶっ倒れていた。
「何これ?」
あまりの光景に卵を落としてしまいそうになるリュウガ。
「皆さまがわたくしの実力を見たいというので手合わせをしまして」
「加減しろよな」
「しましたよ、でなければ皆さま死んでいます」
ぶっ倒れているメンバーに届くか分からないが、
「スシさん、この卵で美味い飯頼む」
そう言ってサンダーバードの卵をギルド専属の料理人であるワンさんに渡すと、
「「「「飯だ〜〜」」」」
全員起き上がった。
「本当に人間って単純ですね」
クスクスと笑うウェンに、
「それが人間の良いところだろ」
と笑うリュウガであった。
練家 格闘技 赤華
相手の心臓が拍動する瞬間に胸を掌底で打ち抜く技。やられた相手の心臓は弾けて赤い華が咲いたみたいに見える事から名付けられた技。
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