27話 メンバー6 ウェン
「お前の家名どうする?」
ギルドに帰る道中にリュウガはウェンに家名をどうするか尋ねる。家名がないと冒険者登録出来ないからだ。
「主様と同じは不敬に当たるので新しいものを頂きたく思います」
「シロガネでどうだ?」
白銀を別読みにしてカタカナにしただけの安直な家名だが、
「有り難く頂戴致します」
嬉しそうにしている。主であるリュウガから貰えれば何だって嬉しいのだろう。
「帰るまでに人としての設定を考えないとな」
「そうですね、先程聞かれた職業はどうしましょうか? やはり主様の下僕」
「却下」
食い気味に下僕を却下した。
「お前刀使えるか?」
「主様程ではありませんが並みの相手なら余裕で殺せる位には」
「充分過ぎるな」
ウェンの並みの相手がSランク以上になっているが龍にとってはそれが普通だ。
「職業は剣士で出身はワ国、これなら俺がお前の主でも違和感ないだろ」
「分かりました。ですが刀は?」
「後日買う、今刀がないのはここに来るまでに折れた事にしとけ」
「分かりました」
そう言って2人は他にも必要な設定を考えながらギルドへと足を進めた。
◇
「改めまして、ウェン・シロガネと申します。職業は剣士。主様同様ワ国出身です」
ギルドに着いて改めてウェンは自己紹介をした。最初の自己紹介と違い家名も職業もしっかりしていて,明らかにさっき考えてきました感が出ていたが、
「そうなんだ、それじゃあ冒険者登録するね」
と、ギルドマスターのマイが何の疑問も持たず冒険者登録を進めているので皆、
(まぁ、良いか)
とトントン拍子で進む。
(マイはウェンがワ国出身って事で何かあるって察したな)
その通りだった。マイはワ国と聞いてウェンが異世界に関わる何者かであると判断して2度目の自己紹介を追求しないで受け入れる事にしたのだ。流石にウェンが龍である事までは予測出来ていないが今はそれで充分だ。
「これで登録完了だよ」
「ありがとうございます、では早速行ってきます」
登録が完了して簡単な説明を受けてウェンは早速掲示板にある依頼を手に取りカウンターで手続きを済ませてギルドを出て行ってしまった。
「武器は?」
ソウが突っ込む。
「予備のナイフが懐にあるんだよ」
と、リュウガが素早くフォローを入れる。
(無理矢理だがしょうがないよな)
内心冷や汗ダラダラだがこれで誤魔化す。帰ったら説教がウェンを待つのは確定した。
そして1時間後、依頼を達成したウェンが帰って来た。あまりの早さに全員驚く。そんな皆の反応を他所に、
「次は」
と、次へ行こうとするウェンを、
「ちよっと来い」
リュウガは2階にある自分の部屋に連れてく。
「主様、わたくしは早く主様と同じランクに上がらなければいけないので邪魔して欲しくないのですが」
拗ねた様子だが、
「お前、設定忘れたのか? 剣士が素手で依頼に出るんじゃねぇよ」
と言ってデコピンする。
「ですが、問題ありませんよ」
キョトンとしているが、
「俺達ならそこら辺のモンスターを素手で倒せるが普通は無理だ。しかもお前は俺以外には正体不明なんだ加減しろ」
と、注意してから、
「取り敢えず、俺の刀貸してやる。せめてそれで依頼を達成しろ」
刀を貸そうとしたが、
「主様の刀を借りるなんてとんでもない、素手で結構です」
断られた。
「いや、素手は駄目だって言ってんだろ。俺の刀が使えないならせめて明日刀を買ってからにしろ」
そう言うと渋々ながらも納得してくれたようだ。すると、
「入るよ」
マイが入って来た。ウェンについて聞きたいのだろう。
「ウェン、貴方もリュウと同じで異世界の人だね」
確信を持って告げるマイに、
「いいえ、異世界の事は知ってますが違いますよ。ギルドマスター」
間違いを指摘して、
「わたくしは龍神に仕える龍の1匹でございます」
と正体を明かす。事前にリュウガからマイが異世界転生の事を知ってるからマイには正体を明かしてくれないかとお願いしておいたがこんなにも早くバラす事になるとはリュウガも思っていなかった。
(夜に皆が帰ってからゆっくり話をするつもりだったんだがな)
なんて思っている。そして正体を明かされたマイはというと、
ポカン
と口を開けていた。無理もない。予想を外した上にわたしの正体は龍ですなんて言われた誰だってポカンとするだろう。
暫く呆けていたが、
「龍ね龍。伝説にしか聞かないけど実在するんだ」
直ぐに真面目なトーンに切り替わる。
「取り敢えずは皆には内緒にするんでしょ? 他にわたしの助けはいる?」
「龍だから人間社会に対する理解があまり追いついてないからフォローしてくれ、それ以外はこっちの問題だから詮索するな」
龍神とかの話はややこしくなるので事前に詮索を禁止しておく。
「分かった、けど前みたいに無茶だけはしないでよね」
前とは、リュウガとバルトの殺し合いの事だ。
「善処する」
とは言ったものの他の龍から命を狙われているので無茶をやらかすのが確定しているがそれは言わずに心の中に閉まっておいた。
「それじゃ、ウェンら暫くは大人しくして依頼も1日1回だけにして、それでも充分早いスピードで昇格出来るから」
そう言って部屋を出るマイ。おそらく他のメンバーには適当にウェンに説教をした事にして誤魔化してくれると信じてリュウガは、
「まぁ、そう言う事だから大人しくしてろよ。これも人の社会で生きていく為なんだから」
それとも出て行くか? と意地悪そうに聞くリュウガに、
「滅相もありません、この程度長い年月を生きるわたくしには何の問題もありません、今後とも末永くよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるウェンだった。