26話 龍神の一族
「とりあえず人型に戻ってくれないか? 首が痛い」
龍の姿のウェンはデカい上に浮いていて見上げる形になっていてなっていて首が痛くなる。
「主様の仰せのままに」
そう言って人型に戻る。今度は光らずに戻ったのを見て、
「光らずに変身出来るなら最初からやってくれ、眩しかったぞ」
文句を言うリュウガに、
「最初の変身だったのでインパクトが重要だと思い輝いて見せましたがお気に召しませんでしたか?」
「龍になる時点で十分インパクトがあるよ」
全くもってその通りである。
「で、結局龍であるお前が俺を主と呼ぶのは何故だ? そもそも何故俺が練家である事を知っている?」
ウェンの正体が龍である事は分かったがまだ謎はある。異世界から来たリュウガの家名である ‘練’ を知っているのはこの世界ではマイしか知らないはず。そもそも異世界を認知している。ウェンはそれだけ遥か上の存在だと判断するがそれ程の存在に主様と呼ばれるのが不思議でならない。
「わたくし達、龍は龍神の直系の僕であります。そのため龍神の一族である練家の主様を知っているのは当然の事でございます」
「俺の一族が龍神?」
初耳である。リュウガが知らないのも無理はない。何故なら練家の13代目当主が自分よりも前の当主達の記録を焼いてしまっていて練家の技だけが伝わり家業は殺し屋か用心棒だと思っていたのだから。
「知らなかったようですね」
ウェンは続ける、
「一口に龍神と言っても1柱だけでなく幾らかいる内の龍神が貴方様のご先祖に3柱おります」
「多いな。まぁ何となく何代目が龍神になってるかは予想出来るが」
(初代、2代目、10代目だろうな)
正解である。練家を創設した初代、神殺しを成し遂げた2代目、そして10代目がどんな人物かは幕間で語ろう。とりあえずはこの3人が神に至っている。
「龍神の僕って言ったが一族の人間でも俺はただの人間だがそれでも俺はお前にとって主なのか?」
純粋に疑問に思う。世界最強の強さを持っていても自分はただの人間だ、神なんかじゃない。その事は自分が良く分かっている。
「確かに主様はまだ神に至っておりませんがわたくしには分かります。貴方様はいずれ神になると」
断言された。その眼は曇りがなく真剣なものだ。
「俺が神にねぇ」
実感が湧かない。そりゃそうだろう、いきなり神になれると聞いてもピンとくるはずがない。
「今はまだなれませんので安心してしてください、それまでわたくしがお守りします」
守る、その言葉にリュウガは、
「何から守るんだ? 自分で言うのもなんだがモンスターを含めても俺は世界でも上位に来る強さだぞ」
ウェンがいるので世界最強とは言えないがそれでも世界最強に近い実力を持っている自信があるので純粋に興味がある。自分を脅かす存在を、
「確かに主様は強い、ですが龍の中には貴方様を認めていない輩もいるのです」
どうやらリュウガの事を全ての龍が認めている訳ではないらしい。
「龍はドラゴンと似ていますが全く違う生き物です。まずドラゴンはただの力の塊で本来の力を制御出来ずにいます。そのため弱い。ですがわたくし達龍は力を制御してこのように姿を変える事も出来、人語も理解する事が出来ます」
ここまでは、良いですか? と問いかける、ウェンに頷いて続きを促す。
「そしてその力をもって上位の存在である神とも交流を持ち異世界の事すら把握する事が出来ます。だからわたくしは主様を知っている訳でこれは他の龍達も同じです」
ただし、と付け加える。
「他の龍達は異世界の人間それも神ではない人間に興味はないのですが主様は最近神の領域に少し触れましたね?」
そう言われて思い出したのは自分と同じ領域にいた男、バルト・アザンディッシュとの殺し合い。恐らくそれだろう。
「それを龍達は察知して、主様が自分達を従えるに値する者なのか判断するために殺しに来る可能性があります」
「お前以外の龍ってのはそんなに物騒なのか?」
「皆が皆そうではありません。そもそも数は少ないです。ですがその少ない中でも特に力の強い龍である、龍皇、龍帝、覇龍が貴方様を殺して自分が神に至ろうとしているのでこうしてわたくしが守りに来た訳です」
説明はそれで終わった。それに対してリュウガは、
「お前の龍の中での立ち位置は大丈夫なのか? そんな力の強い龍に反抗しても」
会ったばかりではあるが自分を主様と呼ぶこの龍の立場が危ないようなら別に守ってもらわなくても結構なのだが、ウェンは、
「わたくしはずっと龍神に仕えている身です。何の問題もありませんし、彼らに仕える気は全くありません」
どうやら身を引く気はないらしい。
「なら、俺の為にいや、俺達のギルドの為にもこれからよろしく頼む」
受け入れる事にした。ウェンが龍であるならNo. 1になるのに絶対に役に立つ。
「仰せのままに」
そう言って片膝立ちで頭を下げるウェン。それを見て、
「さて、帰ってからどう説明するかな」
なんて考えた瞬間リュウガの意識が飛ぶ。
「主様?」
急に意識が飛んだ自分の主を心配そうに覗き込むウェンに、
「安心しろ、龍よ」
先程とは声色が変わった言葉がリュウガの口から出る。しかも、
(この気配は神の!)
即座に距離を取り、片膝をつく。
(何故急に!?)
突然の事態に混乱するウェンに、
「暫く身体を借りるぞ、17代目」
リュウガから言葉に、
(身体を借りる? つまり今主様の身体にいるのは本物の?)
ウェンの思考を読んだのか、
「その通り、俺は練家2代目当主練龍鬼、龍神の内の1柱だ」
2代目当主練龍鬼、神殺しを成し遂げ神へと至った練家最強の男が今リュウガの身体を借りている。その事について、
「恐れながら、何故急に現れたのですか? わたくしが主様を守るのに問題があって来たのでしょうか?」
疑問をぶつける。それに対して、
「あぁ、問題だ。一緒にいる事は許す。だが守ることは許さん。他の龍共に殺られるならそれまでの男だと諦めろ」
守る事を禁じられた。しかし、
「そんな! 貴方様は子孫が大事ではないのですか!?」
喰っててかかる。自分が信仰する龍神ではあるがあまりな対応に憤慨するが、
「馬鹿が、違ぇよ、俺の子孫があの程度の連中に負ける訳ねぇだろ。舐めんじゃねぇ!」
信じているのだ龍鬼は、
「これは他の龍神である、龍覇も龍姫も認めている。だから17代目の喧嘩にお前は手を出すな」
そう言って眼を瞑る。そして、
「さて、帰ってからどう説明するかな」
リュウガは意識を飛ばす前の言葉をまた吐き出した。どうやら龍鬼は身体から出ていったらしい。
ポカンとするウェンに、
「おい? とりあえずギルドに行くぞ」
一緒に帰るように促すリュウガに、
「えぇ、行きましょう。主様」
そう言ってギルドへ向かうリュウガの後ろに続く。
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