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幕間4 神殺し

 練龍鬼(れんりゅうき)は18歳になり父から刀を譲り受けて全国を回る旅に出ていた。


「旅をしたい」


 突然の息子からの申し出を父も母も、


「「いってらっしゃい」」


 快く送り出してくれた。


「自分から言っておいてなんだが良いのか? 道場は?」

「別に構わないぞ。そもそも道場は貰い受けたものを引き継いだんだから終わるなら終わるで構わない」


 道場に関しては心配いらないらしい。


「身体に気をつけて、たまには帰ってきてね」


 母から餞別(せんべつ)のおにぎりを貰い旅へと出た。



「いないもんだな、俺より強い奴」


 龍鬼が旅をしている理由はそれだ。自分と同等もしくはそれ以上の強者を求めていたのだ。しかし、旅を始めて半年が経とうとしていたがそんな者は現れなかった。この時点で龍鬼の強さは世界最強であり強さが理不尽の()()に到達していた。そんな彼を満足させる者などそうそういなかった。


(今のところ親父とどっこいかそれ以下位の奴が1人いた位だったな)


 龍鬼の父である練龍覇の強さも世界最高レベルだがまだ足りない。


「まぁ、旅は始まったばかりだし気長にいくか」



 そして旅から2年が経過して20歳となった。()()()()()()()が未だに彼が求める強者には出会えずにいた。


「もう全国を回ったがいなかったな」


 たった2年で全国を回った。この時は未だ移動手段が徒歩か馬だったがほぼ定住する事なく歩いた結果2年で回ってしまった。


 そして現在彼はある土地で()()の人に出会う。


「綺麗だ」


 基本定住しない彼であったがもう自分の求める強者が見つからないと思い今はゆっくり家に帰ろうと考えていた矢先に茶屋で団子を食べながら街道を眺めていると巫女服が良く似合う美しい女性に見惚れた。そして目が合った。向こうは照れ臭そうにしてそそくさと歩いて行ってしまった。


「ダンナ、あの女性は?」


 団子屋のダンナにあの女性について聞く。


「お客さん、旅人かい? あの人はこの街じゃ有名な神社の巫女様だよ、名前は夢原夕鶴(ゆめはらゆうづる)

「夢原夕鶴」


 教えられた名前を呟く。あの女性と一緒にいたい。完璧な一目惚れだ。


「なぁ? どこの神社だ?」


 茶屋のダンナにどこの神社に行けば会えるか聞くが、


「おいおい旅人さん、惚れたのかい? だが残念ながら無理だぞ」


 断言された、何故か聞いてみると、


「神社に住まう神様に生け贄として捧げらるからだよ」

「あ゛?(今何て言った? 生贄?)」


 ペラペラと語る茶屋のダンナ。何でもこの街は神社に住まう神様に年に一度生贄に巫女を捧げる事であらゆる厄災から守られているらしい。


「(これが普通の事なのか)おい、誰も止めないのか?」

「止める? 何故?」


 不思議そうな顔をする主人に周りで話を聞いていた他の客達も不思議そうにしている。


(気持ち悪ぃ! 生贄捧げて自分達は何の犠牲も払わず生きてやがる)


 殺気が洩れる。辺りに一瞬風が吹くが誰もまさか人間から発せられたのもだなんて思わず気にも止めない。


「おい、いいから神社の場所それから生贄を捧げる日にちを教えろ」


 無理矢理聞き出して店を出て呟く。


「3日後か」


 3日後彼女、夢原夕鶴は神へとその身を捧げられてしまう。


「なら、やる事は決まったな」


 昔、父と冗談で言ったあの話を実現させようではないか、


()()()だ」


 バケモノと神の戦いが始まろうとしていた。



 彼女、夢原夕鶴は神様へと身を捧げるための準備として身を清めるため滝に打たれていた。


(死ぬ事は怖くない。これも皆が幸せになるためなのだから)


 そうやって育てられてきた。だからこれは普通の事それでも、


「恋をしたかった」


 小さく呟く。生贄として捧げらる身ではあるが一人の女性として恋をしたかった。


「あの茶屋にいた人かっこ良かったな」


 茶屋にいた男とは3日前に生贄として一緒に捧げる酒を買いに行った時に一目しか見なかったが刀を挿した黒の着物を着た男、その男とは練龍鬼である。


「まぁ、あの人はきっと素敵な恋人がいるだろうし、生け贄になる私には関係ないよね」


 そう言って彼女は街の皆のためにこの身を捧げよう改めて決意して神社へと向かう。



 夕方になり、神社から生贄である夕鶴以外の人はいなくなった。それがルールなのだ。生贄を神が喰らうまで他に人がいようものならその者も喰われてしまう。生贄は1人で充分なのだ。


「神様、この身を捧げます。ですからまた1年この街を厄災から御守り下さい」


 その言葉を言った瞬間神社から光が天に昇る、そして現れたのは白髪のそしてどこまでも真っ白な姿をした男これがこの街のこの神社に住まう神だ。


「良かろう、また1年の安泰を約束しよう」


 そう言って、その手が夕鶴に届こうとした、その寸でのところで、


「待て。その女は俺が貰う」


「あなたは」


 夕鶴は驚いた。神社には誰も近づけないようにこの街に住まう武家の者達が警護していた筈だ、それなのに1人の男が現れる。それも茶屋で見かけたあのカッコいいと思ったあの男が、


「儀式の邪魔をするな痴れ者。それとも貴様も生贄か?」


 邪魔をされ少し不機嫌そうな神様に、


「俺は練龍鬼。練家2代目当主だ。そして神殺しを実現する者」


 堂々と宣言して殺気を放つ龍鬼に神は、


「ハッハッハツ! 神殺し! 貴様が? 馬鹿も休み休み言え! 下郎!」


 殺気を放つ神様、その殺気は凄まじく龍鬼のモノを超える。


(ハハッ! 神様だけあって凄ぇ殺気じゃねぇか!)


 テンションが上がる、とうとう求めていた自分以上の強者そいつは神様でしかも惚れた相手を求めての戦いだ。テンションが上がらないのがおかしいぐらいだ。


神凪(かんなぎ)


 遊びは抜きだ、とばかりに首を狙ったその技は、


「無駄だ下郎」


 届かなかった。届く筈だった斬撃は神の目の前で突然消滅したのだ。


(何でだ? 完璧に決まると思ったが?)


 疑問に感じるが、


「死ね」


 神そう言った瞬間、悪寒が身体中を駆け巡った。


(やばい)


 横に避ける。


 バシュン!

 

 そんな音が聞こえて自分がいた場所の中心にクレーターが出来ていた直径2m程だ。


「ほう、視ないのに良く避けたな。否、視えているのか? 人間の分際で?」


 神が使った力は神通力と、呼ばれるモノであり普通人間は見えないモノでありその力の前では人間は無力と化す筈なのだが、


(危ねぇ! ()()()がなかったら今ので死んでたな)


 龍鬼は産まれたその時から右眼に傷があり隻眼なのだが残った左眼は死の気配を視ることが出来るのだ。それは人の死期だけでなく今のように攻撃を避けるのにも役立つ。


(この眼が神の力を観ることが出来たのは僥倖(ぎょうこう)だが)


神射(かんざし)


 技を放っても、やはり届かない。よく見ると神の周りを常に死の気配が覆っている。つまり、神はオートガード状態の鉄壁の守りそれに、


「ほれほれ、どうした? まだ舞えるだろう」


 ノーモーションで神通力による攻撃が飛んでくる。しかも体力を消費している感じもない。


(消耗戦も出来やしねぇ! 難敵とかのレベルじゃねぇぞ! こいつは!)


 今はまだ避けれているが少しでも喰らえば致命傷は免れない筈だ、最悪それが最期になるだろう。


「粘ったが儀式の途中なのでな終わりにしよう」


 そう言った途端に龍鬼に周りを死の気配が覆う。


(逃げ場が!)


 バジュン!!


 初撃よりも威力ある攻撃を喰らい地に伏せる。


「ブハッ!」


 血を大量に吐き出す。内臓がやられた感覚がある。その上に、


「ゼェ、ゼェ!」


 息を吸っても肺に空気が溜まる感じがしない。肺が1つ潰れた。そんな重症でも彼が生きているのは天賦の肉体をしているからだ。


「ほう! 普通から跡形もなく消滅するのだがな」


 神は嬉しそうだ。


「貴様も極上の供物になるだろう」


 予定外ではあったが龍鬼の肉体は神様から見ても極上らしいがそれを止める者が1人いた。


「もうおやめください! 生贄は私1人で充分でございしょう!」


 涙ながらに訴える。一目しか見てないそれでも自分のために神に刃向かった彼を死なせたくなかったのだ。


「駄目だな、お前ら2人共私の供物だ」


 笑いながら否定された。自分には何も出来ないのかと膝から崩れる、


(これが本当に神様なの?)


 教えられてきたモノとはかけ離れたその性格に絶望する。ニヤニヤと笑うその神は神は神であるが悪神だ。八百万の神から堕ちたのだ。堕ちた腹いせとばかりに適当な街を見つけ生贄を求めたのが全ての始まりだった。そんな神様に、


「まだ、終わってねぇぞ」


 歯を食いしばって立ち上がる龍鬼。常人なら立ち上がるのすら不可能なのだが、


(殺すんだよ! 神を! そして夕鶴と一緒になるんだよ!)


 所詮一目惚れなのに何故そこまでするのかそれは、


「龍鬼、お前がこの女だと思ったらその女がお前の()()の女だ。死んでも守れ、そのための練式剣術だ」


 父に言われた言葉を思い出し、力を入れて刀を握り込む。


「もう終われ、下郎」


 そう言って最大威力の一撃を放つ。もう既に龍鬼の意識は飛んでしまっていた。しかし、


「何?」


 神通力が消えたのだ。突然。龍鬼に届く事がなく消滅したのだ。


(ありえん、そもそも奴は既に意識もない筈だ)


 意識はないが龍鬼の身体からは途轍もない程の殺気が溢れていた。その殺気は、


(あり得ん! この殺気はまるで武神タケミカヅチと同じ)


 かつて自分もいた天界にいた武の神を彷彿とさせる殺気を放つ龍鬼に、


「人間如きが神に敵う訳がないだろうが!!」


 今までとは違う殺意を込めた本気の一撃だ。


 シュン!


 そんな音がして神通力は消滅した。


「何をしたのだ! 下郎!」


 激昂しながら龍鬼に神通力を放ち続ける神だがそのどれもが龍鬼には届かない全て斬られているのだ、神通力がだ。神にしか扱えず神にしか対応する術を持たない神通力を只の人間である筈の龍鬼は斬っている。これは死の気配を視る事が出来るからこその芸当だ。今までは出来なかったが死の淵を経験した今だからこそ死の気配をより強く視る事が出来るようになり更にはそれを斬ることを可能とした。

 更には、練式剣術奥義 ‘虚無’ 本来は完璧な脱力から発動する攻一体の神速の技なのだが今龍鬼は新たな領域に手を出した。間合いも脱力も必要ないただ身体が勝手に凡ゆる攻撃に神速以上の速度であらゆるモノを無効化する技へと昇華させた。


 ゆっくりと神へと足を進める龍鬼に神はひたすらに神通力を飛ばすがやはり届かない。それでもその顔には少し余裕がある。


(無駄だ! 俺の周りの神通力は攻撃用に使ってるモノよりも更に強固なモノで近づいただけで相手を消し飛ばす!)


 そんな考えは直ぐに消える。神自身と一緒に、


(何が起こったの?)


 夕鶴には何が起こったのか分からない。龍鬼が神との距離を1mを切った瞬間神が消えたのだ。


「逃げたの?」


 そう呟くが違う。跡形も無く斬り捨てられたのだ。龍鬼の手によって。


 龍鬼の昇華された ‘虚無‘ は全てを斬り捨て無へ還す。それは神であっても例外ではなかった。


「勝った」


 そう呟いて、龍鬼は倒れた。神殺しは達成された。



「あれから3年か」


 神社を掃除しながら夕鶴は呟く。

 神殺しが果たされたその後は大変だった。本来生贄になる筈だった夕鶴が生きており更には神様が殺されて街の人々は怒りを露わにした。


 天罰が降る!

 罰当たりが!


 様々な声を浴びせられた。中には石を投げる者もいたが、


「うるせぇぞ」


 血を這うようなら声が龍鬼から出てくる。龍鬼は夕鶴におぶさって気絶していたが夕鶴に危険が近づいたのを感じて起きたのだ。自分の足で立ち街の人々に、


「神を殺した俺がこの街の神として、龍神として君臨する! 文句がある奴は神殺しをやってみろ!」


 無茶苦茶な事を言っている。だがそんな彼に挑もうとする者はいなかった。ボロボロの姿だがその立ち姿はあまりにも迫力があって恐ろしかった。


「結局、そのまま本当に神になっちゃうんだから凄いよ」

(そんな人と夫婦になれるなんて私は本当に幸せだ)


 天を見上げ思いを馳せる彼女に、


「ただいま』


 掛けられた声に、


「おかえりなさい、あなた」


 愛する旦那様を優しい微笑みで迎える。


 


 

 


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