22話 うわばみの穴蔵
お酒好きなのでお酒の話書いてみました。
マイは四大貴族の1つであるサロワ家に来ている。朝早くに遣いの者がギルドにやってきて依頼を頼みたいので屋敷に来るようお願いされたのだ。何故わざわざ呼び出す必要があるのか分からないが四大貴族からの依頼なら受けておいて損はないだろうという事で現在客間にて、
「それで依頼というのは何でしょうか?」
マイは向かいに座る緑髪の男性ローア・サロワに今回の依頼の内容を聞く。
「今回お願いしたいのは闇市で行われる酒好きのイベントうわばみの穴蔵の優勝商品である絵画を手に入れて貰いたいのです」
◇
うわばみの穴蔵とは闇市で行われる月に一度行われる酒の飲み比べ勝負である。毎回死人が出ているがそこは闇市のイベントであり自己責任の為に主催者には何のお咎めも無い。そんな曰く付きのイベントに何故参加する者がいるのかというと優勝賞品が豪華なのだ。表の市場では滅多に見られない物ばかり。今回の賞品の絵画はとある有名な画家の最後の作品であり依頼者のローアはその画家のファンでありどうしても欲しいとの事だ。
「貴族からの依頼って事で受けたけどどうしよう?」
帰って来たマイが皆からの意見を求める。
「普通に考えてもサブマスターが受けるべきでしょう」
ハンザがリュウガに任せるようマイに進言する。何せこのギルドで酒好きはリュウガ位の者なのだから当然の流れだ。そこに意見を挟む者が1人。
「あたしが行きたいな〜」
アズサだ。昼食の為に工房から出てきたところ話を聞いていたようだ。まだアズサはギルドに来たばかりでありしかも基本工房で研究ばかりをしていてメンバーは彼女の事をあまり知らないのでしょうがないが彼女もリュウガ同様酒好きなのである。しかし、
「却下。アズサが酒好きなのは知ってるけど駄目」
「え〜、あたしが冒険者じゃないから〜?」
小首を傾げてマイに聞く。マイから放たれた一言は、
「だって、脱ぎ癖があるんだもん。アズサは」
これにはリュウガ以外の男性陣がアズサに注目する。アズサは女性から見ても美しい見た目と体型をしている。そのアズサが酒を飲むと脱ぐというのだから男なら気になるというものだ。
「それじゃあ、依頼は俺がやるという事で決まりだな」
問題発言が出たものリュウガの決定に男性陣はアズサの参加を期待しただけにしょんぼりしてはいたがアズサ以外の女性陣(受付嬢含む)から睨まれてリュウガ1人の参加で決着はついた。
◇
闇市は街の地下にある。昔活躍した大泥棒が掘ったものを更に掘って完成させたらしい。いかにも怪しいですと言わんばかりの店が立ち並び、喧嘩による怒号が飛び交うという荒れ具合だかそれを誰も気にしない、それが闇市である。
(これはこれで楽しいな)
リュウガは楽しんでいた。境遇のせいなのか所々人とは感性が違うのが見てとれる。普通こんな場所好き好んでくる者は極小数で基本は悪人達の巣窟なのだから。
「うきうきしている所悪いけどしっかりしてよね」
今回の依頼に明らかに関係ない未成年のルイがいるのは訳がある。
「ちょっと〜、凄いよ〜。エリクサーが1000万で売られるてる〜、しかもニセモノ〜」
アズサもいるのだ。イベントには参加しないが闇市の品に興味があるというので着いて来たのだ。その護衛としてルイが来た。闇市でもルイの名は知られており護衛にはもってこいなのだ。
「分かってるよ、行くぞアズサ」
まだ品物を見ているアズサを引きずってイベントへと向かう。
イベントは参加無料。飛び入りOK。しかし、命の保証はなし。ひたすらジョッキに注がれる酒を最後の1人になるまで一気飲みするという酒好きからしたら夢のようなイベントだ。
「結構いるな」
参加者は全員で18人。この中から勝ち上がらなければならない。
「酒好きのクズども〜。今月のうわばみの穴蔵始めるぞ〜。今回の賞品は有名画家の遺作。手に入れたければ飲み干せ〜」
司会者が現れ会場は盛り上がる。死人も出るイベントだというのに中々の盛り上がりだ。やはり闇市集まる人間はそういうのも楽しむ者ばかりなのだろう。
「今回飲む酒は〜、スピリタスだ〜!」
ウォォォォォ〜〜〜〜!!!!
スピリタスとはアルコール度数96度のウォッカである。あまりの度数にタバコの火ですら引火するため日本ではガソリンと同じく厳重な管理をするのだがここは異世界である。そんな事知ったこっちゃない。
「それでは〜開始〜!」
司会者の掛け声と共に酒が参加者の前へ運ばれていく。それを次々と飲み干していく参加者達にルイは、
「うっげ〜、何であんなもの飲めるの」
あまりのアルコールの匂いに顔を顰めている。反対にアズサは、
「いいな〜、サブマスは〜」
羨ましそうにリュウガを見ていた。
そんな2人の反応を他所に置いて酒をどんどん飲み干していく参加者達。酒好きの集まりだけあって5周目までは誰も脱落しないがそれもここまでだった。6周目に1人、8周目には3人とどんどん脱落していく。中には死んでいる者も出ているがイベントは止まらない。最後の1人になるまでは。そこに、
(何だこいつは?)
参加者の1人であるスキンヘッドに刺青のある男は隣に座る男に驚く。全然顔に酔いが見えないのだ。ほんのり顔が赤くなったりもせずに淡々と飲み干しているのだ。まるで水のように。その相手は勿論世界最強の男、リュウガ・レンである。この男は肝臓も最強なのだ。その上本当に酒好きでもあるので無敵状態なのである。
(バケモノめ! だかお前は絶対に勝てない)
驚きはしたが焦りはない。何故ならこのイベントは仕組まれたものなのだから。この男が所属している闇金融、それがイベントに出資しているためいくらでも酒に細工をする事が可能なのだ。毎回死人が出るのは勿論アルコールの為のものもあるがサシ勝負になった時は相手の酒に毒を混入して殺しているのだ。しかも自分が飲むのは度数の低い酒のため完全な出来レース。
(悪いな。これが闇の世界だ)
自分の勝利を確信して美酒に酔いしれる。そして勝負はいよいよ、リュウガとスキンヘッドの男とサシ飲み対決に突入した。
「ありゃ、不味いよ」
「何が?」
アズサは錬成眼で酒に毒が混入しているのに気づいた。
「何それ! サブマス! それ飲むな〜!」
ルイが叫ぶ。しかし、周りの歓声で声がかき消される。それでもルイは叫ぶ。
(サブマスの地獄耳なら届く)
そう信じて叫んだ声は確かに届いたが、
(まぁ、闇市だし。それぐらいやるだろ)
想定の範囲内だった。渡されたジョッキの酒を飲み干すリュウガ。それを見てスキンヘッドの男は勝利を確信してほくそ笑む。
(勝った!)
そう確信したが、
ドン!
と勢い良くジョッキを置くリュウガ、そして、
「次、頼む」
平然としている。
「はっ?」
驚くスキンヘッドの男。ルイとアズサも驚く。確かにリュウガは飲んだ筈だ。毒が混入された酒を。
(何故だ? 飲んだら100人中100人死ぬ猛毒だぞ)
焦るスキンヘッドの男その焦りは体調にも支障をきたしてとうとう21周目にジョッキが行こうとしたところでスキンヘッドの男が|逝った。度数の低い酒とはいえ20杯も飲めばどんな酒豪も死ぬだろう。
「勝者は飛び入り参加、リュウガ・レン〜」
リュウガへのスパンコールが観客から湧き上がる中酒好きの為のイベントうわばみの穴蔵は幕を閉じた。
◇
「何で大丈夫なのよ?」
ルイがリュウガに無事の訳を聞く。
「ガキの頃から少量の毒を摂取して耐性を身につけた。後は体質の問題」
そう答えた。幼い頃からの訓練にプラスして天性の肉体を持つリュウガは常人を遥かに上回る耐毒性を持っている。彼を毒殺するなら毒竜の毒でも持ってこいという事だ。その事に、
「「引くわ〜」」
ルイもアズサも引いていた。
「ほれ、とっと帰るぞ」
もう用はないとばかりに足早になろうとしたところに、
「待たんかい!」
大勢のガラの悪いのが目の前を塞ぐ。50人はいる。
「うちの者を殺っといておいそれと帰せるかい!」
命の保証が無い勝負だというのにそれに対してイチャモンをつける。それが闇市。だが相手が悪かった。
「あ〜、酔って加減出来ねぇから。怪我したくなかったら前どけろ」
その言葉を皮切りに一斉に襲い掛かる男達。ルイは勿論、新入りのアズサも動じない。むしろ相手に心で合掌する。
「今度こそ帰るぞ」
先程のように飲み比べの方がまだ勝機があった。今度のは勝負にすらならずただのイジメだった。相手が闇金融でも表の世界なら大問題の一方的な暴力行為だった。しかし、ここは闇市だ。怪我人の山を気づいても問題はない。今度こそ3人は闇市を後にしてギルドに帰った。
◇
「依頼達成って事でビール頼む」
「「「「まだ飲むの?!」」」」」
リュウガの発言に驚いたメンバーの声でギルドが揺れたとか揺れないとか。
作者も酒は飲みますが基本ビールにサワー系。後はたまにストロング系やマッコリ。カルーアミルクも大好きです。
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