21話 妖精&エリクサー
この世界には魔法の属性と同じように火、水、風、土、雷の妖精が存在する。妖精はモンスターには含まれずあくまで妖精というカテゴリーとして存在しており全ての属性共通して性別は女である。
「流石にドラゴンより強いって事はないだろ」
天空山を散策しながらリュウガは呟く。自分が使うとはいえエリクサーの素材集めには彼しかいない。何故かというと、
「妖精はね、男が好きなの。それも強くてイケメンなのがね」
アズサが妖精についてそう語ったのだ。妖精には女しかいないのだから当たり前と言えば当たり前だ。
「女が行くとどうなる?」
「殺すよ」
リュウガの疑問にアズサはさらりと答える。
「そうなると俺1人で天空山に行く必要があるな」
「エリクサーの錬成は錬金術師にとって名誉だからよろしく頼むよ〜」
「ギルドで待ってるから」
そんな訳で2人に見送られてリュウガは天空山に1人でいる。
エリクサーの素材の1つである天空山は標高10,000mにもなる山だ。そんな馬鹿げた標高の山に住むモンスター達も Aランクがひしめき合っているが薬草は簡単に手に入った。勿論モンスターに襲われる事もしばしばあるがそこは最強、全てを瞬殺した。
「ここか」
目の前に綺麗な泉が広がっている。その泉の中央に、
「あら? 久しぶりのイケメンね。私に会いに来てくれたの?」
(思ってたのと違うな)
リュウガが思っていた妖精というのは小人に翅が生えているというものだった。しかし、実際は普通の人間の女性の姿であり絶世の美女と呼べる容姿をしていた。だがもしここに魔法使いがいればその魔力量に驚愕する事間違いなし。何せその魔力量は剣聖に匹敵する。
「申し訳ないが会いに来た訳じゃないんだ。エリクサーの素材にここの水が欲しいんだが構わないか?」
おそらく断られるだろうがダメもとでお願いしてみる。
「ふふっ。イケメンのお願いでもダーメ♡」
案の定断られる。そして、妖精の周りから4本の水の柱が立ち昇る。
「久しぶりのイケメンなんだもん。一緒に遊びましょ!」
その言葉と共に水の柱がリュウガを襲う。
(避けないのかしら?)
妖精は動かないリュウガを不思議に思うが攻撃を止める気は全くない。死んだならまた新しいイケメンが来るのを待てば良いのだから。しかし、水の柱はリュウガに届く事はなかった。
「練式剣術奥義 ‘虚無’」
一歩も動かないで自分の攻撃を防いだリュウガに妖精は、
「凄いわ! イケメンで強いなんて! 私達妖精にとって理想の男よ!」
まるで子供のようにハシャグ姿を見てリュウガは、
(おっかねぇ)
恐怖した。死ぬ事にも恐怖しない最強の男がこの世界に来て初めて恐怖した。見た目は大人の女性にも関わらず内面は子供のようでいて純粋、故に残酷。
(遊びのつもりで人を殺す事ってのがここまでおっかねぇとはな)
リュウガ自身も何人も殺しをやってはいるが遊び目的で殺した事は1度もない。
と、色々思うところはあるがリュウガは次々と襲いかかる水の柱を迎撃して遂には、
『神凪』
妖精の首を刎ねる事に成功! したかに見えたが、
「凄いわ! 首を刎ねられるなんて初めてよ!」
どうやら体は完全に流体らしく刎ねても直ぐに戻ってしまった。
(これドラゴンよりヤバイだろ)
負ける事はないが勝つ事も出来ない。流石に不味いと思い冷や汗が流れる。
「ふふっ、楽しみましょう!」
妖精はドラゴンの姿をした水を作り出す。
『神射』
ドッパァーン!
ドラゴンが弾けた。業の名は ‘神射’ 突き業であるが神凪を雲耀(0.00005秒)にまで達した者ならば今のように大砲のような威力になる。
それを見て妖精は急に顔を赤らめながら、
「ねぇ、私あなたの事が好きになったわ。一生一緒に遊びましょ?」
プロポーズをしてきた。妖精とはそんな存在なのだ。遊びで殺そうとした相手を好きになる。それがこの世界の妖精の特徴なのだ。そんなプロポーズをリュウガは、
「美女からのお誘い、男としては嬉しいと思うが」
「そうでしょう。だったら」
嬉しそうにする妖精を、
「俺はお前みたいな精神がガキの女に興味ねぇ」
バッサリと振ってやった。その言葉は予想していなかったのか、ポカンとした表情を見せたが理解した瞬間に、
「なら、死んで! 私の物にならないなら殺す! 他の妖精の物にもさせない!」
その言葉と共に泉から何か飛び出して来た。それは先程まで相手していたのとは違い、リュウガが想像していた妖精の姿そのままであった。どうやら先程まで見せていたのは偽物で本物では無かったらしい。本気を出してリュウガを殺そうと出てきたのだがそれは悪手だった、
「あばよ」
言葉と共に ‘神凪’ を放つ。首が刎ねられる。刎ねられた首は先程までのようには元に戻らず、死体は空に消えていった。妖精が死んだら死体は残らず魔力となって空に消える。妖精の死とはそういうものなのだ。
「終わったな」
そう言って泉の水を汲み取り無事にエリクサーに必要な素材を手に入れてギルドへと帰っていった。
◇
無事エリクサーの素材となる、天空山由来の薬草、泉の水を手に入れたリュウガはギルドに戻ってきた。すると、
「マジか!?」
驚いた。ギルドの横に新たな木造建築が出来上がったているのだから。おそらく錬金術師であるアズサのための工房なのだろう。それが出来上がっていた。わずか半日で。
「建築士からしたら商売上がったりだろ」
改めてマイの魔法使いの技量に驚かされる。とりあえずは中に入ってみる。エリクサーを錬成して貰うために。
「いるか? 持って来たぞ、素材」
中に入るとそこには錬成に使うのであろう鍋や試験官、素材といったモノが整理されていた。元の世界で読んだ漫画やラノベにある錬金術師の工房まさにそれだった。
「流石だね、どう錬金術師の工房。良い出来でしょ」
マイが誇らしげに語る。
「立派だよ。流石は天才魔法使い様だな」
なんて茶化す。その様子を見ていたアズサは、
「いや〜、マイが凄いのは知ってるけど君もヤバいね〜。妖精相手に無傷で帰って来るなんてさ〜」
アズサが言うにはエリクサーが市場に出回らなくなったのは妖精が天空山の泉に住み着いてしまったからだそうだ。誰も妖精を相手に泉の水を持って帰れずにいた。そのためエリクサーは昔妖精が泉に住み着く前に錬成されたモノが市場に高値で売られるか闇市で法外な額で売られているモノしかない。
「それで妖精からどうやって泉の水を盗んだの〜?」
「あ? 盗む? 妖精なら殺したが?」
「へっ?」
どうやらアズサはリュウガが妖精の目を盗み泉の水を取ってきたと思っていたのだからまさかの殺した発言に驚きの表情を見せる。
「本当に!? 妖精殺しなんて歴史的にも誰も成し遂げるた事のない。偉業だよ」
「あ〜、確かに強かったな。だが剣聖クラスなら勝てない事はないだろ? それでも初なのか?」
純粋に疑問に思う。確かに妖精は強い。その上本体は隠れているがそれでも剣聖クラスの強さそして聖剣があれば勝てる筈。その疑問にはマイが答えてくれた。
「剣聖、というより聖剣使いは妖精とは戦えないという縛りがあるんだよ。初代剣聖が全ての属性の妖精から自分の持つ剣に加護を受けたんだよ。それが聖剣」
「成程。加護を授けた相手には逆らえないと」
マイからの答えに納得する。
「何はともあれ。サブマスター。エリクサーの錬成に取り掛かるよ。素材をテーブルに置いて」
言われるがままに素材をテーブルに置く。泉の水が入った試験官をアズサは眺める。
「うん。確かに天空山の泉の水だ」
「疑ってたのかよ、つーか初めて見たんじゃないのか?」
「そりゃこんなに早く持ってくるとは思ってないし何より君とは会ったばかりだ。疑って当然だよ。そして質問の答えだが錬金術師には錬成眼と呼ばれる眼を持っている者がいるのさ」
‘錬成眼’ それはごく一部の錬金術師が持つ眼である。特徴は見ただけでその素材が何なのか何に錬成出来るのかや錬成されたモノから素材を割り出す事が出来る眼である。この眼を持つモノは1流の錬金術師になる事が約束されている。それをアズサは持っているのだ。
「さて始めるよ」
素材の確認も済まして錬成に取り掛かる。テーブルには何やら書かれた紙が1枚ある、おそらく錬成陣だろう。他には鍋そしてリュウガが取って来た素材が並んでいる。
「見てても良いけど集中するから黙ってね」
言われてリュウガとマイは黙る。そしてリュウガは、
(楽しみだな)
内心テンションが上がっている。自分の怪我を治すのは正直どうでも良い。それよりも錬金術を見れる。魔法、錬金術、異世界らしくて気分が上がる。彼にとってはモンスター、妖精の討伐は獣退治と変わらないのだ。
錬金術に必要なのは錬成陣と魔力。そして知識が重要らしい。それでも誰でも錬金術師になれる訳ではなく学園に通っても1割しか正規の錬金術師にならないらしく、非正規の錬金術師もいてそいつらが錬成したパチモノが出回る事があるらしい。
『錬成』
アズサは錬成陣となる紙の上に鍋を置き、素材を投入して呟く。すると錬成陣が光る。1分程経っただろうか光が収まる。アズサは汗がびっしょりで息も荒い。どうやら思っているよりも錬成とはしんどいモノらしい。
「出来た、飲んでみて」
鍋から完成されたエリクサーを試験官に移しリュウガに渡す。
「ありがとう」
感謝を述べて一気に飲み干す。すると、
「凄いな」
身体の怪我が一瞬で消えた。包帯を取っ払っても問題ない。
「お〜。流石はエリクサーだね」
マイも驚く。それほどエリクサーの効果は的面で早かったのだ。
「いや〜、エリクサーの錬成は初めてだから失敗しなくて良かったよ〜」
「「はっ?」」
リュウガとマイの驚きの声が重なる。
「初めての錬成ってのは成功率が2割なんだよ〜。それから何回も錬成し直して成功率を10割にするんだよ〜」
どうやら錬金術というのは見た目とは裏腹にそれほど難しいモノらしい。
「何はともあれサブマスターも全快して錬金術師もメンバーに入ったんだ。これからNo. 1へ引き続き駆け上がるぞ〜!」
マイの言葉に2人は力強く頷いた。
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妖精
絶世の美女の姿をしているがそれは魔法で作られた偽物であり、本体は60cm位の女の子に翅が生えた姿である。これは属性全てにおいて共通である。