106話 新たな世界
ゼーリオを殺したリュウガの前に現れたのは生命神、フルールドリスであった。そんな彼女の口から語られるのは何か?
神界にてフルールドリスは牢屋に閉じ込められていた。理由は殲滅戦に乗り気ではないどころか邪魔を企んでいたのがゼーリオにバレてしまったからだ。
「生命を司るお前にとって殲滅戦が乗り気ではないのは分かっていたがこちらの配下の天使を殺そうとするとはな」
「彼らと約束しましたからね」
「はぁ〜、ギールスを殺したからあの場で龍共を殺さなかったのは見逃したが今回は許さん」
「だったらとっと始末してはどうですか?」
「始末は殲滅戦が終わってからだ。それまでお前にはこの牢屋に入ってもらおう」
フルールドリスが入れられた牢屋はゼーリオが創り出した特別なものだ。
「ここに入ってる者の力を我は行使する事が出来る。本来はお前の生命の力でギールス対策に使う予定だったが龍神の末裔もギールスと同様の力を持っているからな。丁度よい」
説明を終えてゼーリオは指の皮を噛みちぎりそこから流れる血から天使を5体ほど創り出す。
「逃げられると思うなよ」
こうしてフルールドリスは殲滅戦に参加出来なかったのだ。ギールスとの死闘を終えた際にフルールドリスはリュウガたちに地上側に有利になるように協力すると約束したのだが結局は殲滅戦を始める日程を遅らせる事しか出来なかった。
(日程を遅らせただけ良しとしましょうか)
牢屋の中にいても特に問題なしといった様子のフルールドリス。
(仮に天使を全て殲滅したとしてもゼーリオがいる限り地上のものたちに勝ちの目はない)
そう思うほどにゼーリオは絶対的存在なのだ。はっきりいって賭けなのだ。それも負ける事がほぼ確定した賭け。それでもギールスとの死闘でリュウガたちが見せた勝負強さに賭けたのだ。
(絶対ともいえるような強さを持ったゼーリオは何も戦いの神ではない。そこに勝機を見出してくれれば)
なんて事を思ったが、
「ダメでしたか」
牢屋にいるが何も能力を封じられたいる訳ではないので千里眼で地上の様子を見ていたがゼーリオによってリュウガと龍帝という地上の最大戦力であるが1人は死亡してもう1人は戦闘不能になっていた。
「あの2人は上位に神を超える。それでも最高神であるゼーリオには到底及びませんか」
残念ではあるが悔しくない。元々負けが確定していたような賭けに挑んだようなものだ。
「後は消化試合として遊びだしましたか。戦闘要員であった神たちは全滅したのに随分と余裕そうですね(とはいえあの2人さえ何とかしてしまえばそうなってしまうのは当然というものですね)」
残った地上の戦闘員では新代の龍皇であるスイがリュウガたちに迫る実力者であるがゼーリオには勝てない。2人が体力を削ったり傷を与えていたとしてもスイでは勝てないくらいの実力がゼーリオにはあるのだ。
「どうやら龍帝が戦線に復帰しましたが無駄でしょうね」
龍帝の復活。それもほとんど死んでいるところからの復活は神ですら成し得ない事だ。間違いなく最強と呼んでも差し支えない力を持っている龍帝であるが相手が悪過ぎた。ゼーリオは光速で動ける。それに対して龍帝は雷速でしか動けない。ゼーリオの下位互換でしかない。そして、ゼーリオは復活した龍帝を殺そうとするがそれを防いだ人物がいた。その人物を見てフルールドリスは目を見開く。
「あはは!! そうですか。末裔のために神の座を降りる道を選んだんのですね。龍神・練龍鬼」
ゼーリオの攻撃を防いで龍帝の命を救ったのはリュウガであった。首を斬られて頭と胴体が離れ離れになってしまっていたがそれも繋がっている。とはいえ大きな跡が残ってしまっているがそれだけだ。それ以外は完全な復活だ。おまけに、
「ギールスと同等の死の気配。あれなら生命の守りがあってもゼーリオを殺せる可能性が出ましたね。それにゼーリオの攻撃を防いだという事は光速に至りましたか」
形勢は大きく変わった。ゼーリオを止められる者が現れた事で龍帝は天使を皆殺しに出来る。
「今の龍帝にとってゼーリオとリュウガ以外は雑魚でしかないですね。後は光速の戦闘をどちらが制するかですね」
光速の戦闘が始まってからはフルールドリスには認識出来ない。それでもゼーリオが僅かに有利と考えていた。ギールスを始末するために考えていたゼーリオはその対策をリュウガに対して使えばいいからだ。それに対してリュウガは新たに手に入れた光速戦闘出来る体を使いこなさなくてはならない。リュウガは不利である。そんなリュウガをフルールドリスは信じた。
「先祖が神の座を降りてまで救った命、与えた力で負けるなどダサいにもほどがありますからね」
このフルールドリスの言葉は届かないがリュウガの死の気配が出力を増した。これによりゼーリオの生命の守りごと腕を斬り落として魔力と生命力を半分殺した。もちろんフルールドリスにはその瞬間が見えないが斬り落とされたゼーリオの腕を見てリュウガの勝ちを確信した。
「終わりですね」
ゼーリオは最期の悪足掻きとして天界にいるフルールドリス以外の神と天使から魔力と生命力を奪い取り地上を覆い尽くすほどの【裁きの光】を放つもそれでもゼーリオの終わりを確信する。どんなに強大な力であろうと【死】という絶対的な理の前には無駄なのを生命を司るフルールドリスだからこそ強く理解しているからだ。リュウガの放った最強の技【死双閃】によりゼーリオは自分の放った最強の技ごと殺されるのであった。ゼーリオが殺されたことによりゼーリオによって造られた牢屋は壊れてフルールドリスは自由の身となる。
「さて、分の悪い賭けでしたが私の勝ちでしたね」
怪しい笑みを浮かべて地上へと下りてリュウガの前に現れたフルールドリスは、
「終わりましたね。それではこれからの世界のお話といきましょうか」
リュウガに語りかける。
「全部が終わってから出てきやがって。結局協力は開始日を遅くするだけだった上に新しい世界の話だぁ? 寝ぼけた事言ってると殺すぞ」
殺意を向けられても平然とするフルールドリス。
「寝ぼけてなどいませんよ? それに人類にも利はあります。死んでしまった人たちを生き返らせます。勿論遺体が綺麗なものに限りますがね。更には貴方が中身の神だけを殺した際に寿命を縮めた人たちの寿命を回復させます」
「そんな事が出来るのか? というよりもしていいのか?」
死者の蘇生。これは禁忌とされる。そんな事を神とはいえしてもいいのかという疑問をぶつけると、
「問題ありませんよ。何せ神は私のみとなりましたからね」
「何?」
「ゼーリオは最期の一撃を放つ際に天界にいる私以外の神と天使から魔力と生命力を奪いましたからね」
「何でお前は無事なんだよ?」
「貴方が勝つことに賭けて事前に対策していたんですよ。それでも結構な生命力と魔力を持っていかれましたが問題ありません。回収しましたからね」
そう言ったフルールドリスから魔力が解放される。これには、
「ゼーリオ以上の魔力が現れましたね。何者ですか?」
「これは生命神だな。だが冥府であった時とは別モンだな。まさかとは思うが喰ったのか? 他の神を」
「つまり戦いは終わってないって事ね」
少し離れた場所にいたウェンたちは突然現れた魔力の大きさに様々な反応を見せて戦いが終わってない事を悟る。
「行く必要はねぇぞ」
ウェンとスイはリュウガの助けに行こうとするが龍帝に止められる。
「何故です? 主様はゼーリオと戦ったばかりですよ!! 助けなくては死んでしまいます!!」
「そうだな。だから行くのはオレ様だけだ。ウェンを任せたぞ。スイ」
スイの頭を撫でて雷速でリュウガの所に向かうのであった。
(とんでもねぇ力を感じるな。本当に戦死者を生き返らせるか分からねぇし殺すか)
刀に手をかけるリュウガであったが、
「来ましたか」
「誰がだ?」
リュウガの疑問にフルールドリスが答える前に答えが現れた。
「よう。助けに来てやったぜ」
「いらねぇよ」
「無理すんなよ。もう随分消耗したろ」
見た目では分からないがリュウガの体は光速戦闘によってボロボロだ。
「確かにとんでもない魔力量だがそれだけだ。ゼーリオほどの威圧感を感じない。今のオレ様なら殺せる」
「勘弁してください。殺し合いをしに来たのではないですから」
「だったら何しに来やがった」
「新しい世界について話たいんだとよ」
「新しい世界だぁ?」
「そうです。龍帝、カンムル。貴方も来てくれたのは丁度良かったです。貴方たち2人のどちらかには冥府の新たな神となって貰います」
冥府の新たな神になって貰うという言葉を聞いた瞬間殴りかかる龍帝であったが、
「はぁ?」
指一本で止められてしまう。
「驚く必要はありません。今の私には貴方が喰った雷神以外全ての神々の魔力が合わさってゼーリオを超えた神になったんですから。貴方程度の攻撃は余裕で止められます」
「舐めんな!!」
自分ごとフルールドリスを雷で攻撃するが、
「無駄ですよ。今の私にはこの莫大な魔力で凡ゆる攻撃を無力化します」
「クッソが!!」
雷刀・天裂による空間ごと敵を斬るという攻撃を繰り出す。しかし、
「何度も言わせないでください。今の私は凡ゆる攻撃を無力化すると」
天裂を首で受け止めるフルールドリス。そんなフルールドリスの背後にいつの間にかいるリュウガは上段斬りでフルールドリスを真っ二つにしようとするが、
「貴方の死を与える力ですら今の私には届きませんよ。まぁ、万全の状態なら即死には出来ずとも攻撃は入るでしょうから戦いにはなるでしょうけどね」
発言が終わると同時に魔力放出だけでリュウガと龍帝を吹き飛ばす。
「チクショウが!!」
リュウガがゼーリオに放った【死双閃】はとんでもない威力を持っていた。それを放ったリュウガにはもう余力がない。
「何故そんなに冥府の王になる事を拒むのですか? 冥府という世界の支配者になれるのは神ではゼーリオとギールスのみでした。それだけ神を選ぶ存在になれるのに拒む理由が分かりませんね」
「あんな陰気な所の支配者なんてごめんだね」
「同じく」
まだまだ殺る気満々の2人に、
「仕方ありませんね。生命の神ですので殺しはしたくありませんが冥府の王は1人で充分なのでどちらかには死んだ貰ってもう1人は四肢を捥いでから洗脳するとしましょうか」
「はっ、本性を表したな。そうまでして求めるお前の新しい世界って何だよ」
とんでもない殺気を放つフルールドリスに問いを投げかけるリュウガ。
「人類の管理を神がするんですよ。生殖を私が担当して冥府の王には利用価値のなくなった者に死を与えて貰います」
「馬鹿かよ。管理された人類を人類とは呼ばねぇよ。実験動物って言うんだよ」
「それの何が悪いのですか?」
「はぁ!?」
「そもそもあくまで生と死を管理するだけで生まれてから死ぬまでは何も干渉しませんよ?」
「利用価値のない者に死を与えるつったろうが!! 寿命まで子や孫と過ごすのも許さねぇつもりだろうが!!」
「当然ですよ。死期が近いのに生者の足を引っ張る者など利用価値のない者代表でしょう?」
「何を言っても無駄だぞ。リュウガ。こいつも結局は神なんだよ。人類が好きだなんだほざいてもそれはオレ様たちとは違う視点なんだよ。だからオレ様たちはこいつを殺すしかねぇんだよ」
「そうだな」
リュウガと龍帝は臨戦体勢を取る。そんな2人に、
「つまらない戦いに・・・・いや、戦いにもなりませんよ?」
「「知るかよ!!」
本当の最終決戦が始まる。
ゼーリオがまさかの前座となるようなバケモノになったフルールドリスにリュウガと龍帝は勝てるのか?? 次回本当の最終決戦!!
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