92話 宣言
開戦年になる前日には何かが起こる
戦争の始まる年の1ヶ月前となり運命の宿木メンバーは全員が集合していた。残り1ヶ月は各々のやり方での修行をしつつもギルド内での連携を取るために集まったのだ。そして、とうとう神との戦争が始まる年の前日になった瞬間。つまりは、0時になった瞬間に突然世界中に大神、ゼーリオの幻影が上空に現れる。
「夜中に来んなよ。ウゼェな」
心底ウザそうに頭をボリボリ掻きながらリュウガは起きて空を見上げる。その姿は奪ったガルダ王国の剣聖、カゲトラのままであった。その姿を目撃した者たちは絶望する。世界でも有数の、いや、もしかしたら1番である実力者として有名である剣聖が敵となっているからだ。カゲトラが敵となった事を知っているのは本当のごく一部だからだ。それに聞いていた者たちの中には信じていない者もいる。だがそんな者たちも信じるしかなかった。
「我はゼーリオ。この世界の神にしてその頂点だ!!もう知っているようだが我々神々は地上のモノ共を殲滅する。これは確定事項だ。明日の昼の12時に開戦とする」
「マジかよ!? 5年目のどっかかと思っていたが新年からかよ!!」
最悪の新年になりそうだ。
「最期となる今日を好きに過ごすが良い。明日から殲滅戦が始まるのだからな」
そう言ってゼーリオの幻影は消えるのであった。
「明日の昼ね。それにしても街の方が騒がしいな」
「仕方ないですよ。明日、お前らを殺しますと言ってるんですからね」
「お〜す。起きたのか、ゴウ」
「そりゃそうでしょ。朝のように明るくなってるんですから」
「そんなの関係なく寝てる連中がいるがな」
2階の寝室にてマイとヒカリは普通に眠っていた。
「別にいいじゃないですか。わたくしたちが今の宣言の内容を伝えればいいのですから」
ウェンの言う事ももっともであった。
「まぁ、それもそうだな」
納得したリュウガは2人におやすみを伝えて自室に戻る。
「準備はした。後は死ぬ気で殺るだけだな」
そう呟いて眠るのであった。そうして朝を迎えるとメンバー全員が揃った。勿論非戦闘員は既に避難している。その中にはヒカリもいる。ヒカリは暗殺者として活動していた事もあり同年代と比べると圧倒的に強く戦闘出来るのだがやはりまだ冒険者登録出来る年齢ではないので避難所に行ってもらった。ヒカリ本人は、
「一緒に戦う!!」
と言っていたが、
「駄目だ。というよりも国が許可しねぇよ。だがその方が都合がいい。お前は万が一避難所に敵が来たらお前が皆んなを守れ。出来るな?」
積極的には戦わせる事はしないがヒカリにも交戦許可をリュウガは提示した。それに対して、
「うん!!」
ヒカリは納得して受付嬢や料理人と共に避難するのであった。
「戦闘出来る奴は避難所に行って貰った。お前らも家族や恋人や友人に別れは言ったか?」
「何よ負ける気なの? 随分弱気じゃない」
「負ける気はねぇよ。ただ絶対なんてもんは存在しないからな。何せ相手は神なんだからな」
「それもそうだね。特にSランク冒険者は単独行動が決められているから何かあっても互いに助けられないのが痛いね」
最高戦力であるSランク冒険者は単独行動でありそれ以下の冒険者は5人編成となっている。
「ギルマスはどういう扱いになるんですか? Sランクになったとはいえ魔法使いという特性上単独は厳しいのでは?」
「そうだね。単独でも戦えるとはいえ基本は後衛職だからね。私は避難所になっている魔法学院の総指揮を学院長直々に任せられているんだよね」
非戦闘員の避難所として魔法学院と錬金術学院は使われる事になりその魔法学院の総指揮をマイが、錬金術学院の総指揮は騎士団からゴーレンが選ばれた。
「そんな訳だから守りは私に任せてね」
「だから安心して俺は暴れられる」
「一応この国に全体にはわたくしの結界もあるので派手に暴れても大丈夫ですよ。(とはいってもあくまでも他の国よりも被害が少ないだけでない訳ではないですがね)」
龍であるウェンが張った結界であっても相手が神である以上は絶対に被害が出る。しかし、張らない訳にはいかない。他のメンバーならまだしも神と対等に戦えるリュウガが本気で戦うなら結界は必須であるからだ。
「それからわたくしは別行動になります。スイと翁と共に行動します。それでは皆さん。さようなら」
そう言ってウェンはギルドから出て行くのであった。
「ちょっ、出発早すぎない!? もうちょっと何かあるでしょうが!!」
さっさと出て行ったウェンに文句を言うルイ。
「そこそこ長く一緒にいたとはいえあいつはあくまでも俺がいたからここにいただけで思い入れがある訳じゃないんだ。むしろ、ここまでいてくれて修行もしてくれた事に感謝するんだな」
「だからってさ〜」
「そんなに文句があるなら勝って生き残ったら言ってやれ」
「絶対に言ってやる!!」
やる気を見せるルイ。
「さてと、んじゃ各々の持ち場に移動開始だ。ここが人類の瀬戸際だ。全部を出し尽くせ。出し惜しみするな。そんじゃあ、またな」
リュウガの言葉に全員が安心する。「またな」つまりはまた会えると思っている事がたまらなく嬉しい。Sランク冒険者たちはともかくそれ以外のランクの冒険者たちにとっては神はおろか手下である天使にすら届かないかもしれない。そして役に立たないで死ぬかもしれないと思っていたがサブマスターであるリュウガは「またな」と言ったのだ。それが本心からの言葉なのかは分からないが自分たちもまた会えるように努力しようと思えた。こうして各々が持ち場へと移動するのであった。
「早くお前も行けよ。避難所の守りが1番重要だぞ。家族、友人といった心の支えとなる人間がいなくなれば戦えない人間が出るかもしれないんだからな」
「分かってる。だけどこれだけは言わせて。絶対に勝ってよ。リュウ」
「わーってるよ」
「死なないでよ。勝っても生きてなきゃ意味ないんだからね!! それじゃあまたね《・》」
「あぁ、またな」
こうして運命の宿木のメンバーは解散するのであった。次に会う時にここには何人がいるのかは神にすら分からない。そうして決戦の日が来たる。
次回から開戦ここから最終回まで突っ走るぞ!!
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